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木の陰

 二キロ地点で三十分休憩してから二時間が経った。

 三猿たちの縄張りはすでに二キロ圏内。

 今この瞬間、急に襲われたとしてもおかしくない。


 敵はクレイジーモンキー、サイコモンキー、クレバーモンキー。


 何をしてくるかわからず凶暴なクレイジーモンキー。

 身を隠すことが得意で魔法もつかえるサイコモンキー。

 賢く陰湿、それでいて大胆な行動をするクレバーモンキー。


 この三種の猿型魔物と如何にして戦わずに作戦を乗り切るか。

 この一点にすべてがかかっている。


 作戦の要は現在腰につけている匂い袋。

 人間には無臭に感じられるが魔物にとっては嫌な匂いがしているというこの匂い袋を利用して三猿たちを森の奥へと押し込める。

 そうすることで猿が森の外へ逃げる可能性を減らしながら、俺たち三十二人の精鋭が互いに近い距離で戦えるようにする。

 これが今回の作戦で一番重要な点。


 上手くいけば三猿を一か所に集めることができ、魔術師の魔術一発で一気に殲滅することもできるかもしれないというこの作戦だが、十中八九そう上手くはいかない。

 何体かは匂い袋の匂いを嫌がりながらも俺たちのもとに向かってくるだろうとは会議でも言われていたし、このまま進んでいけば俺たちのところにも何体かは向かってくるだろう。

 その際、テッドの魔力とメルロ、カスタネットを利用して上手く敵を撃退、あるいは敵から逃げられればいいが、ネックとなるのは右手の怪我。


 この手のひらの擦り傷のせいでいつも通りの動きができない。

 いつも通りの動きをしたとしてもまともに戦えるかわからない敵が相手なのに、この手のひらの傷の有無はデカい。


 未だに手は震えているし、物に触れると傷が痛む。

 今すぐ敵と出くわしてもおかしくないというのにこの傷は……あっ。


 数十メートル先の木の陰から現れた茶色い物体。

 それを見た瞬間、すぐに身体が動いた。

 ザッと音を立てながら木の陰に身を隠す。


 今のは、猿か?


 確信はない。

 ただちょっと茶色い何かが動いたように見えたから身を隠しただけ。

 もしかしたらあの茶色い何かは落ちてきた木の枝や葉かもしれない。

 しかし、猿かもしれない。


 今すぐ確認はできない。

 慌ててしまったせいで隠れるときに音を立ててしまっている。

 正確な場所まではバレていないと思うが、音に気づいた猿がこちらの方向を向いているかもしれない。

 木の陰から首を出した瞬間にこちらの存在に気づかれる可能性がある。

 そもそも、身体が固まったように硬く、首を動かすことができない。


 心臓がバクバクいっている。

 身体は凍ったように動かない。

 目は見開き、瞬きすることなく正面を見つめている。

 不安は大きいのに、頭は驚くほど冷静。

 首から上に血が足りていない気がする。

 背中に感じる木の感触が硬い。


《テッド、敵が現れたかもしれない。俺の背中側だ。近づいてきてないか?》

『反応はない』


 テッドの感知範囲はテッドから十五メートル以内。

 距離が短い代わりに精度は抜群。死角もない。

 テッドの感知は空気の揺らぎすらも感知するため、何かが近づいてきていないかどうかを確認するだけであれば十五メートルよりももう少しだけ長い距離を確認することができる。


 そのテッドが反応なしと言っているのだ。

 さっき見えたのが猿だったとしてもまだ近づいてきてはいない。

 もし近づいてきているのであれば近づいてきた際の空気の動きをテッドが感知する。

 さらに十五メートル以内に近づいてきたなら確実にわかる。


 ということは、まだ大丈夫。

 見つかっていない可能性も高い。


 猿はいない。

 いたとしても俺たちの存在には気づいていない。


 大丈夫、大丈夫だと何度も確認しても不安が晴れない。

 木の陰から首だけ出して確認しようと思うも、緊張してしまい上手く身体を動かせない。

 テッドがいればわざわざ危険を冒さずとも敵の接近を感知できる。

 その考えが思い切りを悪くする。

 首をのぞかせることができない。


 しかし、もし見えたのが猿でなかった場合。

 猿だったとしてももうすでにどこかへ行ってしまった場合。

 この時間は無駄になる。


 テッドの感知は十五メートル以内に入ったモノにしか反応しない。

 空気の流れを考慮するならもう二~三メートルは範囲が伸びるが、それだけだ。

 敵が近づいてこなかったら同じこと。

 俺は居もしない敵や近づいてこない敵を相手にここで立ち往生することになる。


 ずっとこのままというわけにもいかない。

 作戦遂行のためにも森の深部に向かってもっと歩かなくてはいけないし、匂い袋のせいですでに俺の居場所はバレているかもしれない。


 そうだ、匂い袋がある。

 もし一瞬見えたあれが猿だったのなら俺の居場所はすでにバレている可能性が高い。

 それでも近づいてきていないということは匂い袋の匂いを嫌って寄ってこないということ。

 見つかったとしても危険はないかもしれない。


 それに、どうせいつかは確認しなくてはいけない。


 三猿は素早いと聞いている。

 もし猿だったのだとしたら、奇襲を受けないためにも居場所を確認しておいた方がいい。

 早く確認しないと見失ってしまうかもしれない。


 すでに何分か経過してしまっているが、まだ間に合うはずだ。

 今確認しなければ本当に見失ってしまうかもしれない。


 いけ。

 確認しろ。


 ドクドクと脈打っているのがわかる左腕を心臓のあたりに添えながら、同じく脈打っている右手で木の皮を掴み、顔を横に向ける。

 そのまま、少しずつ、少しずつ肩を横にスライドさせていく。

 木の陰から首が出た瞬間、横目で猿の存在の有無を確認する。


 見える範囲には、いない。


 それからしばらく観察してみても、それらしき姿は現れない。


 いない?

 猿じゃなかった?

 それとも居たけどどこかへ行ったか?


 そう考えながら木の陰から全身を出し、何かを見た方向へと身体を向ける。

 これだけ堂々と姿を見せても反応はない。

 何かが動くような気配はなく、隠れているような感じでもない。


《反応は?》

『ない』


 観察の結果、敵の姿は確認できず。

 今すぐ戦闘するハメにならなかったことに、ほっとした。

 明日は更新できないかもしれないです。

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