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気にも留めていなかった大事

「【虐殺者】ってなんだ? そんな呼ばれ方をするようなことをした覚えはないんだが?」


 生まれてからこの方一度も虐殺なんてした覚えがない。

 そもそもそんなことができるほどの力も持っていない。

 なのに、なぜそんな二つ名が生まれたのか。


「アタシもよく知らないわ。アンタのことなんだからアンタの方が詳しいんじゃないの?」


 まぁたしかに。

 と言いたいところだが、この件に関しては完全に初耳だし本当に身に覚えがない。

 おそらくスタンピード関連の噂話に尾ヒレがつきまくった結果そう呼ばれるようになったんだろうと推測はできるが……街に戻ったら調べてみるか。


「っていうか、いつのまに俺のことを調べていたんだ?」


 ノエルとは知り合って間もない。

 俺から自分の二つ名について語ったこともなければノエルがパーティに加わってからは朝と夜以外ほとんどの時間を俺やフィナンシェと一緒に行動していたはず。

 ノエルが自由に行動できる時間といえば朝に俺たちと合流する前や夜に俺たちと別れたあとくらいだが、その時間を使って調べたんだろうか?


「そんなの、街に来てすぐにそこら辺にいた冒険者やギルド職員を取っ捕まえて話を聞いたわよ。ギルド長からも話を聞いたわ」

「へぇ、ノエルちゃんそんなに一生懸命トールのこと調べてたんだ~」

「へ? あ、ち、ちがうわよっ! アタシが調べてたのはコイツじゃなくてこのパーティのこと! アタシが入ってあげることになるパーティがどんなパーティなのか調べていただけよ!」

「でもノエルちゃんがこのパーティに入ろうと思ったのはトールを追いかけてきたからじゃないの?」


 フィナンシェから何の他意もない純粋な感想と疑問を聞いてノエルがきょろきょろと視線を彷徨わせ始める。


「ハァ!? お、追いかけてないわよこんなヤツ。アタシがこのパーティに入ろうと思ったのは、えーと……そうアレよ! 世界一の魔術師になるという目的のためにはパーティを組んだ方がいいと思ったからよ! パーティじゃないと受けられない依頼もあるから名を上げるためにはパーティを組んだ方がいいのはわかるわよね? ただ、これまではアタシが加入するのに相応しいパーティがなかったの。その点、フィナンシェさんたちのパーティなら実力は及第点だし魔法つかいもいないみたいだから丁度いいと思って……」

「けどノエルちゃんギルド長室で『アタシの方が上だってことをはっきりとわからせるために純然たる力の差を見せつけに来てあげたのよ!』ってトールに言ってたよね?」


 段々と顔が赤く染まっていくノエルが焦ったように早口で捲し立てるもそれに被せるようにフィナンシェが新たな質問をし、さらにノエルの顔が赤くなる。


「そ、それはついでよ。そう、ついで! アタシの方が上だってことは疑いようのない事実だけどコイツはそれをわかってなさそうだったからパーティに入るついでにそのことをわからせてあげようと思って……べつに、コイツがいるからこのパーティに入ったわけじゃないわ。パーティに入るつ・い・で・に! コイツに身の程をわからせてあげようと思ったの。本当にそれだけよ! アンタも変な勘違いしないでよね!」

「いや、勘違いと言われても困るんだが……」


 勘違いもなにも、ノエルがパーティに入ろうとした理由なんてどうでもいい。

 それよりも今みたいに事あるごとに敵意を向けてくるのをやめてほしい。

 ノエルの実力は申し分ないどころかこっちからぜひともパーティに加入してくれと頼みたいくらいに高いし、これで変に突っかかってさえこなければ完璧なんだが……。


 というか、フィナンシェが急に会話に入ってきてノエルを茶化すようなことを言ったせいで話が逸れたが、ノエルが俺のことを調べたのはリカルドの街に到着してすぐ、俺やフィナンシェがまだモラード国からの帰途にいたころということでいいのだろうか。

 たぶん俺たちのパーティに加わってからも少しくらいは聞き込みなんかをしているんじゃないかと思うが、よくわからない相手とはパーティを組めないというのも一理ある。俺たちのパーティに入る前に俺たちのことを調べたというのは間違いではないだろうし、ノエルの持っている俺たちについての情報はそのときに仕入れたものがほとんどなのだろう。


『右前方、ケチャフル鉱が埋まってるぞ』

《ケチャフル鉱? なんだったっけ、それ?》

『冒険者ギルドが高値で買い取っている柔らかい鉱石だ。そのくらい覚えておけ』

《柔らかい…………あぁ、あれか。魔法玉の原料になってるやつか。どこだ? ここら辺か?》

『あと七センチ左だ』

《よし、ここだな》


 ノエルが「あー、もういいでしょ! この話はもう終わり!!」などと慌てたように騒いでいる中、会話の流れをまるっきり無視して念話を飛ばしてきたテッドから告げられたのはケチャフル鉱の存在。

 まぁ、ノエルは話題を変えたいみたいだしケチャフル鉱は新たな話題としてうってつけだろう。

 それにケチャフル鉱ならどんなに小さくても昼飯一人前くらいの値にはなる。

 ノエルの魔法があれば簡単に掘り出せるだろうし小遣い稼ぎとしてもちょうどいい。


「ノエル、ここにケチャフル鉱がある。魔法で掘り出してくれないか?」

「ケチャフル鉱がそこに? なんでアンタにそんなことがわかんのよ」


 いや、そんな疑うように細めた目で見てこなくても……。

 そういえばもう普通に目を合わせてくれるようになったな。

 テッドに近づく訓練をしているおかげで恐怖に耐性でもできたか?


「俺じゃなくてテッドだよ。テッドがここにケチャフル鉱があるって言ってるんだ」

「スライムが? ……そういえばアンタ、たまにそのスライムと意思疎通しているような場面があるわよね?」

「会話してるからな」

「え、できるの? 会話、スライムと?」

「そりゃ親友だし」

「トールとテッドは会話ができるんだよ! すごいよね!」

「スライムと会話……ありえない、と言いたいところだけどそれなら納得できることもあるわね。本来、カードから戻したとしても言葉の通じない魔物に言うことを聞かせることは不可能。けど、人語を解す魔物もいないわけじゃない。そういう魔物にはカード化の法則にのっとって言うことを聞かせることもできる。そのスライムもそういう人語を解せる魔物の内の一体なのだと思っていたけれど、コイツとだけ会話が成立しいるということはむしろコイツがスライムの使う言語を理解している可能性の方が……」


 フィナンシェの言葉もあってか俺とテッドが意思疎通できることは事実であると判断したらしいノエルが急に難しい顔をして自身の顎に指を当てながら小声で何かを言い始める。

 ぶつぶつと呪文のように唱えられている内容はよく聞き取れないがその表情と断片的に聞こえる情報から俺とテッドに関して考察しているのだろう。


 というか、もしかして……。

 俺とテッドが会話していてもフィナンシェはまったく疑問に思っていないみたいだったから気がつかなかったが、もしかして魔物と会話できるということはこの世界ではすごく珍しいことなのではないだろうか。

 小首を傾げながらこちらを見てくるフィナンシェを視界の端に映しつつ、今もぶつぶつと何かを言い続けているノエルを見てそう思った。

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