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日が昇る前に

 テッドと人魔界にいた頃の思い出を語り合ったり、この国の兵士たちの実力を見せてもらったり。

 二日なんてあっという間だったな。


 まぁここに来たのは一昨日の夕方前であるし、夜はしっかり寝ていたことも考えると体感的には一日くらいしか経っていないからな。

 あっという間に感じてしまうのも無理ないか。


『そろそろだな』

「ああ、もうすぐ時間だ」


 まだ日も昇らぬ中、魔光石を片手に森に向かって歩みを進める。

 三猿討伐作戦の開始時刻はもうすぐ。

 日が昇り始めたら開始だ。


 それにしても、一時間も歩けば森に辿り着くと思っていたのだが目算を誤っていたか。

 俺たちの作戦開始地点まではまだ少し距離があるな。

 作戦開始時間はズラせないというのに……。

 なんとかして朝を迎える前に森に到着せねば。

 体力を使うことになるが、走るしかないか。


「少し急ぐぞ」

『どうした?』

「計算を間違えた。このままでは作戦開始までに所定の位置に辿り着けない」

『算術が苦手なのに計算なぞしようとするからそうなるのだ』

「ぐっ、痛いところを……」


 たしかに。

 変に目算なんてせずにもっと早く出発すればよかった。

 そうでなくても、森まで歩いて何分くらいかかるかを兵士に確認しておけばこのようなことにはならなかっただろう。


『それに、森まで移動するだけなら馬を頼めばよかったではないか』


 兵士に馬で森まで運んでもらう。

 そういった提案もあった。

 一昨日の夕飯前、食事の量を増やしてくれと頼みに行ったときに「作戦開始日の朝には馬をお貸しします」と言われもしたが、断った。


「テッドも知ってるだろ? 俺は馬との相性が悪いんだ。乗れば気分が悪くなるし、俺一人では馬を操ることもできない」

『そうだったな』

「この国の兵士に馬か馬車を出してもらったとして、森に着いたときには虫の息になっていたかもしれない。虫の息にはならなかったとしても気分は確実に悪くなっていた。その気分の悪さが作戦中の行動に影響する可能性はゼロじゃない。生存率を上げるためには少しでも不安要素を排除しておきたかったんだ」

『そうか』


 馬に乗れば森までは数分だっただろう。

 移動によって気分を悪くしたとしても日が昇るまでの一時間で体調は回復したかもしれない。

 だが、一時的とはいえ気分が悪くなってしまったことがその後の行動に影響しないとは言い切れない。

 回復したと思っても、実際には回復しきっておらず、身体のどこかに気分を悪くしたことの名残があった可能性もある。


 俺とテッドの命がかかっているのだ。

 不用心な真似はできない。


 馬に乗ることで生じるリスクを考えれば、多少体力を消耗したとしても一時間ほど歩いて森まで向かった方が断然マシだ。

 そう思い、歩いていたのだが……。


『間に合うのか?』

「微妙なところだな。昨日と同じ時間に日が昇るなら十分後には作戦開始だ。森まではだいぶ近づいているはずなんだが、暗くてよく見えないしな。あと十分以内に森に着けるかどうかは正直わからない」


 魔光石の光が届く範囲にはまだ森らしき木々の姿は見えてこない。

 森まで一時間という俺の目算が間違っていたとしても、そう遠くない距離までは近づけていると思うのだが……辺りが暗すぎてよくわからないな。


 俺のせいで作戦が失敗したらと思うと少し焦りが生まれる。

 まだ息が上がったり身体中に疲労を感じたりするほどではないが、このまま走り続けたらどうなるかわからない。

 あと十分以内に辿り着かなくてはという焦りが身体に負担を強いている気がする。

 すぐに森の姿が見えてくればいいが、五分、七分と走っても森の影すら見えてこなければかなりの疲労に襲われるかもしれない。

 そうなってしまったら、もし作戦開始時刻までに森に辿り着けたとしてもその後の行動に影響が出てしまう。


 作戦では一時間に二キロメートルのペースで森の奥へと向かって歩いていくことになっている。

 ダララの森は奥に進むほど木が大きくなっていく。迷うことはない。

 一昨日の会議では、森の広さ的に四時間も歩けば森の深部に辿り着くと言っていた。

 三猿との戦闘時間を考慮しても六時間後には作戦が終了している予定。

 後ろにはこの国の兵士たちもいるし、俺だけ深部に向かわないわけにはいかない。

 初めて入る森の中でしっかりと作戦通りの行動をとりながら、三猿に見つからないようにしなくてはいけない。

 それにはかなりの体力を必要とするだろう。


 こんなところで体力を消耗するわけにはいかない。

 とりあえず、この変な緊張感と焦りは早く取り除かないとな。


 大丈夫。

 日はまだ昇らない。

 絶対に時間までに森に辿り着く。

 そう信じたら、あとはいつものようにリラックスすればいい。


 ……よし。落ち着いてきた。

 これである程度は体力の消耗を抑えられる。


 人魔界にいた頃から走ることには慣れている。

 この世界に来てからもフィナンシェとの戦闘訓練中にかなり走り込んでいる。

 普段よりもかばんは重いが、数分走った程度なら作戦中の行動に支障はないはずだ。






 走り始めてから八分くらい経っただろうか。


『見えてきたぞ』


 テッドがそう伝えてきた三秒後。

 俺の目にも森の木々の姿が飛び込んできた。

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