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ベールグラン王国まであと五日

 毎日長時間馬に乗っていたからだろうか。

 最近、足腰が強くなったような気がする。

 それに、気分が悪く足元がフラついていしまうせいでわかりにくいが、平衡感覚とかいうやつも鍛えられているかもしれない。

 自分の重心がどこにあるのか以前よりも把握しやすくなった。


 特に、気分の悪さが原因で転ぶことが格段に減ったのはありがたい。

 たまに脚に力が入らず倒れてしまうことはあるが、足元がフラついていても重心を意識するだけで転ぶことなく歩けるようになったのは大きな進歩だ。

 馬に乗ったあとしばらく歩くことすらできなかったころと比べるとまさに雲泥の差。

 自身の成長が喜ばしい。


 ……なんて感動しそうになった矢先に突然の転倒。

 受け身をとることもできず床に打ちつけた鼻が尋常じゃなく痛い。

 幸いなことに折れてもいなければ血も出ていないみたいだが、倒れたときに鼻頭からゴキッという音が鳴ったのが気になる。

 あれは一体何の音だったのか。

 早く鼻の状態を確認したいが、痛すぎて目を開けられない。

 手で触れようにもこんな痛みの走る鼻に触れるのは躊躇われる。


 こんな痛みに耐えなければいけないくらいならいっそのことおでこを強打して気絶でもした方がよかった。などと泣き言が浮かぶも今更もう遅い。

 結局、指でちょんと触れることすらできず、鼻に触れないよう両手で鼻の周辺を覆いながら過ごすこと数分。

 鼻の状態ならテッドに確認してもらえばいいと気づいたのと同時に、フィナンシェが情報収集から戻ってきた。






 フィナンシェの持ち帰ってきた夕飯に手をつける。

 まだ少し鼻が痛むが食べる分には問題なさそうだ。


「部屋に入ったらトールが床で寝てるからびっくりしちゃった。もしかしてベッドから落ちちゃったの?」

「まぁ、そんなところだ」


 寝相が悪かったり寝ぼけてたりして床に落ちたわけではないがフィナンシェがそう思っているのならそれでいいだろう。

 受け身もとらずに顔面を強打してその痛みに泣きそうになっていただなんて恥ずかしくて言えないし、まだベッドから転がり落ちたと思われた方がマシだ。


《俺の鼻は本当に問題ないんだな?》

『しつこいぞ。もう何度も問題ないと伝えているだろう』

《何度も確認したくなるほど痛かったんだ。このくらいは勘弁してくれ》


 テッドに確認するのは今ので八回目だったか。

 たしかにしつこいかもしれない。

 しかし骨にヒビすら入っていないと言われてもあれだけ勢いよく打ちつけあれだけ痛かったのだ。本当に何事もないのかと心配にもなる。


「それで、ヒュドラの討伐状況はどうだった? 何かわかったか?」

「えっとね。討伐軍はリクール砦でヒュドラを足止めしてるみたい。今のところは犠牲もなくヒュドラに攻撃を続けられてるみたいだよ。あ、かばんの中に地図があるからちょっと待ってて…………えーと、ほらここ。王都がここで、討伐軍がヒュドラに攻撃を開始したのがここ。そこからこう移動して最新の情報ではここにいるみたい」


 自分のかばんからベールグラン王国の簡易地図を取り出したフィナンシェが指を差しながら説明してくれる。

 この地図には載っていないが俺たちが今いるのがたしかこの辺だったはず。

 ということは、ヒュドラはこの町とは反対方向に進んでいるのか。

 どおりでこの町から避難しようとしている者の気配が少ないわけだ。


 気絶したままこの町に入ってこの宿に運ばれ、目が覚めたあともこの部屋から一歩も出ていないからこの町の詳しい状況はわからないが、この町はベールグラン王国に近い位置にあるにもかかわらず外から聞こえてくる声や音は他の町と変わらない。

 それこそ平穏なリカルドの街を思わせるくらいの落ち着いた声と生活音が聞こえてきている。

 音しか判断材料はないが、町中は慌ただしくなく、かといって人がおらず静かなわけでもない。

 この町の人々が活気に溢れた平穏な日常を送っているように聞こえるのはヒュドラがこの町から離れるように移動しているからみたいだな。


「ベールグラン王国まであと五日だったか? さすがにこれだけ近づけば詳しい情報も入ってくるんだな」

「でもこれは五日以上前の情報だから今は別の場所に移動してるかも」

「そうだな」


 フィナンシェが持ち帰ってきたのは最新の情報。

 とはいえ、その情報がこの町に届けられるまでに五日はかかってしまっている。

 討伐軍がヒュドラに攻撃を開始してからの数日間にヒュドラが移動した距離と方向を考えると、今はこのリクール砦とやらのさらにその先、この辺りにいる可能性が高いだろうか。


「討伐軍はヒュドラをここに誘導したいみたい。ここで決着をつけるつもりなんだって」

「ああ、それでこう移動していたのか」


 フィナンシェが指差したのは俺が今ごろヒュドラと討伐軍はここにいるのだろうなと思っていた場所のさらに先。

 討伐軍はこの場所に罠かなにかを準備してヒュドラを仕留めるつもりでいるらしい。


「俺たちが討伐軍に追いつくのは何日後になりそうだ?」

「うーん、早くて八日後かな?」


 早くて八日後。

 つまり、あと八日は馬に乗らないといけないのか。


 それとノエルのことも気になる。

 フィナンシェが何も言いださないということはノエルの情報は何もなかったんだろうが今ごろどこで何をしているのやら。

 俺たちと同時期にリカルドの街を発ったのだからノエルもこの辺りにはいると思うんだが……。

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