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魔法制御

 フィナンシェが持ってきたのは採取依頼と討伐依頼。

 採取依頼は街からそう遠くない場所に生息している毒草を集めろというもので討伐依頼はその毒草を主食としている魔物を討伐しろというもの。

 どちらも同じ場所で達成可能な依頼だし効率は良さそうだな。

 報酬も悪くない。


「いいんじゃないかしら?」

「俺もこれでいいぞ」

「では、受付に行きましょう」


 二つの依頼を受けることにノエルと俺が賛同したのを聞いたフィナンシェがサッと身をひるがえして受付へと向かって歩き出す。

 いつもとはちがって手際が良くしっかりとした口調のフィナンシェに慣れないのかノエルは微妙な顔をしながらフィナンシェの後ろ姿を見つめていたが、あっというまに受付を済ませギルドを出た瞬間にいつもの調子に戻ったフィナンシェを見てさらに変なモノを見るような顔を深めた。






「まずは私の実力を見せてあげるわ!」

「おい、叫ぶな」


 自分の中でとりあえずの折り合いをつけたのか街を出るまでには平常通りの表情に戻ったノエルが討伐対象のアシッドウルフを見つけるなり笑顔でそう叫ぶ。

 そして当然、大きな声を出せばこちらの存在に気づかれる。

 叫んだことを注意したときにはもう遅く、五匹で群れて行動していたアシッドウルフの一団とその一団とは離れた場所にいた三匹のアシッドウルフが一斉に俺たちの方を振り向き駆け寄ってくる。


「あのくらい一人で余裕よ! アンタたちは黙って見てなさい!」


 アシッドウルフは口や爪から酸を飛ばすことで有名な魔物。

 動きも素早く、すでにだいぶ近寄られてしまっている。

 もういつ酸が飛んできてもおかしくない。

 そう思い、自信満々に叫んでいるノエルを無視して腰から剣を引き抜こうとした瞬間、向かってきていた八匹すべての首が胴から切り離される。


「え?」


 何が怒ったのかわからず見間違いじゃないかと自分の目を疑っている内に八つの首だけを残し、すべての胴体が消え去る。

 ……カード化した?


 一番近くまで寄ってきていたアシッドウルフの首のすぐ後ろには一枚のカードが落ちている。

 何をしたのかわからなかったが、おそらくノエルが一瞬で討伐したのだろう。


「どう? これがアタシの力よ!」


 ノエルが調子に乗っていることからもこれがノエルの仕業であることは間違いない。

 ただ、「どう?」と訊かれても何を言えばいいのかわからない。


 一瞬で八ヶ所に同時攻撃を仕掛けたことと、アシッドウルフたちの首と胴体が一撃で切り離されたことはわかった。

 しかし、どうやってそれをしたのかがまったくわからない。

 瞬きもせず、駆け寄ってくるアシッドウルフから一瞬たりとも目を離していなかった。

 にもかかわらず、俺はその攻撃を見逃してしまった。

 まさか一瞬でこんなことになるとは思わず、呆気にとられるばかり。

 口から言葉が出ない。


「今のは風刃だね」

「ふうじん?」

「そうよ! いまのは風属性で最もポピュラーな魔法《風刃》! あまり高い威力の出せない攻撃魔法として有名だけど、アタシにかかればこんなもんよ!」

「ノエルちゃん、すごーい!!」

「このくらい当然よ!」


 俺の疑問の声は聞こえていたのかいないのか。

 フィナンシェとノエルが二人だけでどんどん盛り上がっていく。

 俺からの反応を待っているのか、ノエルがチラチラとこちらに目線を向けてくるのが少しうざったい。


「フィナンシェ、風刃って?」

「ノエルちゃんも言ってたけど風魔法の一種で風の刃を飛ばして相手を斬る魔法だよ。普通は一度に一つしか飛ばせないはずなんだけどノエルちゃんは一度にいくつも飛ばせるみたいだね。すごいよねー」

「なるほど」


 風属性の魔法は見えにくい。

 だから何が起こったのかわからないうちに終わっていたのか。


 それにしても、一度に八つも魔法を飛ばすなんて凄いな。

 しかも残された首の断面を見れば風刃はアシッドウルフの真上から降ってきたことがわかる。

 本来、魔法は自分を起点にしてしか行使することができない。

 自分のすぐ近くで発動した魔法を相手に向かって真っすぐ飛ばすのが遠距離攻撃魔法の一般的な使い方。

 魔法の制御能力次第では途中で軌道を変えることもできるが、ノエルがそれをしたかどうかは不明。

 アシッドウルフたちの真上で魔法を発動させ首を落としたのか、それとも自身の近くで発動させてからアシッドウルフたちの首を落とせるような軌道を描くように操ったのか。

 どちらにせよ、一瞬で八匹も仕留めるなんて凄い発動速度と制御能力だ。

 ノエルの実力が高いことは知っていたが今までは派手な魔法や魔術ばかり見せられていたからな。

 ここまで繊細な魔法技術を持っているとは思っていなかった。


「アンタからは何かないの? アタシの魔法を見てどう思ったのか正直に言ってみなさいよ」

「凄かったんじゃないか?」

「そうよね! アタシの方がアンタよりも凄いわよね! まぁそれは当然のことなんだけどっ……って、なんで疑問形なのよ!!」

「はいはい、凄い凄い」

「なによその態度はッ!!」


 何を言っていいのかわからず、つい適当に返事をしてしまったら語尾がおかしくなってしまった。

 これは、面倒くさいな。

 今からでも修正がきかないだろうか?

 きかないだろうな。


「きーっ! 見てなさい! 次はもっとすごいもの見せてやるんだから!」


 その後は俺やフィナンシェも多少戦いはしたが、最終的にはノエルが魔物を倒しテッドの感知任せに俺たちが毒草を採取するという役割分担をしたことで依頼はあっさりと達成することができた。

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