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進まない会話

 じーっとこちらを見つめてくるノエルの視線から逃れるようにしてフィナンシェの食事姿を見続ける。


《テッド、どうにかできないか?》

『どうにか、とは?』

《ノエルのことに決まってるだろ。目を合わせようとするとそっぽを向かれるし、声をかけようとすると変な声を上げられて言葉を遮られる。ノエルが何のためにこの部屋に来たのか聞く方法はないか?》


 話しかけようとするたびに「きゃっ」とか「あっ、あーあーあー!」という奇声を上げられたり「す、少し暑いわね。なんとかならないの?」「そっ、そういえば私の故郷では――」などというあからさまな話題そらしをされたのではどうしようもない。

 返事をしないと「なによ、なにか言いなさいよ!」と怒られるし、返事をしたらしたで「アンタそんなことも知らないの?」とか「気が利かないわね。もっと面白いこと言いなさいよ!」とか罵られるのも面倒くさい。

 相手をするのも疲れてきたからとりあえず何も話しかけないようにしてみたが、部屋から出ていく気配は一向にない。


 この際、ここへ来た用件は聞きだせなくていい。

 こいつをこの部屋から出す方法は何かないだろうか?


『そうだな。フィナンシェに訊いてみてはどうだ?』

《どういうことだ?》


 一体何をフィナンシェに訊けばよいのだろうか?


『その少女はフィナンシェとともに入室してきたのだ。ならば、少女がここへ来た理由をフィナンシェが知っていてもおかしくはなかろう?』

《一理あるな》


 ノエルはフィナンシェと一緒にこの部屋にやって来た。

 おそらく、宴を抜けて俺の部屋に向かおうとしていたフィナンシェについてきたのだろう。

 それなら、俺の部屋までついてこようとするノエルに対してフィナンシェが「トールに何の用?」と訊いていたとしても不思議ではない。

 というより、その可能性は高い。


《その案でいこう。フィナンシェに訊いてみる》

『そうしろ。あと、かばんの中に食い物を入れてくれ』


 テッドとの念話によってやることは決まった。

 ノエルがここへ来た理由を知らないかフィナンシェに訊こうと思うが、その質問をノエルに聞かれるとまた話題をそらされるかもしれない。

 そう思い、フィナンシェに近づくため立ち上がる。

 ベッドから腰を浮かせた瞬間、視界の端でノエルがびくっと反応したのが見えた。


「あれ? トール、どうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあってな。……ノエルのことなんだが、あいつがどうしてここに来たのか聞いていないか?」


 急に近づいてきた俺に対し疑問の声を上げるフィナンシェ。

 そのフィナンシェの顔に顔を近づけ、念のためノエルから俺の口元が見えないように口の横に手を添えてから、ノエルを横目で見つつ小声で問う。


「ノエルちゃんならトールに何か用事があるって言ってたよ。それ以上のことはわかんないけど、気になるならノエルちゃんに直接訊いてみたら?」


 しかし、フィナンシェからは望んでいた回答は得られなかった。


 まぁ、なんとなく予想はしていたが、さすがフィナンシェ。

 ノエルが俺に何の用なのかを尋ねることもせずにノエルをこの部屋まで連れてきたみたいだな。

 たぶん、「ノエルちゃんもトールの部屋に行くの? じゃあ一緒に行こっか!」と軽い感じで連れてきてしまったのだろう。

 せめて何のために俺の部屋に行こうとしてるのかくらいは聞いておいてほしかったが、言ってもしょうがないか。


 結局、何もわからなかったな。

 ノエルが何か用事があってこの部屋に来たのはわかっていたし、むしろ用事もなくこの部屋に来たのだとしたら怖すぎる。

 その用事というのが何なのかを聞きたかったんだが、フィナンシェも知らないようだ。


 さて、どうするか。

 ノエルにここへ来た理由を訊こうとしてもまた話題を変えられるだけだろうし……。

 いっそ、フィナンシェに聞いてきてもらうか?

 ノエルも俺が相手だから怖がって話題を変えようとしてくるのだろうし、フィナンシェが相手なら普通に話せるのではないだろうか。

 俺のことを怖がっている、という割には俺に対して罵詈雑言を浴びせてきているのが謎ではあるが。

 というか、その用事というのは俺への罵りの言葉よりも口にしにくいことなのだろうか?


 うーん、と俺が頭を悩ませているとフィナンシェが一言。


「トールが訊きにくいのなら私が訊いてこようか?」


 まさに渡りに船。

 肉串を食べ終え、謎の黒いスープを飲み終わったフィナンシェがスープの入っていた器をテーブルの上に置きながらそう提案してくれた。


「頼めるか? 何をしに来たのか訊こうとするとはぐらかされるから困っていたんだ」

「うん、任せてよ!」


 俺からの頼みに自信満々でそう言いきったフィナンシェが席を立ちノエルへと近寄っていく。

 視線の先を俺に固定したままフィナンシェと会話をするノエル。

 声は聞こえないがフィナンシェからの問いにはしっかりと答えているように見える。

 やはりフィナンシェとは普通に会話が可能なようだ。


「ノエルちゃんは勝負は無効だ、って。ダララのダンジョンでの討伐数勝負はノエルちゃんに有利すぎたからまた別の方法で仕切り直しましょうって言ってたよ」


 ノエルとの会話を終えてこちらへ戻ってきたフィナンシェがそう告げてくる。


『昼間の勝負は無効よ。アンタに言われた通りアタシの魔術を中核とした作戦が立てられて、その作戦が成功してしまった。これじゃあ条件がフェアだったとは言えないわ。だから、討伐数で競うって話はなかったことにしてちょうだい。また別の方法で勝負し直しよ!』


 ノエルからの伝言をフィナンシェから聞いた直後、そんな幻聴が聞こえた気がした。

 この幻聴はおそらく、フィナンシェの教えてくれた伝言の陰に潜むノエルの意思。

 その意志がひしひしと伝わってくる。

 たかが伝言にこれだけの想いを乗せられるのであれば直接言ってくれればよいのに。そう思う。


 いや、今のはフィナンシェから伝えられた内容と先ほどフィナンシェと会話していた際のノエルの口の動きから推測・補完したノエルの言葉を俺が勝手に幻聴として聞いてしまっただけ。

 ノエルが実際にそんなふうに言っていたかはわからないし、この幻聴のことでノエルに何かを言うのはお門違い。

 といっても、だいたい似たようなことを言っていたのではないかと思うが。


「フィナンシェ、ノエルには『俺は勝負なんてしない。昼間のこともお前の勝ちでいい』と伝えてきてくれないか?」

「うん、いいよ。じゃあ行ってくるね!」


 フィナンシェに伝言を頼み、もう一度ノエルのもとへと行ってもらう。

 なんというか、面倒くさい。


 同じ部屋の中にいるにもかかわらずフィナンシェを介さなくては会話もできないというのは何かおかしいように思う。

 それに、あれだけ話をそらしてまで言い辛そうにしていた内容が『もう一度勝負をしましょう』だけだとは到底思えない。

 年末年始は何かと忙しいので12月と1月は何日か更新できない日があるかもです。

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