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 翌日、翌々日も朝陽君の隣には理香子ちゃんはいなかった。

 学園でも「利里さんと朝陽君別れたのかな?」「ざまぁないわ、あのビッチ」「どっちから振ったんだろ?」と二人の関係について、噂が飛び交っている。

 そんな様子を私は自分の席に座りながら聞き、戦々恐々としていた。


 だって朝陽君、カフェで最後に言ってたんだよ。

「明日、理香子と話してみるよ」

 って。


 ということはだよ? 昨日のうちに話をしたとして、今日も隣にいないっていうことは、もしかしてそういうことじゃないの?

 私の安易なアドバイスが、この結果を招いてしまったのだとしたら、朝陽君にも理香子ちゃんにも、申し訳がなさすぎる。


「はぁ……」


 溜息だってでるよ。未久里ちゃんはこうなっても私のせいじゃないし、朝陽君が私のせいにすることもないって言ってたけど、それでも私は気に病んじゃうよ。

 これが全て自分に関係のないところで起こった出来事なら、私も他の子達のように二人の関係を想像してみたり、これで次に二人にどんな展開が待っているのか、ドキドキワクワクしたかもしれない。

 でも、私の言葉がキッカケで二人が別れたのなら、それはもう私にも責任があるんじゃないの?

 あの時は責任は取らないよ! って心の中で思ってたけど、いざ実際にそうなったら、やっぱり心地が良くないよ。


「そういえば三美さんって、一昨日、朝陽君に呼ばれてたよね? あれって結局なんだったの?」


 それにこういう子達がいるのも問題だ。

 あれで二人が無事に仲直りしていてくれれば、あのときのことは皆に忘れられてたのに、今や学園中の噂である二人だから、それに関係していそうな私にも変な注目が集まってしまっている。


「特になにかあったとか、そういうんじゃないよ。朝陽君の落とし物を拾って届けたから、それのお礼ってモビディで御馳走してもらっただけなんだよ」


 こうした言い訳をするのも昨日から合わせて、三回か四回目くらいだ。

 朝陽君と理香子ちゃん……恨むからね! それとこれとは話が別なんだから!


「えー、あやしー!」


 まぁ、私に関係する話は、そのうち風化していくだろうし、そこは気にしないようにすれば大丈夫。

 それよりも朝陽君と理香子ちゃんの問題のほうが重要だ。

 だって、私の中で罪悪感様と責任感様が「お前のせいだ。お前のせいで二人が別れたんだ」ってずっと恨み言を言っている。


 この罪悪感様と責任感様を消し去るには、私が二人の関係を修復しないと……。

 無視して放置すれば、きっと私はずっとそのことを引きずってしまうに違いない。

 

 私の中の正義感様が「さぁ、今こそお前の出番だ!」と叫ぶ。

 よし! そうだ! 私はやるんだ! まずは理香子ちゃんから話を聞いて、対策を考えるんだ!


 え? どうして朝陽君から話を聞かないんだって? それは朝陽君の前でまともに喋れる自信がないからだよ!

 イケメンの前だと意識して緊張しちゃうんだから、しょうがないでしょ!

 美少女が相手なら、目の保養にはなっても意識することはないから、たぶん普通に話せるし!


 思い立ったが吉日、放課後、授業が終わると同時に、席を立って理香子ちゃんのクラスへと急ぐ。


「利里さん、あの、お話があります。いいですか?」


 理香子ちゃんは教室で孤立していた。

 去年の夏くらいから、ずっと朝陽君と二人一緒で、学園に同性の友人はいないみたいだったし、特に今は噂の張本人ということもあって、同じクラスの子達からは、距離をとられているみたい。


「あたしに話?」


 私が話しかけると、理香子ちゃんはその大きな目を丸くしながら、首を傾げた。


 あ、そうだ、今更だけど私って直接、理香子ちゃんとは面識がなかったんだった!

 私が一方的に彼女のことを知っているだけで、向こうは私のことを知らないっていう単純なことを忘れてた!


「あ、あの! 私はC組の三美 美子です! えっと、とりあえず来てください!」


 このままここで問答していては、肝心の内容を話す時間がなくなってしまう。

 私は強引に彼女の腕を取り、体育館の裏まで連れ出した。


 学園で人気(ひとけ)のないところといえば、定番なのが体育館の裏だよね!

 少女漫画でも告白の場面とかでよく使われてるし、人気のないところで煙草を吸うような生徒はうちの学園にはいないから、安心して誰にも聞かせたくない話ができる。


「それであの、こんなところまで連れてきてあたしに話ってなんですか?」


 私が腕を離すと、理香子ちゃんが不機嫌そうにそう言った。

 それはそうだ。本人の意志を無視して無理矢理に連れてきたんだもん。


「あの! 朝陽君のことで話があって」


 理香子ちゃんから発せられる不機嫌オーラに気おされないよう、勇気をだして話しかける。


「朝陽君の? それってアナタと関係あるんですか?」


 朝陽君の名前をだすと、理香子ちゃんの不機嫌オーラが更に強まった。

 うぅ、そんなに怒ることないじゃない、私は二人の関係を元に戻すために話がしたいだけなんだから。


「えっと、あの、朝陽君にマスコットのことを理香子ちゃんに話したほうが良いって、アドバイスをしたのは私だから」


「それで? だからなんなんですか?」


 私の話を聞いても、理香子ちゃんの不機嫌オーラがおさまらない。

 表情からも「私、イライラしてます!」というのが伝わってくる。

 怖い、怖いよ! 理香子ちゃん!

 私のメンタルは水風船よりも柔いんだよ、シャボン玉くらい簡単に壊れちゃうんだよ。

 だからその怖い顔をやめて、笑顔で私の話を聞いてよ。


「あの、だから、仲直りしてほしくて」


 そうだそうだー、仲直りしろー!

 私を安心させるために仲直りしてよー!


「なんの権利があってあたしにそんなこと言うんですか、仲直りなんてするつもりもないし、朝陽君とはもう別れました! じゃあ行っていいですか?」


 権利……権利かぁ。

 そんなふうに言われたら、私はなにも言えないよ。

 でも、ここまでの話でわかったけど、理香子ちゃんの意志は固いみたい。

 朝陽君に怒ってるっていうよりも、もう煩わされたくないって、そう思っているのがなんとなく伝わってきた。


「あ、はい、ごめんなさい」


 私が謝ると、理香子ちゃんはその場を去っていった。

 あぁ、そっか、二人の関係はもう終わったんだ。


 去年の夏、私がランキングをつけはじめてから、二人は付き合いはじめた。

 その様子をいつも私は遠くから見てた。


 そっか、私が二人を仲直りさせたいって思った理由の一部がちょっとわかった。

 私、二人の関係を見てるのが好きだったんだ。

 イケメンと美少女のバカップルを見てるのが好きだったんだ。


 だから関係ないのに寂しいって思っちゃうんだ。



 それから私はなんとなく帰る気も起こらず、自分の席に戻って、空を眺めながら物思いにふけった。


 人の心は移ろいやすい。昨日まで大好きだった人が、ある日突然どうでもいい存在になることだってあるのかもしれない。

 私はずっと見てただけだけど、そんな私でも、それはちょっと寂しいなって思う。


 夕焼けが私しかいない教室を照らして、オレンジ色の光を灯す。

 もう今日はなにもやる気が起きないや。そういえばランキングノートにも触れていない。


 そんなふうに物思いにふけっていると、ふと教室の扉の前に人影があるのが見えた。


「朝陽君?」


 なんとなくそんな気がして、名前を呼んでみる。

 これで違っていたら恥ずかしいどころの騒ぎではない。


「あー……相談した手前、結果を報告しないといけないかなってさ……」


 バツが悪そうにそう言って頭を掻きながら、朝陽君が教室に入ってくる。


 セーフ、セェーフ! ちゃんと朝陽君だった! これで他の子だったりしたあかつきには、一生消えない傷が私の心に残ったよ!

 恥ずかしくて、夕焼けよりも顔が真っ赤になっただろうということは想像に難くないよ!


「えー、報告します! 振られました!」


 私の前まで歩いてきた朝陽君は、気をつけの姿勢をして、ハキハキとそう言った。


「知ってます」


「あー……学園中で噂になってたもんなぁ」


 私の「知っている」という言葉に、朝陽君がへなへなと脱力したように、手前の机の上に上体を預けた。


 目の前には朝陽君の頭のつむじ。

 男の子の匂いが鼻をくすぐる。


 近い! 近いよ! 朝陽君!

 私の許容範囲を遥かにオーバーする近さだよ!

 もうちょっと離れて! 私のイケメン許容範囲は最低一メートルだよ!(っていうかそれが限界!) 


「私を取るか、そのマスコットを取るか、選べだってさ」


 机の上に上半身を乗せたまま、こちらを見ないで朝陽君がそう呟くように言った。


 そっか、理香子ちゃんと復縁のチャンスはあったんだ。

 そこでマスコットの方を選んじゃったんだ、この人は。


「死んだ人間の思い出と、生きてる人間。どっち取ったほうが得かなんてわかってんのに、馬鹿だよなぁ」


 そのまま朝陽君が自嘲するように笑う。

 声が軽く震え、その目元には涙が溜まっている。

 それを隠すように、朝陽君が腕で目をこすった。

 

「まぁ、そういうわけだから、三美さんは気にしないで。結局、なにをしたって俺達は別れてたんだと思うから」


 それから朝陽君は机に預けていた上半身を起こし、うるうるとさせた目で私に向けてそう言う。

 

 そんな彼に、私が返す言葉が浮かばない。


『大丈夫?』

 今はまだ大丈夫じゃないって見てればわかるよ。


『私がいるよ』

 まともに会話したの、この前のカフェの一回だけだよ!


『私は気にしてないから、元気だして』

 いや、気にしろよ! ってなるよ!


 そうして何も言えない私に、朝陽君は「じゃあそういうわけだから!」と言い残して、教室を去って行く。


 うぅ……、こういうときって、どうするのが正解なの? 教えて神様! 未久里様!


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