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パーティメンバー

 噂をすればなんとやら。まあ、ここで待ち合わせをしていたから当たり前っちゃあ当たり前なんだが、筋肉ダルマから大体の事情を聴き終えたところでフィナンシェが冒険者ギルド一階へと下りて来た。


「お待たせしました」


 こちらまでやって来たフィナンシェが俺に向かってそう告げた瞬間、ぞわっとした。

 フィナンシェの外面モードに慣れていなかったせいもあるがそれよりも隣にいる筋肉ダルマから発せられた殺気に悪寒が走った。


「よぉ【金眼】。久しぶりだなあ」


 筋肉ダルマがフィナンシェを睨む。めっちゃ睨んでる。ちょー怖ええ。


「お久しぶりです、トンファさん。彼と何かお話し中でしたか?」


 筋肉ダルマの殺気なんて全く感じていない様子でフィナンシェが俺と筋肉ダルマを交互に見やる。

 さすがに気づいてるよな? この殺気に気付いてないなんてことないよな?


「ああ。初心者だっていうから冒険者について少し教えてやってたんだ。な?」


 筋肉ダルマがこちらをチラッと見ながらそう語る。

 殺意のこもったままの目でこっちを見るんじゃねえ。股間の辺りが湿ってきちまっただろ。


「そうなんだよ。フィナンシェを待ってる間に色々聞いていたんだ」


 真顔でそう答えるあいだも俺の股間まわりは少しずつ濡れていく。

 真顔で漏らしたのなんて初めてだ。誰にもバレてないだろうな。

 フィナンシェ、お前のせいでこんな目に遭ってるんだからな。お前がやらかしたあれこれについて色々と聞いたぞ。


「そうですか。それはありがとうございました。彼は私の知り合いなのでトンファさんが教えきれなかった部分に関しては私がのちほど教えておきます」

「ああ、そうかい。ところで、お前さんに用事があるんだがこのあと少し時間あるかい?」


 筋肉ダルマがちょっと飯でも食おうぜというような軽い感じでフィナンシェを誘う。

 報復する気まんまんだなコイツ。殺気だだ漏れだぞ。

 筋肉ダルマの発する尋常じゃない殺気のせいかギルド内のほぼ全ての視線がこちらを向いている気がする。

 少なくとも目に見える範囲の冒険者は全員こちらに注目していた。横や後ろの様子はわからない。筋肉ダルマの殺気に当てられているせいで首を動かすことができなかった。


 周りにいる奴ら、お願いだからフィナンシェと筋肉ダルマにだけ注目しててくれよ。俺の方、特に股間のあたりは絶対に見るんじゃねえぞ。

 小さい頃から「やっぱり孤児院育ちはダメだな」なんて言われないように気を付けてきたからだろうか、俺は体面をそこそこ気にする。目の前に殺意の塊がいるようなこんな状況でも他者からの自分の評価を気にしてしまう。

 この殺気が俺に向けられたものではないとわかっているから多少の余裕もあったのかもしれない。

 だが、そんな余裕もフィナンシェが口にした言葉によって粉々に砕かれた。


「せっかくのお誘いですがお断りさせていただきます。今後、彼とパーティを組むことになったのでその準備や話し合いをしなければいけませんので。十日後なら時間を取れると思いますがその日でもいいですか?」


 フィナンシェが「パーティを組む」といったあたりでこちらを遠巻きに見ていた冒険者やギルド職員からの注目と、筋肉ダルマの殺気が俺へと向いたのがわかった。

 彼、というのは間違いなく俺のことだ。フィナンシェは俺の方を見ながら発言していた。

 筋肉ダルマの目が俺を捉える。完全に俺にも殺意が向けられている。さっきチラッと見られた時の比じゃない恐怖と悪寒に脚が震える。


「いま、コイツとパーティを組むって言ったか?」

「ええ。ギルド長にも許可をもらいました」

「ギルド長が? 新人の育成なら他のやつに任せりゃいいだろ。わざわざお前がコイツと組む理由はなんだ?」

「あなたに答える必要はないことです」

「俺はお前を何度もパーティに誘ったが断られた。パーティ入りを賭けた決闘のあと、実力が釣り合わねえからパーティに入らねえとも言われた。それなのにこんな見るからに駆け出しのやつとパーティを組むって言いやがる。気にならねえわけねえだろ。俺とコイツで何が違う?」

「実力が違うわ。彼はあなたより強い」

「コイツが俺より強い? ふざけてんのか?」

「事実よ。そろそろ行かせてもらうわ。これ以上あなたに付き合っている時間はないの」


 話が終わったのか、フィナンシェに手を引かれてギルドの出口へと向かって行く。

 いまの会話、殺気に耐えるのに精一杯で二人が何を話していたかまではわからなかったが、なんか途中からフィナンシェの口調が変わったというか筋肉ダルマへの風当たりが強くなっていたような。頼むから火に油を注ぐ様な真似はやめてくれ。

 これいじょう筋肉ダルマを刺激しないでくれと願いながら恐怖に縛り付けられた身体をなんとか動かしてフィナンシェについていく。精神が限界に近いのか、視界は狭く音も遠い。

 そんな状態でもなんとか歩けているのはフィナンシェが手を引いてくれてるおかげだ。いま俺が縋れるのはフィナンシェしかいない。この手を離されないようになんとしてでもついていかなければ。


「待て。十日後なら時間を取れるっつってたよな。十日後にそいつと決闘させろ」

「それは私ではなく彼と約束して。三日後にまたギルドに来るわ。それまでに彼に決闘のルールや作法を教えておくからそのとき彼にまた訊いて」

「わかった。ただし、そいつが俺より弱かったらお前もただじゃおかねえぞ」


 ギルドを出る直前、筋肉ダルマとフィナンシェがまた何か言葉を交わしたような気がしたが何を話していたのかはよくわからなかった。






 ギルドを去ってしばらくしてから正気に戻った俺は自分の穿いているズボンを見て愕然とした。


「やっちまった」


 ズボンはびっしょり濡れていた。ズボンだけじゃない。脚に装備していた革鎧も濡れている。匂いもすごい。

 強い羞恥心に駆られて慌てて浄化の魔法をかけるとズボンのシミと匂いはすぐに消えた。覚えててよかった浄化魔法。


 さっきは恐怖のせいで浄化魔法をつかうことまで頭が回らなかったからな。

 ああ、でも、さっきの場で浄化魔法をつかっていたら俺が魔法を発動させようとしてることに気付いた筋肉ダルマにいきなり攻撃されてたかもしれないな。

 筋肉ダルマからしたら殺気を向けた相手が急になんらかの魔法をつかおうとするんだ。抗戦の構えと捉えられてもおかしくない。ということは結果的に浄化魔法まで頭が回らなくて良かったということになるな。

 今回の反省を経て、今後似たような目に遭った時のために周囲の人間に気付かれずに浄化魔法をつかえるよう練習しておこうと心に決めた。


 浄化魔法を使用したあと、下半身が綺麗になったところでフィナンシェの手と俺の手がつながれていることに気付いた。

 筋肉ダルマの話ではフィナンシェの実力は相当なものということだったが、つながれているフィナンシェの手の感触はやわらかく、とても鍛えてるようには思えない。

 腰に剣を提げているから剣士だと思っていたが、実は魔術師だったりするのだろうか?


 それよりもフィナンシェと触れ合うのは初めてだ。ドキドキする。

 いままでは最低でも五十センチは離れていたのにどうして突然距離が縮まったのだろうかと考えてあることに気が付いた。


「背中が軽い」


 バッと振り返って確認してみる。

 かばんがない。

 たしか、食事をするのに邪魔だったからかばんは足元に下ろしたはずだ。


「フィナンシェ、まずい。テッドを置いてきちまった」

「え!?」


 いまだ外面モードだったフィナンシェもこの事態には動揺を隠せなかったようで大きな声を上げる。


《テッド、悪い。お前の入ったかばんを床に置いたままギルドを出ちまった。大丈夫か?》

『大丈夫だ。我はな』


 急いでテッドに念話を送るとすぐに返事が来た。


「よかった。テッドはまだ無事みたいだ」

「よかったあ。とりあえず急いで引き返さないと」


 俺はテッドの無事を、フィナンシェはテッドが街を滅ぼすような事態になっていないことに一先ずの安心をしながら来た道を全速力で引き返していく。

 このときの俺は、テッドの返事に含まれていた妙な言い回しに全く気付いていなかった。

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