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旺盛な食欲と謎の身体構造

「――それでは本日はこれにて解散といたします」


 大臣のおっさんと俺たち三十二人による作戦内容の共有と質疑応答が終了し、改めて作戦への協力をお願いされたあと、そんな言葉によって会議は締めくくられた。


「一度、宿に戻りましょう」


 会議が終わるや否や、席を立ち部屋の出口を目指し始めるフィナンシェ。

 おそらく空腹が限界なのだろう。

 外面モード中のため涼しい顔をしていたが、その両手は一時間ほど前からずっとお腹のあたりに当てられていた。

 会議開始前に用意されていた軽食を食べていたが、あれももう二時間以上前。

 きっと今は一刻も早く何か口にしたいと思っていることだろう。


 俺はどうするべきか。

 宿に戻るか、もう少しこの場に留まるか。


 室内にいる他の作戦参加者たちと交流しておいたほうが良いのではないかという思いはあるが、俺はここでは一番弱い。

 フィナンシェと俺を除く三十人の中に喧嘩早いやつがいないとも限らないし、もしここにいる誰かと喧嘩にでもなってしまった場合、俺はあっさりやられてしまう。死んでしまう可能性もある。

 誰かと話すのなら相手の攻撃を防げそうなフィナンシェがそばにいるときでなければ危険だ。

 フィナンシェが部屋から出て行ってしまいそうな今の状況で他国の精鋭に話しかける勇気は俺にはない。


 ここは、ノエルとかいう名の少女にまた絡まれる前にフィナンシェを追ってさっさと部屋を出た方がよいな。

 そう考え、フィナンシェを追いかける。

 席を立つ際、室内にいた精鋭数名と目が合ったような気がした。






 ……こんなにのんびりしていてよいのだろうか?

 いくら宿に戻り、くつろげるような環境になったからとはいえ、気が抜けすぎではないだろうか。

 ベッドに座りながら両手に食べ物を持ってすっかり素顔に戻ったフィナンシェを眺めながらそう思う。


 目星をつけていたのか、会議を行っていた部屋を出て真っすぐにパンに野菜と肉を挟んでいる料理を売り物としている屋台に直行したかと思えば、急いで宿に戻ってきてこれだもんな。

 さすがの食い意地。と言いたいが、両手でやっと持ちきれるくらいの大きさのパンがテーブルの上に十個も積み重なっている姿を見ていると、この食欲は食い意地という言葉では収まらないような気がしてくる。


 普通の人間なら二個くらい食べるのが限界な大きさ。

 にもかかわらず、フィナンシェはすでに二個のパンをぺろりと平らげ、さらに両手に二個のパンを持っている。

 今まであまり気にしていなかったが、意識してみると明らかにおかしい。

 どう見てもフィナンシェの身体に入りきらない量の食べ物が次々とその口の中へと消えていく。

 怪奇現象と言い換えてもいい。


 あの食べ物たちは一体どこに消えていくのか。

 もしかしてフィナンシェの腹の中には“世界渡りの石扉”が存在しているのではないか。

 そう思ってしまうほど異様な光景だ。


「トールは食べなくていいの?」

「ああ。まだあまり減ってないんだ」

「そうなの? じゃあ、トールの分として買ったこの二つはテッドと私で半分こしちゃっていい?」

「好きにしてくれ」

「やったあ!」


 ありえない量のパンを食べながら、なんとも呑気な会話。

 嬉しそうに食べているのはいいが、もう少ししたらダララのダンジョンに向けて移動を開始しなくてはいけないことをわかっているのだろうか?

 そんな疑問が浮かんでくる。


 今回の作戦は各人の位置取りが重要。

 俺たち三十二人が等間隔に並んでいないと包囲にはならないし、一人だけ突出してしまったりするとその一人が集中的に狙われたり敵が予想外の動きをする危険性が増したりしてしまう。

 三十二人でしっかりと三猿の縄張りを包囲するためには作戦開始時の各人のスタート位置と、そこからの歩幅をできるだけ合わせることが重要となってくる。


 そのために、あと一時間後にはこの町が用意したダララのダンジョン行きの馬車に乗り、俺たち三十二人はこの国の兵士の案内によってそれぞれの作戦開始地点に案内されることになっているのだが、フィナンシェは何も準備をしなくてよいのだろうか。

 俺は一通りの準備を終えているが、この作戦に参加することが決まってからの十三日間、フィナンシェが三猿対策として何か特別な準備をしていたという記憶はない。

 三猿くらいなら普通に斬り伏せられるということか、あるいは俺が馬に乗って気絶していたあいだに何か準備をしていたのか。

 必要となりそうなものはすでにこの国が現地に用意してくれているという話だし、どちらにせよ俺が心配せずとも何も問題ないのかもしれないが、食べ物にしか興味がないのではないかと思えてしまうような姿を見せられると本当に大丈夫かと心配になってくる。

 なにせ、フィナンシェはいま最後の一口を名残惜しそうに見つめている。

 この顔は「まだお腹が空いているのにもうこれしか残っていない」という顔。

 どう考えても異常な食欲だ。


 もともと十四個あったパンはテッドとフィナンシェで等分してなお七個ずつという量があった。

 消化機能に優れているスライムのテッドならともかく、人間のフィナンシェには到底食べきれる量ではないように見えたのだが、十四個のパンはあっという間になくなり、あとはフィナンシェの持っている一口分を残すのみとなっている。

 あの大きさのパンを七個も。

 俺なら食べられたとしても二個が限界だと思われるパン七個がこの短時間ですべて腹の中。


 まさに圧巻。

 食欲においてフィナンシェの右に出る者はいないに違いない。


 って、フィナンシェの食欲について考えている場合じゃない。

 何か足りない物がないかどうか、今一度荷物の確認をしなくては。

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