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帰る場所、変わるもの

 キャンプ地に戻れたのは昼頃。


 よくわからないが俺たちは国賓? とかいう扱いになっていたらしい。

 いくら強いと言っても急にいなくなれば問題になるし心配もされる。

 俺たち三人が部屋に荷物を残したままいなくなったことで慌てていた兵士たちに事情説明なんかをしてから部屋に残していった荷物が無事か確認。荷物が減っていないことを確認したあとは疲れに身を任せすぐに寝てしまった。


 起きたのは夜になってから。

 昼飯は兵士たちに事情を説明しているあいだに食べることができたが、夜通し動き続け朝食は抜きだったこともあって起きたときには腹からすごい音が鳴っていた。

 魔物が大口を開けて獲物を求めているかのようなその音を聞きながら兵士たちに用意してもらった夕飯を口にして一息。

 その後は俺よりも早く目覚めていたフィナンシェとノエルが部屋まで訪ねてきて、他国から集まっていた俺たち以外の二十九人はすでに自国への帰途についていることや俺たちは疲れが癒えるまでいくらでもキャンプ地に逗留してよいと伝えられていることを聞いた。


 その国の中で起こった事件はその国の秩序によって裁かれる。

 それが内界でのきまりらしい。

 俺たちを襲った者たちに関してもモラード国の判断に任せることとなり、事情聴取もキャンプ地にいたモラード国の兵士が行った。

 念のため俺たち三人もその場に随伴させてもらい、聴きたかったことはすべて直接確認した。

 結果、三流カードコレクターの男の裏に三流カードコレクターをそそのかした何者かがいそうなことや最後に俺を連れ去ろうとしたアッセ・スレッドという男がカードコレクターではなくベールグラン王国に仕える者であったということはわかったが、三流カードコレクターに俺を襲わせた者の正体やベールグラン王国が俺を攫おうとした思惑までは判明しなかった。


 結局どうして襲われたのかわからず、まだ何者かに狙われているのではないかという不安を抱えたまま帰ることになったのが襲撃を受けてからから三日後。

 メンバーは行きと同じで俺、テッド、フィナンシェの三人。

 何かと俺に突っかかってきたノエルは俺たちが発つ一日前には国へ帰還。

 それにより出発までの約一日を静かな環境で過ごせたため体調は万全。

 これなら馬酔いしないかもと思いつつキャンプ地の兵士たちに見送られた十分後、俺はフィナンシェの腰にしがみつきながらいつものように気を失った。

 それからもフィナンシェの操る馬車の背で何度も気を失い、気分を悪くしながら進んだ帰り道。途中、迂回していくしかないと思っていた渓谷に橋が架け直されていたおかげで行きよりも短い日数でリカルドの街まで辿り着くことができたが、その間に俺が馬に慣れるということもなく。リカルドの街に辿り着いたときには馬による連日の移動のせいで死にそうなほど気分が悪かった。


 その後一日はやけに筋肉質なおっちゃんが経営している定宿のベッドの上で寝て過ごすこととなり、そしてその翌日であるところの今日。

 朝のうちに今回の一件についてを以上のようにしたため、まだ多少気分がすぐれないもののさすがにギルドに結果報告をしに行かなくてはいけないということで外に出て、わざわざギルド長室まで来たわけなのだが……。


「遅かったわね!」


 扉を開けて中に入った途端に飛んできたそんな声。


 腕を組んで憎たらしい笑顔を浮かべているこの金髪の少女は一体何者だろうか?

 ノエルのようにも見えるがあいつは自分の国に帰ったはずだしここにいるわけないよな?


「アタシもアンタたちのパーティに加入することにしたから! これから世話になるわ!」


 ノエルが俺に対して「世話になる」なんて殊勝な挨拶をしてくるわけがない。だからこいつはノエルではない。

 だがしかし、見た目はノエルにそっくりだ。


 ……いや、まるで「どうよ!」とでも言いたげな顔をしながら自信満々に反らされた控えめに言ってあまり豊かではない胸に偉そうな立ち姿。この態度。


「お前、ノエルか?」

「キーッ! お前って呼ぶなって言ったでしょ! なに! バカだからアタシの顔なんてもう忘れちゃったの!?」


 ああ、この猿型魔物の鳴き声みたいな怒りの金切り声。

 お前って呼ぶなというこの言葉。

 間違いなくノエルだ。

 どうしてこいつがここに……待て。


「いまお前、パーティに加入するって言ったか?」

「だからお前って呼ぶなって言ってるでしょ!」

「いや、そうじゃなくてパーティ」

「そうよ! アンタとの勝負はまだついてない。それはアンタも嫌でしょ? だからアタシの方が上だってことをはっきりとわからせるために純然たる力の差を見せつけに来てあげたのよ!」


 ……はぁ。

 俺は一度だってノエルと勝負をしたつもりなんてないし、ノエルの言っているその勝負に関しても俺の負けでいいと伝えたはずなんだが。第一、純粋な力比べで俺がノエルに勝てるわけがない。

 俺のために来てあげたみたいなことを言っているが、完全に自分のために来てるだろ、これ。

 いまも「これでいつでも一緒。思う存分、実力の差をわからせてあげるわ」と怪しく笑っているし。


 ノエルが俺を敵対視する原因になった魔力はテッドのものだったと襲撃を退けたあとにも何度も説明したはずなんだが、まだ俺が強いとでも勘違いしているのだろうか?

 そもそも俺やフィナンシェの許可なしに勝手にパーティに加わるなんてできないはずなんじゃ……。


「ギルド長」

「そういうことだ、頑張れ」

「パーティメンバーの許諾なしにパーティ加入なんてことが」

「頑張れ」


 ダメだ。何があったのか知らないがギルド長は頼りにならない。

 有無を言わさぬ迫力だけは立派だがノエルに対して怯えているのが簡単に見て取れる。


「歓迎するよノエルちゃん! そうだ、このあとノエルちゃんの歓迎会しようよ!」


 フィナンシェは当然のようにノエルの加入を歓迎している。


 テッドの意見はこういうとき当てにならないし、実質三対一。

 賛成派多数で俺の負け。

 俺としてはノエルがそばにいると気が休まらないし疲れもするから同じパーティなんて御免蒙りたいが、ギルド長とフィナンシェの様子、それと意地でも譲らなそうなノエルの態度を見ていると抵抗するだけ無駄に見える。


「アンタ、なによその顔。……あ、わかったわ。アタシがパーティに加わったことが嬉しすぎて泣きそうになってるのを堪えてるのね? アタシと一緒にいられる幸運を神に感謝したくなる気持ちはわかるけど、アンタの涙やアンタからの感謝なんていらないわ。そんなことより早くアタシの方が上だってことを認めなさい」


 特に、当の本人に至っては苦虫を噛み潰したような顔をしていたであろう俺の顔をどう曲解したのかにやにやと笑いながらそんなことを言う始末。

 手に負えない。


『腹が減った。報告とやらはまだ終わらないのか?』


 案の定、テッドは自分の腹のことしか考えていない。


「とりあえず、ノエルのことはギルド長に依頼の達成報告をしてからだ」

「仕方ないわね。少しだけ待っていてあげるわ」

「報告終わらせたら飽食亭で歓迎会だね!」


 ギルド長への報告後、結局は三人の勢いに押し切られてしまう形でノエルがパーティに加わることに。

 泣く泣く了承してみたものの、その後行われた歓迎会の食事は胃が痛すぎてほとんど食べることができなかった。

 リカルドの街に帰還したということで三猿+αのダララのダンジョン篇(仮題)終了です。

 次回からはノエル加入の新体制でしばらくのんびりした話を続けていこうと思ってます。

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