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パーティの方針

「え!? アンタたち同じ部屋に泊まってるの!?」


 二時間にも及んだノエルのパーティ加入を祝した歓迎会後、「今後の活動について話し合わないといけないわね! アンタの部屋に行くわよ!」と声高々に宣言して宿まで上がりこんできたノエルがそう叫ぶ。

 部屋に入りベッドが二つあることに首を傾げたあとフィナンシェからの説明を受けて初めてそのことを知ったかのように叫んでいるが、歓迎会中やここに来るまでのあいだに伝えていなかっただろうか?


 うーん、軍隊蟹のいる渓谷の橋がノエルの魔術によって架け直されたものだったとかノエルがカードコレクターに怒りをぶつけているあいだにいなくなっていた攫い屋二人の足取りはまだ掴めていないとか、そんな話は聞いた気がするんだが。

 俺はもともと優れていなかった体調がノエルの襲来によって余計に悪化したせいで話すような気分じゃなかったし、フィナンシェは多少会話もしていたみたいだが、ほとんどは運ばれてくる料理を次々に平らげていくフィナンシェの横でノエルがいかに自分が素晴らしいかを語っていただけだったような気がする……。

 たしかに、歓迎会はノエルの独演会状態だったから俺たちのことをノエルに伝える機会はほとんどなかったかもしれない。


 俺とフィナンシェを交互に見やりつつ、段々とその表情を驚愕に染めていくノエルを見ながらそんなことを思う。


「こんなやつと一緒で大丈夫なの!? 何か変なこととかされてない!?」

「変なこと……?」

「男女が同衾なんて問題しかないじゃない!」

「同衾はしてないよ? 別々のベッドだし」

「あーもう、そういうことじゃないでしょッ!」


 かばんを下ろし、ベッドに座りながら謎の言い争いを始めた二人を眺める。

 見た感じ、勝手に白熱しているノエルにフィナンシェがとぼけたような答えを返しているだけ。

 言い争いというよりは大人と子供の意見の食い違いのようになってしまっている。まるで話がかみ合ってない。


 実際のところ俺もノエルが何をそんなに焦ったようにフィナンシェに詰め寄っているのかわからない。

 ノエルは何か危機意識的なものを持ってフィナンシェに忠告しているようにも見えるが、俺とフィナンシェがが同じ部屋で生活していることに何か問題があるのだろうか?

 男女がどうとか言っていたが、孤児院にいたときは男女関係なく同じ部屋で生活したりもしていたしな……。

 たぶんこれもあれだな。人魔界とこの世界の価値観の違いってやつだな。

 この世界には男女が同室になるのは避けた方がいいとかそういう言い伝えでもあるのかもしれない。

 その割には宿のおっちゃんたちは俺とフィナンシェに対して何も言ってこないが。






 ノエルが落ち着いたのは俺がもう寝たいと思い始めた頃。

 フィナンシェの「ノエルちゃん、パーティの今後の活動については話し合わなくていいの?」という言葉を聞いて、若干息を切らしたノエルが「そういえば、そうだったわね」と言ってから。

 そこからパーティの方針やらなにやらと色々な話し合いが続いているわけだが、そんなことより俺はもう寝たい。


「なぁ、パーティのことは明日以降ゆっくりと話し合わないか?」

「いいえ、こういうことは早めに話し合った方がいいわ。しっかりしないと後々問題になるもの。今はまだ昼過ぎだし、夜までには決めちゃいましょ」

「そうだよ、トール。話し合いは大事だよ」


 早く休みたいという気持ちを全面に匂わせながら発言してみたが即座に却下。

 これからこのパーティで活動していくというのなら別に明日になってから話し合っても遅くはない。今決めなくてもかまわないんじゃないかと思うが、二人は今日中に決めたいらしい。

 ここは残念だが俺だけ話し合いに参加しないというわけにもいかないだろうし、もう少しだけ頑張ってみるか。

 なんてことを思ってからもう一時間。

 俺は一応起きてはいるが話し合いにはほとんど参加していない。

 たまに意見を求められたときに何か言うだけで、あとはすべてフィナンシェとノエルの間で決められていく。

 俺がいる意味あるのだろうか?


「じゃあ、五日に一度は休息日を設ける。討伐依頼よりもダンジョン探索や薬草採取、雑用依頼を優先。護衛依頼や他国なんかへの遠征が必要な依頼は応相談。しばらくの方針としてはメンバー三人とス、スライムとの連携を密にすること。報酬は等分で基本的には人助けになりそうなことをやっていく。こんなところでいいかしら?」

「うん。私はそれでいいよ。トールとテッドは?」

「……え? あ、ああ。俺もそれでいいぞ。テッドも……それでいいって」

「なら決定ね。一応写しを渡しておくからちょっと待ってなさい」


 うつらうつらと舟を漕いでいたらいつの間にか話し合いが終わっていたらしい。

 ノエルが紙にまとめた話し合いの決定事項を読み上げ、フィナンシェがそれに賛同。

 俺もフィナンシェに促され、つい「それでいい」なんて言ってしまったが大丈夫だっただろうか?

 たぶん初めから聞けていたと思うから聞き逃しはないと思うが、少し不安が残るな。

 テッドはいつものように『好きにしろ』と言ってきただけだったし……。

 フィナンシェが笑顔で賛同しているくらいだから変なことは書かれていないと思うが、ノエルが新たに取り出した紙にいま言ったことを書き写してるみたいだからそれを確認すればいいか。

 ……うん。問題はなさそうだな。


「はい、写しよ。これはアンタたちが持ってなさい。それとこれも。その地図の黒点がアタシのこの街での住居だから、何かあったらそこまで来なさい」


 ノエルから手渡された紙をもう一度読み直すもやはり問題はない。

 休息日や連携以外は今までに俺たちがやっていた活動と同じ。

 むしろこれまでは毎日のように依頼を受けていたからそれと比べるとだいぶ楽になっている。

 地図の方も、この宿からノエルの住居までワープゲートを使えばそんなに時間もかからなそう。


「本格的な活動は明日からね。それじゃあアタシはもう帰るから。明日の朝にギルドで集合にしましょ」


 新参者にもかかわらずまるでパーティリーダーのように明日の予定を決め、それを俺たちに告げたノエルが部屋から出ていく。

 その姿は堂々としていてだいぶ様になっている。

 聞き忘れてしまったが、やはりこのパーティに入る前はどこかの国の城にでも仕えて偉そうにふんぞり返っていたんだろうな……。人を使うのに慣れてそうだし。


 というか今まで気にしていなかったが、このパーティのリーダーって誰なんだ?

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