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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

curse

作者: 内藤アルト

 つらい。

 生きるのがつらい。

 なぜこんな目に合わなければならないのだろう。

 死にたい。そう思うことも多いが、こんなことで死ぬというのも悔しい。

 別に殴られたりしたわけじゃないし、体は痛くない。ただ、心が痛い。

 無視されたり、ものを捨てられたり、そのくらいのこと。

 でも、たったそれくらいのことでも、された側にとってはつらいのだ。多分あの子達にとってはただの遊びなのだろうけど。

 まあもう少しで学校も卒業だから、あとちょっとの辛抱だから、頑張る。最近めげそうだけど…。

 前までは従姉妹の面倒を見ていたりして、その時だけは苦しみを忘れられていたんだけど、最近は会えていない。聞いた話によると、誘拐されたらしい。そこでの扱いが酷かったらしく、誰とも喋らなくなってしまったらしい。今どうしてるかとか、元気なのかとか、そういう話も聞かない。会いたいけど、仕方ないよね。


 私にも心の支えが全くないわけではない。学校の近くの公園にいる野良猫が、今の私の心の支え。

 この子は人懐こくて、私以外の人にも甘えるけど、別にそんなことはどうでも良い。私に優しくしてくれる存在。それだけで、良かった。

 私の親は仕事ばかりでほとんど家にいないし、私に温もりを与えてくれるのはこの子だけだった。


 なのに


 なんで?

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでこの子がここにいるの?

 おかしいよね?なんでこの子がここにいるの?こことは関係ないこの子がなんでここに?なんでこんな格好で?なんでこんな色で?あの綺麗な白い毛並みはどこ?この子はなんでこんなに赤くてぐちゃぐちゃなの?なんでこの子はこんな姿で私の机の上にいるの?なんで?誰のせい?私?私が関わったから?私が弱かったから?私のせいでこの子が?…………違う。違う違う違う違う違う違う!!全部あいつらのせいだ。あそこで笑ってるあいつらのせいだ。殺してやる。殺してやる。いや、殺すなんてダメだ。あいつらも苦しめないと。あいつらの一番大事なものを壊してやらないと。あいつら…あの2人だけは絶対に許さない。元はと言えばあいつらが始めたんだから。あいつらがいなければ私はこんなに苦しまなくて済んだんだ。呪ってやる。覚悟してろよ…



 そして私は家に帰った。学校にいる意味なんてない。家に帰って作戦を練らなきゃ。あいつらへの復讐の計画を。

 パソコンを開く。私にでもできそうな復讐方法を探す。直接手を出すとバレた時にどうなるかわからないし、あまり信じてはいなかったけど、ここはやはり呪うのが良いだろうか。そう思って呪いの方法を調べる。用意が大変なものが多い。できればすぐにでも実行したいのに。早く、早く、そう思っていると、1つのサイトが目に入った。

『手作り呪具屋』

 気になってそのサイトを開くと、売り物の情報も何もなく、ただこう書いてあった。


【この度は当店にご来店ありがとうございます。失礼ながら、本当にあなたが当店のお客様としてふさわしいかどうか調べさせていただきますので、3分後に表示されるメールアドレスに今回ご来店いただいた理由を書いて送ってください。お客様にふさわしいと思われる方には12時間以内にお返事します。】


 3分待つ。すると、文章の下にメールアドレスらしきものが現れた。急いでメールを送る。信用してはいないが、やってみるだけやってみようと思った。もしかしたら、誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれない。そう思えるほどに落ち着いた。先ほどまでの興奮が嘘のように消えていた。

 ぼーっとしていたら、もう返信が来ている。まだ五分しか経っていないのに。

 メールを開く。


【その後以来お受けします。こちらの電話番号に電話してください。直接話しましょう。】


 電話をかける。誰かと話をするのはいつぶりだろうか。先ほどとは違う意味でドキドキしてきた。



「もしもし。手作り呪具屋です」

「… っ」


 声が出ない。


「先ほどメールをくださった方ですね?」

「…ぁ、…はい」


 ようやく絞り出せた声。私の声はこんな声だっただろうか。

 携帯の向こう側で相手が笑った気がした。


「では早速商談に入りましょうか」


 女性の声。若い。もしかしたら同い年じゃないか。そう考えているうちに彼女は話を進めていた。


「全て私の手作りなので期待通りの結果が出ない可能性もあります。その時は全額返金いたしますのでご安心を。できるだけ早くとのことでしたが、それでしたら当方、今夜にでも行える呪いを用意してありますが…いかがいたしましょう?」

「今夜、ですか?」

「はい。ただいまの時間ですと、遅くても午後7時には呪具をお届けできますよ?」


 顔は見えないが、きっと彼女は笑っている。心の底から楽しみながら。それでも嫌な気はしないのは、敵ではないと、心を開いてしまった証拠なのだろうか。

 今の私には正常な判断などできそうにない。考えるのはよそう。


「どんな呪いですか?」

「そうですねぇ。お客様は何人呪いたいですか?」

「2人です」

「では、できるだけ詳しく、どうしたいかをお教えください」


 考える。どうしたいか。

 あいつらの大切なものはなんだっただろうか。


「陸上選手を目指すあの女からは足を、書道家を目指すあの女からは腕を奪いたい。あいつらはそれに全てをかけているから。それがなくなったらあいつらには何も残らないはず」

「ふむ…そうですねぇ、それでしたら良い品があります。ちょっと特殊ですが。この方法でしたらあともう1人呪えますよ?」


 もう1人…?

 だったらあいつしかいない。


「じゃあもう1人、私の担任を。あいつは仕事人間なんで職を奪いたいです。教師を続けるために、我が身可愛さにいじめを知らないふりしてたあいつを呪いたいです」

「職…じゃあ首かなぁ…?……わかりました。これから説明をします。よく聞いてくださいね。」



「あなたに託すのは『人形』と『斧』です。『人形』は2つ、それぞれを呪いの対象者に見立て奪いたい四肢を1つだけ、喰いちぎってください。集中してやってくださいね?ここは意志がしっかりしていないとですから。できれば写真を顔の部分に貼っておくといいです。次に『斧』ですね。これは簡単です。その先生の首にぶっ刺してください。切り落としちゃダメですよ?半分くらいに留めておいてください。死んじゃいますので。それと、これは全て夢の中で行っていただきます。そのための道具も一緒に送ります。なんでしたら、ガイドとして私もついて行きましょうか?今回はサービスで、無料で助言してあげますよ?」




 午後6時、荷物が届いた。黒い箱だ。

 中には、赤と黄色の布でチグハグに縫い合わされた人形が2つに、青色の小さめの斧が1つ、そしてネックレスが入っていた。よくわからない模様の飾りがついた黒いネックレス。これをつけて眠ることで、私は夢の中で誰かを呪うことができるようになるらしい。

 詳しいことはむこうでアルテナさん、あのサイトの管理人が説明してくれるらしい。

 とりあえず、今できる準備をしておこう




 午後8時。アルテナさんは8時に夢に入れと言っていた。だから今、私は、夢に入る。夢を見るとか、眠るとか、そんな感覚じゃなくて、まさしく、入る。目を閉じた瞬間、意識がどこかへ飛ばされたような、妙な浮遊感。気づくと私は立っていた。今まで自分の部屋のベッドの中にいたのに、私は制服を着て学校の校門前にいた。


「やあ依頼人。少し遅かったねぇ?」


 声のした方を向くと、知らない女がいた。

 膝下まで伸びた黒くてまっすぐな髪。楽しそうに細められた目は暗くてよく見えなかったが、おそらく黒。そして白い肌。服装は私と同じ制服だが、なんというか、雰囲気が全然違う。何かが違う。この人は本当に人間なんだろうか。そう思うほどに、この人は美しかった。


「んー、色々想像するのは良いけど、そろそろ説明を始めて良いかな?」


 赤く艶めく唇から発せられる声は、電話で聞いた声に似ていた。つまり…


「あ、アルテナ…さん…?」

「ん?そうだけど?」


 パッと見た感じ、私と同じか少し上くらいの年齢に見えるのだが、本当にこの人が呪い屋なのだろうか。


「言っとくけど、私は呪わないからね。呪うのは君だ」

「え、あ、はい」


 もしかして声に出ていたのだろうか。クスクス笑う彼女。落ち着いたところで説明が始まった。


「今回の呪いは3人までしか呪えない。しかも、写真で固定した人形以外、つまり君の先生は、完全に君の意思でこの空間に創り出さなきゃいけない。そいつを想像して、目の前にその存在が確認できたら、ようやく呪える。方法は電話で言った通り。まあこの空間は簡単に人物を想像できるし、創造できるようにできてる。ただ、だからこそ気をつけてもらいたいことがあるんだ。絶対にその3人以外の人物、存在を想像しないで。私が君に渡した道具では3人しか呪えない。つまり、それ以外の奴からは『呪詛返し』が起きる可能性がある。私はあくまでガイド。ここの空間に介入はできないから、注意してね」


 呪詛返し…。大丈夫。私なら、大丈夫。

 私は、学校の敷地に入った。




「まずは誰にする?」

「先にあいつらを喰いちぎる」

「そう?じゃあ早めにやっちゃおっか。校舎内に入ってからじゃないと呪えないからね?」


 事前に考えておいた学校への侵入経路。体育教員室近くの廊下の鍵は壊れているため侵入可能。そこから校舎に入る。

 入った瞬間、寒気がした。外と比べるとここは段違いに寒い。手がかじかむほどに。

 寒いのはどうしようもないから、この後のことを考えて気を紛らわせる。アルテナさんは隣でニコニコ笑ってる。楽しそうだが…寒くないのか…?そういえば介入できないとか言ってたし、感覚もないのかも…ってそうじゃない。なんでここから侵入したか。鍵だけの問題じゃない。私の担任が体育教師だからだ。ここの方が想像しやすい。


 ガタッ


「あらぁ?」

「な、何?」

「今、想像したでしょ」


 想像って…一瞬体育教員室に立ってる姿を思い浮かべただけ…それでもダメなの!?


「一回出したからには早く済ませないと…変に想像するとその想像通りに変化するから気をつけてねぇ?ほら、早く終わらせよ?」


 仕方ない。順番が変わってしまうけど、アルテナさんに従った方が良い。

 扉を開ける。目の前には先生の後ろ姿。私は先生の首をめがけて斧を振る。


 ゴチュ…


 変な音が部屋に響く。先生の首に刺さった斧は消え、血を吹き出しながら先生は倒れる。

 先生が倒れた時、棚に当たってしまってようでその棚がなぜか出口を塞いでしまう。もしかして、棚の中身を私が知らないから、中身が空っぽとか?でもそれなら元の場所に戻せるはず…

 だめだ。重い。確かにこの重さは知ってる。大掃除の時に5人がかりでずらした覚えがある。でも、重さがわかるなら先生が倒れたくらいで動かなくても…あー、そうだ、そういえばこいつデブなんだった…

 そう、私の担任はデブだ。教室に入るとき、よく扉で突っかかってた。こいつの体重は知らないが、絶対重い。その想像がこの現象を起こしたのか…

 仕方ない。出るときは窓から出よう。大きさは十分だし…

 というか、こいつ邪魔なんだが、消えないのだろうか。こういう死体って動きそうで怖い。ここであいつらを呪うのはやめよう。怖いから。

 確かここから直接プールに続いている道があったはず。そう思って見渡すと、それらしき扉がある。開いてみるとそこはもうプールだった。想像ってすごい。

 人形を取り出し、片方の右腕ともう片方の左足を喰いちぎる。この人形はここに置いて言って良いらしい。そして、食いちぎった部位は飲み込まなくてはならないらしい…

 人形の中身は藁が詰まっていて、飲み込むのには苦労した。

 とりあえず、終わったから帰ろう。

 アルテナさんによれば、校門から出れば夢から覚めるらしい。まずはさっきの部屋に戻ろう。プールは屋内で窓はない。

 扉を開こうとすると、何か音がする。


 ズル……ズル……ズル……


 少しだけ開けて中を見ると、先生の死体が匍匐前進しながら、部屋をぐるぐる回っていた。早くはないが、部屋が小さいため、見つかればすぐに捕まってしまうだろう。


「あーあ。もしかしてさっき怖がっちゃった?動き出すかもー、とか想像しちゃったぁ?」


 そういえばそんな想像した気がする…

 とにかく早く逃げないと。先生の動き方にはパターンがあるようだから、それを覚えて静かに部屋に入る。先生の視界に入らないように机に上る。窓の鍵を開け……開かない。手がかじかんで上手くできない。焦ってしまって気づかれたらどうしようとか考えてしまう。やばい。想像しちゃダメだった。開いた。急いで開けて外に出る。先生の手が私の髪に触れたけど、間に合った。

 校舎の外だ。あとはグラウンドを抜ければ校門。空は夕焼け色。帰宅のイメージだからだろうか。いつもの帰り道だ。まあいつもはここであいつが入部してる陸上部とか、野球部とかがランニングしてるんだけどね。今日は静かだ。グラウンドに足を踏み入れた瞬間。


 ザッザッザッザッザッ…


 え?

 すぐに引き返す。なんで?さっきまでいなかったのに。


「っぷ……くく………くはっ、あははははははははっ、な、んでっ、ここまで来てっ、想像しちゃうかなぁっ!ぷぷっ」


 後ろから笑い声が聞こえる。振り向くと、アルテナさんが楽しそうに、嗤ってた。

 嘲るように、馬鹿にするように、そして、愛おしそうに、こちらを見て嗤ってた。


「つくづく君は私を楽しませてくれるねぇっ。ずっと見てたけどさぁっ、君、学習しないねぇ!?楽しいねぇ!可笑しいねぇ!あぁ、最高の見世物だった!!」


 感謝するよ。そう言って彼女は去っていった。一瞬でいなくなった。そりゃそうだ。彼女は意識でしか存在しないのだから。

 私は、彼女にとって何だったのだろうか。

 おもちゃ?

 それが一番あっているだろう。今日ずっと彼女の顔は、好きなおもちゃで遊んでる時のような笑顔だったんだ。

 私は遊ばれていたんだ。






 グラウンドから聞こえる足音はこちらに近づいて来ている。

 私の想像によって周りに生み出されたゾンビたち。

 ここには絶望しかない。

 私に助かる道はない。

 なんで?誰のせい?アルテナ?アルテナが私をここに置いて消えたから?アルテナが裏切ったから?アルテナのせいで私が?…………違う。違う違う違う違う違う違う!!全部私のせいだ。いつも逃げてばかりで楽な道ばかり選んでいた私のせいだ。

 だって、きっと、私がしくじらなければ呪いは完成していた。アルテナは介入していない。全て私が起こしたこと。アルテナは私の味方だった。敵ではなかった。ただ見てただけだけど、ちゃんと注意してくれた。私に、定期的に、想像するなって。うるさいほどに。耳に残るほどに。だから私はずっと意識してた。想像しちゃダメ、怖いことを考えちゃダメ、こんなこと考えちゃダメって…………ん?あぁ、そっか。わかった。

 私の生み出したバケモノは私を捕食していく。痛みはない。もう想像する必要もない。ただ思うことはひとつ。



「アルテナ・ホープライト……私の希望の光……忘れないよ……ずっと……ずっと……あなたが、ぁ」



アルテナは他の小説に出そうと思ってたのだけど…なんか登場してる…


はい。呪いは死を覚悟してやらないとですねぇ。

方法とかはもちろんフィクション。思いつきというかなんというか…


いつもとは違う感じにしてみました!

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