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浮遊魔術による飛行

 ノエルの操る浮遊魔術に身を任せ空を飛ぶ。

 四日前に初めて飛んだときは落ちたら危険なのではないかと不安にもなったが二度目となるとその不安もだいぶ薄れた。

 空を飛ぶ感覚に慣れたからというのもあるだろうが、ダンジョン奥地でノエルの魔術に対する信用が高まったのも関係しているだろう。

 一撃で何体もの魔物を仕留めるだけの力を出すことができ、それに加えて繊細な魔力制御もできる。

 そんなノエルの実力は認めているし、魔術に関する情熱が物凄いこともひしひしと感じている。

 ゆえに、おそらくであるが落下の心配はない。


 まぁ、四日前カナタリのダンジョンへ向かうことになった際に「アタシの魔術で行くわよ!」と提案されたときはその移動手段に疑問を持ちもしたが……。

 空を飛ぶというのがどんなことなのかは想像できずとも、高いところから落ちれば怪我をする、ひどいときは死に至るということは俺でも知っていたからな。

 ノエルから「確かに浮遊魔術が開発され始めた当初は魔力切れや制御ミスによる落下事故もあったらしいわ。けど今は使用者を地面まで安全に下ろすための『墜落防止術式』が組み込まれてるから大丈夫よ。あ、使用者には術者だけじゃなくて術をかけられた者も含まれるからアンタも安心しなさい」と言われ、「それなら」と試しに飛び始めた直後は地面に身体が触れていない感覚に慣れずに後悔もしたが、結果的には何の問題もなくダンジョンまで辿り着くことができた。

 なにより、馬とちがって酔わずに済むのが良い。


 浮遊魔術での移動は馬よりも遅いが歩くよりずっと速い。

 リカルドの街から歩きで片道三日かかる距離を一日で移動することができる上に長時間飛び続けても気持ち悪くなることはなかった。

 現にいまも過ぎ行く村や街道を歩く人がだいぶ小さく見えるのを受けて「むかし聞いた物語に人間の何倍もの大きさを持つ巨人という種族が登場していたが、その巨人たちが見ている景色はこんな感じだろうか」などと景色を楽しむ余裕もある。

 さらに俺とフィナンシェは体力を使うこともなく楽ができ、馬を借りる必要がないため馬代も浮く。

 浮遊魔術によって生じる利点は多い。


 欠点としては空を飛ぶ魔物や地上からここまで届くような攻撃を放つ魔物に襲われた際にノエルくらいしかまともに対処できる者がいいないことだが、このあいだのスタンピードの影響でこの辺りの魔物が減っているおかげか今のところはその心配もない。

 他にもノエルは魔力を消費し、魔術の制御にもある程度集中しないといけない欠点があるが、四日前に飛んだときはダンジョンに辿り着いたあともノエルは疲労の色を一切見せなかった。

 いまも呑気には鼻唄を歌っているみたいだし、一日飛ぶ程度の魔力消費や魔力制御ならノエルにとっては大したことないのだろう。


「あ、リカルドの街が見えてきた! ほら、トール、ノエルちゃん、街があんなに大きく見えるよ!」


 飛行中は風やらなにやらの影響で声が聞き取りづらかったり寒く感じたりするという説明を事前に受けたが、ノエルの魔力への造詣が深く魔力制御能力も高いおかげか、そんな感じはまったくしない。

 リカルドの街を見つけてはしゃいでいるフィナンシェの声もよく聞こえる。

 空気抵抗も完全に打ち消されているようで走るときに感じる息苦しさや正面からの風もまったくない。


 前方に目を向けると壁や柵もない、明らかに無防備そうな巨大な街が目に入る。

 今となっては見慣れたが、街を取り囲む透明な結界によって守られたあの街はやはり異様で、そして大きい。

 下から見たときも大きく感じたが、上から見るとその巨大さがよくわかる。

 なんというか、下から見たときとはまた違った迫力があるな。 


「たしかに、さっきまで通り過ぎてた村なんかと比べるとだいぶデカいな」

「そうだよね! おっきいよね!」

「そろそろ下に降りるわよ」


 ノエルの声が聞こえてすぐに下がり始める目線の高さ。

 見えているモノが段々と近く、大きくなっていく。

 そしてノエルの制御の下、周囲に誰もいない地に下ろされる。


「なんか足の裏に違和感があるな」

「アンタこのあいだも言ってたわよ、ソレ。ま、アタシも初めのうちは慣れなかったけどね」

「地面に足がついてると不思議な感じがするよね。立ってるのに浮いてるような揺れてるような」

「わかってると思うけどここからは歩きよ。転ばないように注意しなさい」

「お、おう」

「トール、ふらふらしてるけど大丈夫?」


 ほとんどの人間は空から人が下りてくる光景に慣れていない。

 そのため人目について驚かせてしまわないよう配慮されて着地したこの場所は街から少し離れている。

 ノエルの言う通り、転ばないように注意しないとな。


 それから十分ほどを徐々に抜けていく足の裏から伝わる違和感と格闘しながら歩き、リカルドの街に辿り着いたのはやっとまともに歩けるようになった数分後。


 リカルドの街からカナタリのダンジョンまで往復二日。

 さらにダンジョン内で約一日半。

 ダンジョンに入るまえとダンジョンを出たあとにとった睡眠時間を含めておよそ四日ぶりのリカルドの街。

 依頼を受けたときは歩きで行くことになると思っていたためパーティを組んでから二度目となる次の五日に一度の休息日は早くても七日後かと思っていたが、思ったよりも早く帰ってこれたもんだ。

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