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新事実と新たな危険の予感

 もともと2話に分かれていたものを急遽1話にまとめたのでいつもより1000字くらい多くなってます。

 テッドが姿を現したことで起こった騒動、第一次テッドショックともいえるこの騒動は、遅れて登場したギルド長と名乗る厳つい男の手腕によって収められた。

 ギルド長と名乗る男は随分と信頼されているらしく、この男が二階から降りてくると同時に周囲に向かって「騒ぐな、みっともない!」と一喝、続いて「でもスライムがっ」と騒ぐ冒険者の声に対し「問題ない」と一言発しただけでギルド内にいた冒険者やギルド職員たちがおとなしくなった。


 それにしても、いくらギルド内を鎮めるためとはいえ「騒ぐな、みっともない!」という第一声はあんまりなんじゃないかと思った。

 あのとき、冒険者やギルド職員の目の前にはスライムであるテッドがいたのだ。街を一瞬で消し飛ばしてしまえると言われている存在が目の前にいて騒ぐなというのは無理な話だろう。


 まぁ、そう思った次の瞬間にはギルド内が静まり返ったわけで、ギルド長に対する信頼やその統率力の高さには舌を巻いたが、そのさらに後に続いた言葉には頭を抱えさせられた。

 これ以上の混乱を起こさせないためか、なぜか俺とテッドが任務のためにこの街にちょっと立ち寄っただけの特殊部隊の一員ということにされてしまった。どこの部隊か、どんな任務かを尋ねる者がいなかったのはまだスライムを見たショックから立ち直れていなかったというのもあるだろうが、スライムとその連れである俺のことを聞くのが怖かったのだろう。

 正直、俺としては特殊部隊の一員なんて説明じゃなくてもっとこう、特務機関のエージェントとか、そんな感じでもう少しかっこよく紹介してほしかった。


 今回の一件についてはギルド長によってすぐに緘口令が敷かれたため、しばらくはテッドのことが噂になることはないだろうとのこと。

 それでも、完全に情報を止めるのは難しかったり、カナタリのダンジョン内で冒険者に見られたりもしているからそのうち情報は広まるだろうということだったがその時は遠くの地へ移動すればいいだけのことだ。

 俺としては何の問題もない。






「さて、そろそろ話を聞かせてもらおうか」


 そして今、俺とテッド、フィナンシェは冒険者ギルド三階にあるギルド長室にてこの冒険者ギルドの長、アドルフと向かい合っていた。

 ギルド長室の奥に置かれた机にギルド長、その机に向かい合うように置かれたソファの上に俺とフィナンシェが座っているのだが、どうにも距離が遠い。というのも、ギルド長がテッドに近づくのを嫌がったために机とソファの位置が三メートルほど離されているからである。

 三メートルと言えばフィナンシェもテッドと出会ってからしばらくは三メートル以内に近づいてこなかったなあ、なんて思っていたら衝撃の事実が発覚した。

 なんと、この世界の生物はスライムが周囲を見るために放出している魔力の感触が苦手らしい。スライムの出す魔力に触れるととてつもなく嫌な感じがするらしいのだ。ギルド長も、うわさには聞いていたが実際に体験するのは初めてだと言っていた。

 フィナンシェに確認してみると「えへへ、伝えてなかったっけ?」とアホなことをぬかしやがった。そういう重要なことはもっと早く伝えてほしかった。


 そうはいっても、カナタリのダンジョンにいた頃から少し変な気はしていたのだ。スライムの姿絵が街中に飾ってあるという話は聞いていたから人間がテッドを見て逃げ出すのは理解できた。でも、スライムを見たことがないであろうダンジョン産の魔物がテッドを見て逃げ出すのはなんでだろうかと疑問に思ったこともあった。

 知ってしまえばなんてことはない。あの魔物たちはテッドの魔力を感じ取って逃げていただけだった。

 どうりで、人間も魔物も結構近くまで近づいてきてから急に逃げ出していったわけだ。ダンジョン内が暗いからある程度近づかないとテッドを目視できないのかな、なんて考えていたが全然違った。

 あの距離、だいたい三メートルくらいの距離がテッドの放出する魔力が生物をびびらせられる範囲だったのだ。

 テッドの魔力自体はもう少し遠くまで届いているはずだがテッドは弱いからな。たぶん三メートルより先の魔力は微弱すぎて感知できないのだろう。


 それにしてもさっきまでのギルド長の慌てようといったら面白いなんてもんじゃなかった。

 ギルド長室に入室するまではテッドにかばんの中に隠れ直してもらっていたのだが、ギルド長室に入っていざテッドをかばんから出してみるとギルド長が急に壁際まで走り出したのだからこちらとしては「いきなりどうした?」という気分だった。

 その後も壁に縋りつきながらテッドを指差して「きゅきゅきゅ急にどうしたっ、やる気か!? この街を滅ぼす気か!?」なんて裏返った声で言うもんだから何事かと思ったもんだが、テッドの出す魔力に怯えているのだと気付いてからは滑稽な姿に見えた。

 さっきまで「騒ぐな、みっともない!」などと言っていた人物と本当に同一人物かと疑いたくなるくらい威厳のない姿だったのだから多少面白いと思ってしまっても仕方ないだろう。

 いや、この世界のスライムが恐ろしいという話は何度も聞いていたのでその反応もおかしくないことはわかっている。わかっているのだが、俺にとってはテッドは最弱の生物なのだ。人魔界にいた頃はスライムとしか契約できないことでバカにされまくっていただけに、世界が変わるとこうも違うもんかと思ったりなんかもした。


 ギルド長が冷静になったあとテッドの魔力に生物が反応する範囲を調べた結果、テッドからだいたい三メートルくらいが有効範囲であること、人魔界から持ち込んだ背負いかばんに入っている間は魔力の嫌な感じもかばんの外には一切漏れないこと、壁や床なんかがあいだに入ると有効範囲が少し狭まることがわかった。

 ギルド長が用意した他のかばんも試してみたがその場合は有効範囲は少し短くなったが魔力の嫌な感じはかばんの外まで漏れていたらしいので、背負いかばんの素材として使用されているブラウンブルの革がスライムの魔力を抑える特殊な効果を持っているのだろうという結論に落ち着いた。訊いてみたところ、ブラウンブルみたいな外見の魔物はこの世界には存在していないらしいのでこのかばんは大切にしなくてはいけない。


「どうした? 話せない事情でもあるのか?」


 さきほどまでのことを思い出して笑いそうになっているのをこらえているとギルド長が再度質問してきた。


「いえ、何を話せばいいのかよくわからなくて」


 実際は思い出し笑いしそうなのをこらえていたために黙っていただけだがそういうことにしておこう。

 いきなり話を聞かせてもらおうかなんて言われて、何を話せばいいのかわからなくて困っていたのも事実だ。ただ、威厳を出そうとしているいまの姿とさっきまで醜態を晒していたギルド長のギャップに笑いそうになってしまっただけなのだ。許せ、ギルド長。


「そうだな。どうしてあんな騒ぎになったのかはさっき聞いたから、今度はこの街に来た理由を教えてもらおうか」


 俺がかばんを置いていった理由についてはテッドに怯えていたギルド長を落ち着かせる際に説明した。

 あのままだとなんらかの目的があってわざと冒険者ギルド内にテッドを放置していったのではないかと勘ぐられそうだったので誤解が生じないように「トンファという筋肉ダルマの殺気に当てられてつい忘れていってしまいました。悪いのは全部トンファです」と責任の所在を明らかにしたうえでしっかりと伝えてやった。

 かばんを忘れていった後のことは俺たちよりも実際に現場を見ていたギルド職員の方が詳しかったから、どのようにしてテッドが姿を見せたのかは説明の必要がなかった。

 それにしても――


「この街に来た理由、ですか」


 少し返答に困る質問がきた。

“世界渡り”の出口がこの街に近かったから、とは言えないよなぁ。異世界人だとバレたことで大変な目に遭った“世界渡り”経験者の話は有名だ。俺が異世界人であることはフィナンシェにも話していない。

 うーん、どうしたものか。


「そうですね。やっぱり俺も人間なんで人里で生活したいなあと思って町や村を探していたらダンジョンのトラップにはまってしまいまして、そこを助けてくれたフィナンシェに案内されたのがこの街だったんですよ」


 嘘は言っていない。嘘を吐いていいのは女を悲しませたくないときだけだと院長に教えられたからな。

 どう見ても女じゃないギルド長に対して嘘は吐けない。


「たまたまこの街にたどり着いたと?」

「はい。この街に来たのはたまたまです」


 本当にたまたまだ。俺が“世界渡りの石扉”にさえ近づかなければ一生来ることもなかっただろう。


「冒険者ギルドに登録したのはどうしてだ?」

「お金を稼ぐには冒険者になるのが手っ取り早いと聞いたので。フィナンシェに借金もあるし早く金を稼ぎたいと思っていたんです」

「なるほど……そうか、わかった」


 俺の返答を聞いたギルド長は一応は納得してくれたのかゆっくりと頷いてくれたが、頷くまでに妙な間があった。

 はたして、この受け答えで満足してもらえたのだろうか。ギルド長の顔がまだ険しいままだからどうにも不安だ。正直に答えたつもりだったが、駄目だったのだろうか?

 そう思っていたら今度はフィナンシェに質問が飛んだ。


「フィナンシェ、お前が新人とパーティを組みたいなんて言い出すからどんなやつかと思ったがまさかスライム連れとはな。お前の人を見る眼、信用していいんだな?」

「はい。信用してもらって大丈夫です」


 ギルド長からの質問に、フィナンシェは間髪入れずに答えてくれた。

 そんなに信頼してくれていたのかとちょっと嬉しくなった。


「そうか。はぁ……トールっつったな。お前は今日からこのギルドの一員だ。しばらくはフィナンシェとパーティを組んでもらうからそいつに色々教われ。そんでこいつがお前のギルドプレートだ」


 そう言われ投げ渡されたプレートを受け取る。

 どうやら俺は無事認められたようだ。

 文字は読めないが、このアイアンプレートには俺の名前とこの街の名前が刻まれているはず。

 そうか、これが俺のギルドプレート。冒険者である証。

 これで今日から俺も、この街の冒険者だ!

 まずはコツコツと依頼をこなしてフィナンシェへの借金を完済するぞ!


「あ、そうだ。お前らに頼みたい高難度クエストがあるから早速明日から行動を開始してくれ。大丈夫だとは思うが死なないように気を付けろよ」


 ……え?

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