表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/375

絡まれた理由

 冒険者ギルド内の食堂で飯を食おうとしたら変な男に絡まれた。


「おい、そこの貧相なガキ。お前が【金眼】と一緒にいたっていうガキだな?」


 なんだ? この筋肉ダルマは。

 きんがんってのはなんのことだ? 一緒に居たってことはフィナンシェのことか?

 きんがん、キンガン……ああ、金眼か。たしかにフィナンシェははちみつ色の綺麗な眼をしている。


「金眼ってのはフィナンシェのことか?」

「ああ。そうだ。あのクソ女と一緒にいたのはお前で間違いないみたいだな」


 フィナンシェがクソ女?

 この筋肉ダルマとフィナンシェの間に何があったのかは知らないが俺の知ってるフィナンシェはそんな呼ばれ方をするような奴じゃない。

 フィナンシェとこいつの間にいったい何があったんだ?

 ちょっと興味がわいてきたぞ。


「たしかにフィナンシェとは一緒に行動しているが、俺に絡んできた理由は何だ? まず、アンタとあいつがどんな関係か教えてくれないか?」

「教えてやってもいいがその前に一つ答えろ。お前は【金眼】の仲間か?」


 思ったよりも話が通じそうだ。てっきりこっちの話なんて聞く耳持たない奴だと思ってた。

 こいつからの質問は俺とフィナンシェが仲間かどうか、か。

 さて、どうなんだろうか。


 そもそも、こいつの言う「仲間」ってのはなにを指してるんだ?

 通常、冒険者の言う仲間ってのは一緒に依頼を受けるような間柄の、いわゆるパーティメンバーのことだ。

 だが、フィナンシェには金持ちの家の令嬢疑惑がある。

 もしかしたら俺がフィナンシェの家の関係者かどうかを尋ねられているのかもしれないし、そうでなくともフィナンシェが俺の知らない何らかのグループに所属していてその一員かどうかを訊かれている可能性もある。

 まあ、俺はどれでもないから仲間ではないんだが。


 問題はどっちと答えるのが正解なのかだ。

 目の前の筋肉ダルマはどう見ても俺より強い。そして、乱暴そうだ。

 俺が回答を誤ったらいまにも斬りかかってきそうな雰囲気を醸し出している。俺の近くに来てからずっと腰に佩いた剣に手を置いているしな。それは絶対に抜くなよ? 抜かれたら俺が死ぬ。

 こいつの望む答えを言えなかったら俺の命が危ういのは間違いない。

 フィナンシェのことをクソ女と呼んでいたこととわざわざこんな質問をしてきたってことを合わせて考えるとフィナンシェに恨みを持っている可能性が高いよな。なら、関係者でないことをアピールした方がいいかもしれない。正直に答えよう。


「俺はフィナンシェの仲間じゃない。四日前にカナタリのダンジョンで出会ったばかりで、成り行きでダンジョンから街までの案内と冒険者登録の付き添いをしてもらっただけだ」


 どうだ? この回答で合ってるか?


「そうか。【金眼】がどっかのガキとパーティを組むって小耳にはさんでここに来たんだが、その情報は間違いだったみたいだな。あいつの仲間だと抜かすようならボコボコにしてたとこだがそうじゃないならいいんだ」


 正解だったみたいだ。間違えなくてよかった。


「お前からの質問は俺とあのクソ女の関係についてだったな。お前があのクソ女の仲間じゃないってんならわざわざ教えてやる必要もないと思うが約束しちまったもんな。どうせこのギルドの奴なら皆知ってることだ。教えてやるよ」

「ああ、頼む」


 このギルドの奴なら皆知ってるってなんだ。フィナンシェもこいつもそんなに有名なのか。

 薄々気づいてはいたが、ギルドに入ったときの注目は俺ではなくフィナンシェに向けられたものだったか。


「なに、そんなに難しい話じゃねえ。俺があのクソ女をパーティメンバーに誘ってそれをアイツが断った。それを三十回ほど繰り返したあとアイツと俺で決闘を行い俺がコテンパンにされた。それだけの関係だ。決闘の条件は俺が勝ったら【金眼】が俺のパーティに加わる。【金眼】が勝ったら俺はもう【金眼】をパーティに誘わないってものだった。別に誘いを断られたことや決闘で負けたことに腹を立てているわけじゃねえ。あのクソ女、決闘が終わった瞬間に俺をバカにしやがったんだ。この程度の実力でよく私をパーティに誘えたわね、だとさ。そう言われた時の俺の気持ちがわかるか? 絶望しかなかったよ」

「なるほど。あんたはフィナンシェにバカにされたことを根に持っているのか」


 あまり強そうに見えないフィナンシェがこの筋肉ダルマに勝利したこととかどうしてこいつはフィナンシェを三十回もパーティメンバーに誘ったのかとか色々気になることはあったがなんとなく話は分かった。


「いや、そうじゃねえ。それだけなら恨むようなことはなかった。俺の実力が足りなくて決闘で負けたのは事実だったからな。何を言われたとしても文句は言えねえ」

「ってことは、まだ何かあるのか」

「ああ。今日はここにいねえが、俺には三人パーティメンバーがいるんだ。一番遅くにパーティに加わった奴でも十年は一緒にいる。皆、努力して実力を付けてきた良い奴らなんだよ。良いパーティを組めてよかったと俺は思ってる。それなのに、あのクソ女はそんな俺たちのパーティをバカにしやがったんだ」

「それはまた、どういった経緯で?」


 顔を俯かせた筋肉ダルマが苦々しい口ぶりで言葉を紡ぐが、その内容を聞いて少しおかしいと思った。

 いくら外面モードのフィナンシェだったとしても他人をバカにするとは考えにくい。何か行き違いがあるように思える。


「決闘の数日後、俺たちは少し難易度の高い依頼を受けた。途中危ない目に遭いながらもなんとか全員無事にその依頼を達成した俺たちは、その成功報酬をつかってこの食堂で宴会をしていたんだ。その横をたまたま【金眼】が通りかかったから俺はこう言ってやった。どうだ、俺のパーティもちょっとはやるだろ? って。そしたらあいつはなんて返してきたと思う?」

「うーん、『おめでとう。ここまでやるなんて思わなかったわ』とか? でもこれじゃ評価を見直されたようにもとれるからパーティがバカにされたことと繋がらないか。フィナンシェはなんて言ったんだ?」


 そうきいた瞬間、筋肉ダルマの顔がそれまでの悔しさが入り混じっていた表情から怒り一色へと変わった。


「あいつはこう言ったんだ。『あなたたちにはお似合いの依頼だと思うわ。努力すればもっと難しい依頼もこなせるようになるわよ』だとよ。愕然としたよ。あいつは俺たちが努力していないと思ってやがったんだって。こんなことを言うのは自分の才能の無さを認めるようで嫌なんだが、俺たちは精一杯努力した結果その依頼をやっと達成できるだけの実力になったんだ。そんな俺たちに向かってもっと努力しろとあいつは言いやがった。もし俺たちが努力していることを知っていてそんな言葉を吐いたなら『努力してもその程度なんて話にならないわ』とバカにされているようでムカつくし、本心から俺たちが精一杯の努力をしていないと思っていたのならそれこそ本当にバカにされている。その言葉を聞いた時思った。このクソ女、と。あのクソ女は俺の仲間の頑張りを、俺たちのパーティがそれまで積み上げてきたものを、そしてなにより、努力を怠ることのなかったあいつらの頑張りと誇りをバカにしやがったんだ!」


 ああ。こいつが怒ってるのは外面モードのフィナンシェしか知らないからか。


 おそらくフィナンシェは特に何も考えずにそんな発言をしたのだろう。純粋にこいつらのパーティを応援しただけで、あなたたちならもっと難しい依頼もこなせるようになると思うから頑張って! とかそんな意図だったのではないだろうか。決闘のあとにこいつが言われたという言葉も似たようなことは言ったんだろうがニュアンスは全然違うものだったはずだ。

 それを決闘に負けて少々卑屈になっていた筋肉ダルマが変に邪推してしまったというのが事の真相だろう。

 普段のあいつのアホっぽい言動を知っていれば「また適当にものを言ってるな」とわかるが、この筋肉ダルマは常に深く思考を巡らせていそうに見える外面フィナンシェが本当のフィナンシェだと思っている。フィナンシェが素直でアホだということを知らなければ発言の裏に何か意味があるのではないかと考え、嫌味を言われたと思ってしまっても仕方がない。

 うん。これは外面モード中だったにもかかわらずよく考えないで発言したフィナンシェが悪いな。なんて考えたところでフィナンシェが階段を下りてくるのが目に入った。


 あのバカ、最悪のタイミングで戻ってきやがって。


 一悶着ありそうな予感に嫌な汗が噴き出てきた。

 なんでメインキャラよりも先に筋肉ダルマの話が掘り下げられているんだと思った方もいると思います。私もその1人です。

 絡んできたかませ冒険者をびびらせるというテンプレ回になる予定だったのにどうしてこうなった。


 あ、主人公が前回手を付けようとしていた料理はまだ食べられてません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ