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新パーティ二度目の休日

 ノエルがパーティに加入した初日に決めた、五日に一度の休日。

 浮遊魔術によってダンジョンまでの往復時間が短縮されたおかげで今回もちょうど五日ぶりにその休日を迎えることができたわけだが、さて何をしようか。


「フィナンシェは今日の予定ってもう決めてるのか?」

「うん、久しぶりに顔を出しておきたいところがあるんだ~。あ、トールたちも一緒に来る?」

「いや、遠慮しておく」

「そっかぁ~」


 ご機嫌な様子でベッドの上で金貨の枚数を確認しているからどこかに行くんだろうなとは思っていたが、やはり行先は決まっていたか。

 この感じだとたぶん結構な値が張る飲食店にでも行くのだろうし、飲食となるとテッドはともかく俺は付き合えそうにないな。テーブルマナーとやらもまだ覚えてないし。

 フィナンシェについて行って一日を過ごすというのは無理そうだ。


「テッドはどこか行きたいところあるか?」

『特にないな。美味い飯さえくれればどこでもいい』

「まぁ、お前はそうだよな」

『何を考えてえいるのかはだいたい見当がつくが、休息日というのは何をしてもよい日なのだろう? ならばやりたいことをして適当に過ごせばよいではないか』

「それはそうなんだけどな。その適当が難しいから悩んでるんだ」

『ふむ、よくわからんな』

「そうだろうな」


 テッドの言う通りやりたいことをして過ごせばいいのだろうが、最近は満たされた生活を送れているせいか何もしたいことが思い浮かばない。

 宿にも食事にも満足しているし娯楽に関しても充実している。

 美味しいものを食べたいだとか立派な部屋に泊まってみたいだとか、人魔界にいた頃に憧れていたことはほとんど達成できてしまっている。

 これほど恵まれた生活を送れているというのに、これ以上なにを望むというのだろうか。


「じゃあ私そろそろ行くね! 夜までには帰るから!」

「おう、いってらっしゃい」


 普段とは違い武器も防具も一切身に付けていない私服姿のフィナンシェがそう言い残して部屋を出ていく。


 フィナンシェは行ってしまったしノエルはどこで何をしているのかわからない。

 一人で冒険者ギルドに行ってみるのも悪くはないと思うが、結局は何もせずに帰ってくることになりそうだしな。


 いっそのこと今日一日この部屋の中でのんびり過ごすというのはどうだろうか。

 腹が減ったときだけ外に出て何かを買って、それ以外はずっとこの部屋の中にいる。

 テッドと話して一日を終えるというのもいいかもしれない。


 ただ、せっかく一日自由にできるのだから日中は外に出て何かをしたいという気持ちもある。

 しかしそうなると俺一人ではどこに行ってよいのかわからない。

 この世界に来てからもテッドと俺だけで街中を歩いたりしたことはあるがそれはすべて食べ歩きが目的。

 今日は食べ歩きたい気分ではないし、金に余裕はあるとはいえ最近はテッドに自由にさせすぎた感じもしている。テッドの食欲がこれ以上肥大化するまえに節制させた方がいい。


「やっぱり食事を抜きにして予定を立てるのは難しいな」

『食事ならさっき食べたではないか。それともまさか昼飯を抜く気か?』

「……食べ歩き以外の目的で一日外出するのは難しいと思っただけだ。昼食を抜くつもりはないから安心しろ」

『それなら構わん』


 食事を抜きにして、という言葉に反応して怒りそうになっていたテッドをなだめながら窓の外に目を向けてみるも、窓の隙間から微かに漂ってくる肉が焼けたような良い匂いが鼻腔をくすぐるだけ。

 結局は食べ歩き以外で一日を潰せるような案は出てこない。


 五日前の休日はフィナンシェについて行っただけだったから楽だったが、いざ自分で予定を立てようとしてみると中々上手くいかないもんだな。

 さっきから思考が堂々巡りしてしまっている。

 ここが人魔界なら孤児院に行ってチビたちの面倒を見ているだけで日が暮れるんだが……。


「チビたち、元気かなぁ」

『なんだ、恋しくなったのか?』

「そんなんじゃないが、やんちゃなヤツも多かったからな。バカみたいなことして怪我でもしてないかと心配になっただけだ」

『心配せずともお前より馬鹿なやつはいない』

「そういうことじゃないだろ。それに俺はそんなにバカに見えるか?」

『見える。お前もよく言ってるだろ。俺はバカだ、と』

「いや、自分が頭いいとは思ってないがさすがにチビたちには負けないと思うぞ?」

『どうだろうな』

「そこまで言うか。それなら俺も……」


 っとと、こんなこと言い合ってる場合じゃないな。

 チビたちと俺、どちらの方が頭が良いかなんて今となってはもうわからないし、確かめようもない。

 そんなことを考えてる暇があるならこのあとの行先でも考えた方がいい。

 それに向こうにはあの院長がいる。

 院長がいればチビたちが怪我するようなことにはならないだろう。


「知り合いに会いに行こうにも筋肉ダルマたちは依頼でこの街を離れているらしいし、カラク工房も五日前に行ったばかり。おっちゃんも懐中時計の再現が難しいと嘆いていたからしばらくは邪魔しないように工房に行くのは控えることになってるし……誰か他にわざわざ会いに行くような仲の知り合いいたか?」

『あとはシフォンくらいだな。国が違うが』

「だよな。さすがにブルークロップ王国まで一日じゃ行けないからなぁ」


 知り合いに会いに行くのが無理なら五日前の休日を参考にするか?

 といっても、五日前は蚤の市とカラク工房、あとは食堂くらいにしか行ってない。

 カラク工房には今は行かない方がいいし、蚤の市のあの人混みにテッドと俺だけで突っ込むのはちょっとな。初めて行ったときみたいにまた酔って気分が悪くなっても誰も助けてくれないだろうし。

 残ったのは食堂だが、これも食べ歩きみたいになるだけだしな。


『今日の予定に困っているのならとりあえずシアターか公衆浴場に行ってみてはどうだ? どちらも一時間以上いられるだろ』

「ああ、たしかに。気分転換にもなるしな。そのあとの予定はそのあと考えればいいか」


 時刻は昼前。

 テッドからの助言に従い、パパッと荷物をまとめてから宿を出る。


 その後は昼食をとったあとにシアターへ行き、そのまま公衆浴場へ。

 シアターでたくさん笑い、公衆浴場で身も心も元気になったおかげで夜はぐっすりと眠ることができた。

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