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虐殺者

 俺やフィナンシェがモラード国に行っていたあいだカナタリのダンジョン奥地に入った冒険者はいない、そのため魔物の数が増えているはず、増えすぎる前に一度間引いてきてほしい。

 そう言われてやって来てしまったカナタリのダンジョン奥地。

 このような危険の高い依頼はせめてノエルがテッドに近寄れるようになってからと思っていたのだが、やる気満々のフィナンシェとノエルに見事押し切られてしまった。


 いざとなったらノエルから五メートル以上離れればテッドをかばんから出せる。

 そしてこのダンジョンの魔物ならそれだけで無力化することができる。

 それはわかっているが、テッドがかばんの中にいるというだけで通い慣れたこのダンジョン奥地もまったく知らない場所のように見えてしまう。


「――だからアタシはこう言ってあげたの。やる前から諦めてるんじゃないわよ、って。そのおかげで持ち直すことができてなんとか切り抜けられたのよ」

「へぇ~、ノエルちゃんかっこいい!」

「そうよ。アタシはかっこよくてかわいくて頭も良くて品行方正で、そしてなによりも美しいのよ! アタシと肩を並べられる人間なんてこの世にはいないんだから!」

「そっかぁ。だからトールに執着してるんだね」

「なっ、なんのことかしら? アタシがこのパーティに入ったのは生意気なソイツの鼻っ柱をへし折ってあげるためで、もしかしたらソイツがアタシよりも強いんじゃないかなんてそんな弱気なことはこれっぽっちも考えてないんだからね!!」


 見慣れてるはずの見慣れない景色を歩く中、死への恐怖を感じている俺のすぐ目の前で楽しそうに会話をしているフィナンシェとノエルの姿がひどくおかしなものに映ってしまう。

 警戒は怠っていないのだろうがよくもまぁそんなに呑気にしてられるもんだ。

 何度もここを訪れているフィナンシェはまだわかるが、ノエルはカナタリのダンジョンに入ること自体初めてだと言っていたのに随分と気を抜いているように見える。

 ギルドや俺たちから聞いたこのダンジョンの魔物の種類と個々の強さ、それとここに来るまでに倒した魔物の実力から気を張らなくても問題ないと判断したのかもしれないが、万が一の事態に陥らないためにももう少し警戒心を強めてほしい。

 というか、そんなに大きな声を出したら……。


「《風刃》」


 案の定、ノエルの声を聞いて遠くから近づいてきた十二体の魔物をノエルが軽く手を振るだけで一掃する。


「弱すぎね。話にならないわ」


 ノエルが倒したのはすべてゴブリン。

 一体一体は武器を持った大人なら危なげなく倒せる程度の強さだが、それが群れると途端に危険性が増す。

 十二体のゴブリンとなるとフィナンシェでも倒しきるのに五秒、俺なら二十分以上はかかるだろう。しかも俺の場合は確実に少なくない手傷を負う。

 時間をかければ倒せないこともないとはいえ、いま接近してきていたゴブリンたちは十分脅威となり得る数だった。

 戦闘になれていない者が相手をすれば、たとえ武器を持った大人が十人いたとしても勝てるかどうかわからない数。

 それをまだ本格的に戦闘が始まる前に腕の一振りで倒し尽くしてしまうとは……。


「なによこれ、全部ゴブリン? これじゃあ大した稼ぎにはならないわね」


 さらにカードを拾う際、倒したゴブリンたちの中に上位種が混ざっていなかったことを嘆いている姿からはまだまだ余裕が感じられる。

 実際に魔物を近づけることなく、魔物たちの攻撃範囲の外から一方的に攻撃を与えカード化させた場面を見たあとではその言葉が嘘でないと強く確信でき、また、さっきのように遠くから簡単に仕留められるのであれば怖いモノなんて何もないだろうとも思う。


「そういえばノエルは【炎華】なんて二つ名を持っている割には炎系の魔法や魔術をあまり使わないよな。どうしてだ?」


 ノエルがこのダンジョン奥地を余裕の顔で歩いていたことに納得がいき、これなら俺もそこまで怖がらなくてもいいかもしれないと思うと急にそんな疑問が浮かんできた。


 これまでは草原での採取や討伐依頼が多かったため延焼しないように使用を控えていたのかと思っていたが、燃えるものがない洞窟の中でも全く使用しないというのはおかしいように感じる。

 二つ名の中に「炎」という字が入っているくらいだ。

 ノエルの得意な魔術は三猿討伐作戦のときに見せてくれたようなあの凄まじい炎なのだろう。

 あのとき森を燃やしまくっていたあの大火力と離れた位置にいても感じられた自分が焼かれているのではないかと錯覚しそうになるほどの熱量は尋常じゃなかった。

 それに、よく考えたらノエルほどの魔力制御技術があるならばたとえ草原であったとしても延焼させないことは可能だろう。仮に延焼したとしてもすぐに水属性の魔法で鎮火することもできる。

 だというのに、なぜ得意な属性をつかおうとしないのだろうか。

 そう思っての質問だったが、ノエルからの答えはえらく単純なものだった。


「アタシ、火属性が特別得意なんて一言も言ったことないわよ? アンタがいま言った【炎華】っていうのはアタシの炎魔術の派手さを見た人から勝手にそう名付けられただけ。他にも【氷華】、【雷華】、【神童】、【魔導を極めし者】なんて呼ばれることもあるわね」

「つまりノエルが得意なのは炎系ではない?」

「それも違うわね。アタシの得意属性は全属性。この世のすべての魔法・魔術を自由自在に操る者、それがアタシ――いずれ世界一の魔術師になる女よ」

「はぁ、なるほどな」

「アンタだって【ヒュドラ殺し】とか【虐殺者】とか、色々な呼ばれ方をしているらしいじゃない。それと一緒よ」


 さすがにすべての属性を満遍なく使いこなせるわけではないだろうがこれだけ自信を持っているのだ。全属性をかなり高いレベルでつかえるというのは本当なのだろう。

 それだけの才能とそこに至るまでの努力、どちらも相当なものだろうなと、そう感心したあとにノエルから告げられたのはいつのまにか付けられていた俺の二つ名。

 しかも前者の【ヒュドラ殺し】は俺の通り名としてよく聞くことがあるが、後者の【虐殺者】なんていう物騒な二つ名は聞いたことがない。

 気づくといつのまにか増えている二つ名。

 どうして二つ名が増え続けているのかはよくわからないが、どうやらまた俺の知らないうちに身に覚えのない二つ名が増えていたらしい。

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