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馬車酔いと食事の心配

 うぇっぷ。

 気持ち悪い……。


『腹が減ったぞ』


 薄々勘付いてはいたが、俺は馬と相性が悪い。

 馬車なら気持ち悪くならないのではないかと思っていたが、そんなことはなかった。

 直に騎乗したときほどではないが、馬車の振動と固さも十分きつい。


『聞こえなかったのか? 飯をくれ』


 気絶するほどではない。

 だが、そこそこ重い感じの気持ち悪さ。

 この気分の悪さがあと二十分以上続くと考えると、いっそのこと気絶してしまった方が楽なのではないかと思えてくる。


『おい、トール』

「フィナンシェ、悪いが俺のかばんの中に食べ物を分けておいてくれ」

「わかったわ」

「すまない、助かる」


 大事そうに抱えていた食料袋の中からいくつかの食べ物をかばんの中に入れてくれるフィナンシェ。

 これでテッドも大人しくなるはず。

 テッドの食事中はかばんが揺れてしまうが、この馬車の揺れ具合ならかばんが揺れていても不自然じゃないだろう。


 それよりもフィナンシェのことが気になる。

 馬車が発進する直前は普通に素のフィナンシェだったのに今は外面フィナンシェになっているのはなぜだ?

 フィナンシェが仮面をかぶるタイミングが相変わらずわからない。

 外面中に敬語のときと敬語じゃないときがあるのも気になるが、それ以上にさっきまで素顔だったのに馬車に乗り込んだ途端にとつぜん外面へと切り替えたことが気になる。

 この馬車に乗っている者たちにはすでに素顔をさらしてしまっているのだから今更取り繕う必要はないのではないだろうか。

 フィナンシェなりになにか考えがあって切り替えているのか?


「うっぷ……」


 考え事なんてしてる場合じゃなかった。気持ち悪い。

 フィナンシェが外面モードになっている理由が気になって仕方ないのに気分が悪すぎてうまく頭が働かない。

 だが、外面になっている理由は気になる。

 気になりすぎて頭がもやもやする。

 最悪なことにこのもやもやのせいでさらに気分が悪くなっているような気もする。


 これが簡単に解けるような謎だったのなら逆に頭もすっきりして気分も多少はよくなったかもしれないが、残念なことにいくら考えても答えには辿り着けそうにない。

 気になってしまっているせいで思考は止まらないし、どうしたものか。

 考えまいとすればするほど考えてしまう。


 このままでは気分が悪くなっていく一方だ。

 やはり、気絶してしまえた方が楽だった。


 気分が悪いのに思考を止められないせいでさらに気分が悪くなっていく気持ち悪さと、はじめから考える余裕もないほどの気持ち悪さ。

 この二つだったらどちらの方がマシだろうか。

 今の状態は前者だが、相当つらい。

 だが、後者は後者できついことは簡単に想像がつく。


 思考が沼にはまってしまって抜け出せないような、どんどん沼に沈み込んでいくような今の感覚と、何も考える余裕がなく止め処なく脂汗が流れ出てくるような気分の悪さ。

 この二つだったら、まだ今感じているこの気持ち悪さの方がマシな気がする。


 考えられているうちは余裕があるということ。

 考える余裕もないほどの気持ち悪さと比べたらまだ今の方がマシだろう。

 逆にいうと、思考が止まって何も考えられなくなってしまったら本格的にやばいということになる。

 そうなる前に俺の作戦開始地点に到着してくれることを祈ろう。






 町を出発してから何分が経っただろうか。

 目的地にはまだ着かないのか……。


 早く横になって休みたい。


「皆さん、あそこが皆さんに入っていただくダララの森です」


 おぉ、やっと見えてきたか。

 ということはもうすぐ馬車から降りられるな。

 あと少しの辛抱でこの気持ち悪さからも解放される。


「なるほど。あれが今回の」

「雰囲気あるわね」

「何年か前に来た時とは見え方が違う。本当にダンジョン化していたのか」


 馬車に乗ってから一切口を開くことをせず、思い思いのことをしながら静かに馬車に揺られていた他国の精鋭八人のうち何人かが声を上げる。

 初めて聞く同乗者の声。

 思わず声を出してしまうほどの雰囲気を持ったダンジョン。


 俺もこの距離からのダンジョンの姿を見ておきたい。


 しかし、体調が悪すぎる。

 顔が下を向いたままうまく動かない。

 これではダンジョンを確認することができない。

 なんとかして首を、首を…………動いた!


 ……あれがダララのダンジョンか。

 聞いてはいたが、かなりの大きさだな。

 木が小さく見えるほど遠くから見ても森の端が確認できない。

 この森の中で猿たちから逃げ延びないといけないのか。


「先程の会議でも伝えられたと思いますが、我々モラード国の兵士は四十日前から完全にあの森を包囲しています。森の手前に見えているいくつかの高い建物やテントは我々の寝床と待機場所を兼ねていて、高い建物の方は見張り台としても使用しています。今日と明日、皆さんが寝泊まりするのもあの建物です」


 これも聞いてはいたが、実際に見ると凄いな。

 あんなバカでかい森を囲めるなんて、この国には一体どれだけの数の兵士がいるんだ。

 建物やテントに入りきれずに野ざらしで寝ている者もいるのではないだろうか。

 遠いからよく見えていないだけかもしれないがテントの数が少ないような気がする。


 そして、今日明日はあの茶色い建物に泊まるのか。

 会議では土魔法で急造した建物と言っていたが、本当に崩れないんだろうな、あれ。

 もしも中にいるあいだに建物が崩落してしまったら瓦礫の下敷きだ。

 そうなれば猿から逃げ延びるどころじゃない。

 作戦開始前に死んでしまう。


「野営地の先に見えるのは建設中の壁と砦です。あの壁や砦は――」


 やばい。案内の兵士の声が頭に入らなくなってきた。

 気持ち悪さが増している。


 あと少しで馬車を降りられるんだ。

 それまでもう少しだけ我慢しなくては……。


 ……そういえば、テッドの食事はどうしよう。


 俺とテッドは今日と明日、明後日の分の食事を用意してきていない。

 兵士たちが食事を用意してくれると聞いていたからそうしたが、テッドの存在は教えていないのだから用意されるのは一人分だよな?

 もらえる食事は俺の分だけ。

 確実に量が足りない。

 他人よりも多く食べるとでも伝えれば二人分以上の量の食事を分けてもらえるだろうか?

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