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僕をさりげなく弱らせる方法  作者: 降井田むさし
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引っ込むことと僕

お腹は食べるとかなり膨れるけど、少し時間が経てばすぐに引っ込んでしまう。お腹が膨れ過ぎているのはあまり好きではないので、引っ込んでくれるのはいい。


出っ歯がもう少し引っ込めばいいと思っている。やっぱり歯が綺麗に整っているのといないのとでは印象が全然違う。歯が出ているのと出ていないのだと、当然出ていない方がいい。


髪の毛が昨日よりも少しだけ引っ込んで短くなったんじゃないかと思うときがたまにある。寝ている間に誰かに切られたとしたら枕元に残骸が残っているだろうから違う。引っ込んだと考える方が妥当だろう。髪の毛を切っていないのに“髪切った?”と聞かれることが多いので、何かしらの現象が起きていることは確かである。


自分が邪魔だと感じたり、場違いだなと感じたときはすぐに引っ込む。そんなことよりも僕が気にしているものがある。それはアゴだ。今、一番引っ込んでほしいものは自分のアゴである。『よく見るとアゴ出てるよね』って言われたことが何回もある。


アゴを浸したらアゴが引っ込む液体があったらほしい。その液体が3000円以内だったら迷わず買ってしまうと思う。アゴが出たのはたぶん、子供の頃にアゴで家族みんなに肩叩きをしたからかもしれない。それ以外で思い当たることはなにもない。


昔、ロングロングアゴーと女子に言っていたクラスメートがいたけど引っ込めなんて思わなかった。アゴ引っ込め!といつまでもアゴのことを気にしている僕のこの気持ちよ引っ込め!と思ったりはした。僕にとってアゴとは、自分を主張してくれる数少ないものだろう。


僕をさりげなく弱らせるとしたら、道で僕に話し掛けて“お腹引っ込んでるよね”とか、“前歯は少し出てるね”とかそういう話で盛り上げたあとに、“よく見るとアゴ出てるよね”と言えばいい。そして、アゴを浸したらアゴが引っ込む液体があると言って、その液体が3000円であることを伝えて、僕が食い付いてきたら逃げればいい。確実に弱る。

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