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打算にまみれた決断

 若干の静けさのあと、ギルド長から「おい、いいのか?」と声をかけられる。

 その言葉の意味は「ノエルを追わなくていいのか?」ということなんだろうが……。


《テッド、ノエルは今どこにいる?》

『すでに感知範囲外だ』

《だよなぁ》


 テッドの感知範囲内にいないということはノエルはすでにギルドの一階に辿り着いている。ということは今から追っても俺たちが一階に着くころにはノエルはギルドの外。


 ノエルの隠密技術は高いからな。

 ギルドの中ならまだ見つけられる可能性もあるが、ギルドを出られてしまったらもうお手上げだ。

 おそらくノエルは俺たちに見つからないように行動するだろうし、この広い街中で本気で姿を隠しているノエルを見つけ出すことは不可能に近い。

 街の出入り口を見張っていれば見つけられる可能性はあるがその出入口も一つではない。

 俺とフィナンシェだけですべての出入り口を見張るなんて到底できやしないし……。


「はぁ……」


 今日は本当にツイてない。

 自分の口から漏れ出た溜息を確認し、そう思う。


 ノエルのことは苦手ではあるが嫌いではない。

 パーティを組んでからまだ十日ちょっとだがノエルの考え方には賛成できる部分や尊敬できる部分もあった。

 人を見下したように接してくるあの態度は好きではないが、初めて出会ったときに強く感じた苦手意識はもう持っていない。

 あの無駄に高く感じられる自信もそれに見合うだけの努力と実力の上に成り立っていたし、人一倍魔力に敏感なせいで通常の二倍以上苦労するハメになっても、それでもテッドの魔力に慣れようと毎日頑張っていた姿も目に焼き付いている。

 最近はノエルがパーティに馴染み始めたという実感もあった。


 なにより、ため息が出たということは俺自身ノエルがパーティを抜けたことに対して思うところがあったということ。

 おそらく、俺はいまショックを受けている。


 初めは勘弁してくれと思っていたノエルのパーティ加入だったが、パーティとして実際に活動してみると案外悪くなかった。

 ノエルは魔法や魔術だけでなく冒険者の知識にも精通していてその実力も高かった上に、ずっと一人で活動していたフィナンシェとはちがって何度か他人と一緒に依頼を受けたこともあるらしく連携に関しても問題が生じないくらいには上手くいっていた。


 無理やり組まされたパーティだったが、どうやら俺はいつのまにかノエルをパーティの一員として認めていたらしい。


 ことあるごとに自分と俺の実力を比較するようなことを言ってきたり些細なことで突っかかってこられたりと面倒くさいところも多かったが、ノエルと一緒に冒険者として活動していて楽しくないわけではなかった。

 ノエルのその高い実力や冒険者としての知恵は頼もしく、参考になるところも多かったし、こんなことを思ってしまうのはアレだがノエルの底抜けな自信の高さは一種の劇のようにも見えて面白くもあった。


 ただ、ノエルにパーティに残っていてほしいかと訊かれると、「残ってほしい」とすぐに答えられるほどの好意は持ち合わせていない。

 だからノエルがこの部屋を出ていったとき多少の寂しさは感じたものの追おうとはしなかった……のだと思う。


 ノエルは頼りになるが、パーティを抜けたいと言うのであれば引き留めるほどの仲でもない。

 だが、……。


「トール、いいの? 私はこのままお別れなんて嫌だけど」

「……」


 フィナンシェの落ち込んだ声。

 普段元気な分、その静かな声音が余計耳に残る。


 俺も、このような別れ方は好きではない。

 別れるなら別れるなりに、もっと後腐れのないようにしたい。

 しかし、今からノエルに追いつこうとするのならそれこそベールグラン王国に現れたというヒュドラのもとに行くしかない。

 そしてノエルと仲直りをするためだけに命を懸けられるかというと……。


 結局はフィナンシェの声に返す言葉もなく、口を開こうとしてまた閉じるしかない。


《テッドはどうだ? ノエルと別れたくないか?》

『決断を他人に任せるな。自分で決めろ』

《お前は人じゃないだろ》


 テッドが言っているのはそういうことではない。

 それはわかっているが、自分一人ではこの気持ちに整理をつけられそうにない。

 ここでテッドが『今すぐ追いかけろ』とでも言ってくれればヒュドラ討伐軍への参加に踏み切れたかもしれないが、テッドはそれをよしとしなかった。

 背中を押してくれるでもなく、いつものように素っ気ない返事をくれただけ。


 テッドは俺に決断を委ねたみたいだが、フィナンシェはどうなんだろうな。


 フィナンシェの性格からして今すぐにでもノエルを追いかけたいと思っているはず。

 だがフィナンシェはまだこの部屋にいる。


 フィナンシェは俺の決断を待ってくれているみたいだが、これは俺にノエルを追うか否かの決断を任せているのか、それとも俺がノエルを追わないと決断したら俺を置いてノエルを追いかけるつもりなのか。

 場合によってはフィナンシェともここで別れることになるかもしれない。

 とはいってもフィナンシェとは別れることになったとしても喧嘩別れのようにはならないだろうしノエルと仲直りしヒュドラも倒したらまたこの街に帰ってくるとは思うが、パーティは一度解散することになるだろうな。

 そして一度解散したらもう二度とフィナンシェとはパーティを組まないかもしれない。


 二人と命。

 どちらの比重が大きいか。

 そんなの、二人の方が大事に決まっている。


「……仕方ないか。ギルド長、ヒュドラに関する詳しい情報をくれ」

「おう、ここにあるぞ!」

「トール!!」


 そもそも俺はモラード国でノエルに命を救われている。

 命の恩には命で返すしかない。

 院長からも『もらったものはもらった分だけ返しなさい』とよく言われたもんだ。


 まぁ、ヒュドラの討伐に俺が貢献できる気は全くしない上に、仲直りをしに行くのが恩返しになるとも思わないが。

 このままノエルを一人で行かせてもしノエルがヒュドラに殺されでもしたら死んでも死にきれないからな。


 それに、この街では前回倒したヒュドラの肉片からヒュドラについての研究が進められている。

 ギルド長がいま机の上に置いた紙に書かれているその研究結果を頭に叩き込んでいけば死亡率も少しは下がるだろう。

 その情報は討伐軍にも届けられているはずだし、それに加えてトーラや護衛騎士もいる。

 十分な情報と戦力が揃っているのだからヒュドラの討伐はかなりの高確率で達成されるはず。

 きっと俺が前線で戦う必要もないにちがいない。


 ……なんて、俺がノエルに会いに行くと決めたのはそんな打算があったから。

 純粋にノエルと仲直りがしたいからとか、ノエルが心配だからというわけではない。

 ましてやヒュドラによる被害を減らすためとか、そういった崇高な精神のもとに決断したわけでもない。


 だから、フィナンシェもギルド長も、そんな「その言葉を待ってました」みたいな目でこっちを見てくるのはやめてくれ。心が痛む。

 話によって改行・行空けのタイミングや文体が違うのはその日の気分で文章を執筆しているからというのもありますが、ネット小説の書き方を模索しているからでもあります。

 この作品が完結したらすべて統一するように全話改稿するかもしれません。(しないかもしれませんが)

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