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二択

 かなり眠いなか執筆したのでしっかり推敲できていないかもしれないです。

 突然暗くなった部屋の中。

 俺でも、フィナンシェでも、ノエルのものでもない足音が静かに俺とノエルのいる場所を目指し移動してくる。


《テッド!》

『両手に短剣! 一人だ!』


 即座に状況を確認。

 正体不明の足音の主は武装した侵入者。


「敵だ!」


 慌てて叫ぶ。

 それと同時にポケットに手を突っ込むも、その手はむなしく空を切る。


 しまった!

 魔光石はかばんの中か!


 そう思った瞬間耳に届いたのは、キキンッという刃物同士が擦れ合うような音。


 何の音だ!

 すぐ近くから聞こえたその音に疑問を抱いた一拍後、その疑問はすぐに晴らされた。


 俺の頭上に現れたゆらりと揺らめく赤い炎。

 その炎の明かりによって室内の様子がぼんやりと浮かび上がる。


 真っ先に目に入ったのはフィナンシェの背中。

 次に、フィナンシェの右手に握られた、先ほどの肉串の木串。

 そして、その肩越しに見える軽装の女が一人。


 女の両腕は不自然にクロスした状態で頭上に掲げられ、上半身もわずかに後ろへ仰け反っている。

 状況から見て、女が両手に握った短剣で俺かノエルを攻撃しようとしたのをフィナンシェがその串を使って防いでくれたのだろう。


 ノエルはいつのまにか俺の背後に移動している。

 徐々に大きく、明るくなっていくこの頭上の炎を出現させたのもおそらくノエル。

 不思議と熱さは感じないが、頭上に炎があり、尚且つそれが肥大化しているというのは落ち着かない。

 かといって簡単に動いてよいものかどうか判断に困る場面でもある。

 ノエルが炎を俺の頭上から移動させないのは何か理由があってのことかもしれないし、ないとは思うが、話しかけたことでノエルの集中が途切れ炎が消えてしまっても困る。

 今は不用意に動かず、この炎も無いものとして扱った方がいいか。


 それにしても、この女は一体どこから侵入してきたんだ?

 部屋の扉は閉まったままだし、蝋燭の火が消える前後も扉が開いた気配はなかった。


《テッド、この女はどこから入ってきた?》

『扉と床の隙間からだ』


 隙間から?


『カード化というやつだろう。何かが入ってきたと思った次の瞬間、急にそれが人間の形になった』


 なるほど。


《戻しを行った直後にそのカードをこの部屋に投げ入れたということか。この女をカードから戻した人物は?》

『確認していない』


 女が部屋に侵入してきた方法はわかったが、謎が残ったな。

 戻しを行うには対象のカードに触れながら呪文を唱える必要がある。

 カードが生物に戻る瞬間を見た経験はないが、たしか、呪文を唱えたらすぐにカードから元の生物へと戻るという話だった。

 それならば、女をこの部屋に侵入させるためには呪文を唱えた直後にカードをこの部屋へ投げ込まないと間に合わないということになる。

 しかし、テッドはカードを投げ込んできた人物を確認していない。

 女を戻した人物がこの部屋へ続く扉のすぐ目の前どころかこの部屋周辺の通路、テッドの半径十五メートル以内にもいなかった。

 こんなことがありえるのか?

 まさかこの女がひとりでに移動してきて、ひとりでにカードから戻ったとでもいうのだろうか?


「トール、どうする?」


 フィナンシェの声。

 こちらに背を向けたまま扉付近まで後退した女と睨み合いを続けていたフィナンシェが何事かを問うてくる。


 どうする、というのはどういうことだろうか。

 この場の決定権を俺に一任するということか?

 それにしても、なんでそんなことを…………いや、そういうことか。


 俺は重大な思い違いをしていたみたいだな。

 フィナンシェとノエルの二人がいればこの女一人くらい余裕でなんとかできると思って安心していたが、そうではなかったようだ。


 フィナンシェは宴の場から直接この部屋へとやってきた。

 宴に行くのに武器は必要ない。

 当然、武装は解除されている。

 つまり、今のフィナンシェはほとんど丸腰。

 フィナンシェは装備品のすべてを自分に貸し与えられた部屋に置いてきてしまっているのだろう。

 短剣くらいはどこかに忍ばせているかもしれないが、それを取り出す素振りがないということは今手に持っている串よりも使い勝手の良い武器は手元にないということ。

 これではいつもの力は発揮できない。


 ノエルに関しても、女を攻撃する様子が見られない。

 この炎で女を攻撃することもなければ、新しく魔法や魔術を発動させる様子もない。

 もしかしたら魔力がもうほとんど残っていないのかもしれない。

 昼間の作戦ではノエルの魔術が大活躍していた。

 かなりの広範囲を十分以上も燃やし続けるほどの魔術を行使したのだから魔力が枯渇していたとしてもおかしくない。

 あれから十時間以上は経っていると思うが、魔力の回復速度には個人差がある。

 ノエルの回復速度がどれほどのものかはわからない。

 しかし、明らかに敵である女を攻撃できないでいるということは戦闘を行うのに充分なほど魔力が回復していないということだろう。


 フィナンシェも俺と同じようなことを考えたはずだ。

 そしてそう考えたとき、フィナンシェの頭の中では今まともに戦闘を行えるのは俺だけという結論が出されたはず。


 テッドの力は強すぎるし、自分もノエルも満足に戦える状態ではない。

 トールもテッドと同様に全力を出せるわけではないが、テッドと違ってほんの少しなら力を出すことができる。

 そのほんの少しがあればトールならきっと目の前の敵を倒せるにちがいない。


 俺の実力を勘違いしているフィナンシェはそんなようなことを考えたはずだ。

 だからこそ、どうするかを俺に訊いてきた。

 この場で唯一まともに戦闘を行うことができると思った俺に、戦うか、逃げるかの選択を迫ってきた。


 俺は、この女に勝てる気がしない。

 女の実力はわからないが、何か目的があってこの部屋に送り込まれてきた相手だ。

 かなりの高確率で俺よりも強い。

 フィナンシェとノエルが戦力として数えられないのであれば俺としては逃げの一手を選択したいところ。

 だが、出口は押さえられてしまっている。


 この部屋に窓はない。

 部屋の出入り口は現在女が背にしている扉一枚のみ。

 出口が押さえられてしまっている現状では逃げるという選択肢は現実的でない。


 とはいえ、逃げる方法が全くないわけではないはずだ。

 フィナンシェとノエルの状況と俺の実力を考えると戦うよりも逃げた方がよい。

 二人も全然動けないというわけではないのだから力を合わせればこの部屋から脱出するくらいはできるかもしれない。


 そのまえに、テッドと合流しないといけないな。

 戦うか、逃げるか。

 どちらを選択するにしてもテッドだけは回収しなくてはいけない。


 テッドの入ったかばんが置かれているのはベッド脇の床の上。

 ここからだいたい四メートルの距離。

 その位置なら女とも距離が離れているし、かばんを回収するのは難しくない。

 問題はかばんを回収したあと。

 テッドと合流したあと、どうやったらこの場から逃げられるだろうか?

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