奴隷
人よっては不快に思われる描写があるかもしれません。
俺が前世でずっと妹が欲しいと思っていた理由を話そう。
何、複雑な話などない。ただ絶対に裏切らないような人が欲しかったのだ。別にそんなに嘘と欺瞞に満ちた世界を生きてきた訳では無いけれど、それでも人を信用しきることが出来なかった。親でさえも歳が離れているせいか、信用しきれなかった。
ならば姉ならどうか。俺にも姉はいた。がしかし、いつの日か一切の会話がなくなってしまったのだ。特に喧嘩をしたわけでもないが、だいたい十二歳をすぎる頃から死ぬまでほとんどの会話がなかった。
姉はダメだった。ならば妹ならどうか。そう思ってアリスちゃんに妹を頼んだのだ。
え?男兄弟ではダメなのかって?男と仲良くなるよりは女の子と仲良くなりたいだろう?
そんなわけで俺は絶対に裏切らない人を欲している。
なので……
「奴隷がほしい!!」
「ダメです。奴隷を買うほどのお金はありません」
エリルとアイリスが顔合わせした次の日。
俺はアイリスにお願いをしていた。
この世界は奴隷がいる。借金の末などに売られた、通常奴隷。犯罪を犯した結果、残りの生涯を炭鉱などで働かせられる、犯罪奴隷。どっかそこら辺の村から攫われてきた、違法奴隷。
いろいろいるが、街で普通に買えるのは通常奴隷のみだ。
通常奴隷の値段はピンからキリまであり、大きめの家を買うよりも高かったり、ちょっと高級なランチ程度の者もいる。
もちろん高いのに理由があるように、安いのにも理由がある。例えば足がなかったり、手がなかったり、顔に酷い火傷跡があったり。
俺達は結構儲けている。ちょっと高めの奴隷を数人買うことができる程度の貯金はある。
この貯金はいつか家を買う為のもので、それなりに大きな家を買えるだけの金は溜まっている。
まあどうせ買うなら大きい方がいいよね、てなわけでもっと貯めなくてはならないのだ。
アイリスの発言は、家を買う為に貯金をしなきゃいけないでしょ、ということだ。
「いやそれがな、超格安で、超大きい屋敷が売ってたんだよ。何でもゴーストが住み着いてるからって」
ゴーストは魔物の名前だ。何故街の中に魔物がいるのを放置しているかと言うと、ゴーストは通常攻撃など意味がなく、浄化魔法をかけるしかないのだ。でも屋敷を覆えるだけの広域浄化魔法をかけられるような人など、今の世にはいない(一気に浄化しないとすぐに増えて、元と変わらなくなってしまう)。
どちらにせよ屋敷の中から出てこないのであればそのままでいいか、ということで放置してあるのだ。
もちろんそんなところを誰も買うわけないが、やけくそ気味で不動産屋の軒先に貼ってあったのを、先日見かけたというわけだ。
俺なら浄化できるし、格安で、でかい屋敷が手に入るのでこれは買わないわけにはいかない。
「まあ、お兄様ならば浄化できるかも知れませんね」
「だろ?余った金で使用人代わりの奴隷を買えばいい」
「そういうことでしたら反対する理由はありませんね。エリルさんもそれでいいですか?」
「うむ?我は主達の決定に従うのじゃ!」
こいつ話聞いてたのかな?まあいいか。
「よし。じゃあ行くぞ」
早速不動産屋に行こう。
「あのこの物件は書いてあるとおり、多数のゴーストが住み着いてるんですが……」
「承知の上です」
まあ子供がいきなり魔物の巣窟を買うって言って、はいどうぞとはならないか。まあ売って貰ったけど。
よし、次は奴隷を買いに行こう。
ついたのは、この街最大級の女性奴隷専門店だ。
女性奴隷を買うのは決定しているので問題は無い。これから一緒に住むことになるというのに男なんて買ったらアイリスが汚れてしまう。
「いらっしゃいませ。どのような奴隷をお求めですか」
「欠損奴隷をすべて見せてくれ」
そう言うと訳知り顔で「物好きですね」なんて言われる。
欠損奴隷というのがさっき言った、四肢の欠損があるが故に安い奴隷だ。こういう奴隷の使われ方としてはサンドバッグや、的代わりだ。だからこいつもなかなかゲスだなー、なんて奴隷商のおっさんに仲間を見る目で見られるのだ。
そうして、奴隷が入れられている檻のところまで連れてこられた。
高級な所では、客を部屋に入れて、客の求める条件に合う奴隷を連れてくるのが主流なのだが、欠損奴隷ともなるとそうはいかないのだろう。
そこには左右に四個ずつ檻が並ばされ、一つの檻に二人ずつが入っている。
どの人も皆腕がなかったり足がなかったりしている。治療をしてないせいか酷く膿んでしまっているようだ。一人を除いて、皆幼い。ほとんどの大人はもう処分されてしまったのだろうか。
さらに奥にも誰か居るようだ。扉で仕切られた先に人のいる気配がする。衰弱しているので奴隷達だろう。
「あっちにはどんな奴らがいるんだ?」
ちなみに今の俺は舐められないように悪徳貴族の息子を演じております。雰囲気だけ。
「あちらには獣人のガキどもがいます」
「見せて貰おうか」
なんか強い魔力を感じるのだ。十歳位の頃のアイリス並だ。
そこにいたのは顔中が火傷に覆われていて、両足のない猫族の獣人、ダルマ状態の虎族の獣人、右手右足がなく、耳も片方ない犬族の獣人。皆子どもだ。魔力が多いのは猫族の子だろう。
「さっきの檻にいた八人とここにいる三人。すべて貰おうか」
「へい。お買い上げありがとうございます」
欠損しているのでみんな馬車で運んで着てくれるそうだ。金と配達代を払い、買ったばかりの屋敷の住所を教え、俺達は一足先に屋敷に向かい、浄化しておくことにする。
ついたのは禍々しい屋敷。絶対ここお化け出るって……。
「第一階級魔法 サンクチュアリ」
これまでに使えた人が数人しかいなかったと言われる、広域浄化魔法だ。
よし。これで禍々しいどころか神聖な感じさえする屋敷に早変わりだ。
庭は雑草が生えっぱなしだ。後で焼き払おう。
中に入ってみよう。中は予想よりは荒れていなかった。もちろん綺麗というわけでもないのだが。ホコリなんかはサンクチュアリで浄化されたみたいでそれなりに生活出来そう。でも家具は全部取替えよう。
「思ってたよりも広いですね。私たちの実家程ではないですが、それに匹敵しかねませんね」
「これだけ庭が大きいと走り回ったりできそうじゃのう!」
もちろん庭が広くてもエリルの通常モードじゃ走り回れない。
それにしても大貴族であるシャイン家に匹敵する家の大きさってどういうことなのよ。
元の持ち主が気になるな。
そんなふうにキャイキャイいいながら屋敷を回っていると、ノッカーの音が響く。内蔵された魔道具により増幅させられた音は、きっと屋敷のどこにいても届くだろう。
「はーい」
「奴隷をお届けにあがりました」
「ではそこの広間に置いていってください」
「了解しました」
奴隷達を置いてもらい、チップを渡し、帰って貰った。
「にしても酷いのう。人類は何故ここまで同族にひどく出来るのじゃろうか」
「さあね。頭のどっかがおかしいんだろうよ」
奴隷を一箇所に集めながら話をする。今から奴隷達を回復させる。
「魔法陣展開第一階級魔法 エクストラホーリーヒール」
そう言うと奴隷達の集まっているところの床に、青白い線で描かれた魔法陣が現れる。魔法陣の使い方は主に二つで、広域魔法でない魔法を、魔法陣の上に乗っているもの全てに作用させたり、同じ意味を持つ魔方陣を己の背後に展開させ、同じ魔法を複数発動させたりするのだ。
今回は前者である。
エクストラホーリーヒールは欠損も、傷跡も、魔力が許す限り回復させてしまう魔法である。
凄まじい魔力量の俺が使うと、怪我も病気も、衰弱すらもすべて完治した状態になるのだ。
魔法陣発動したせいか結構魔力を使った。全回復に五分はかかるな。
自分の体になにが起こったのかわからない様子の奴隷たちに笑顔で話しかける。
「やあ、俺が君たちの主人のアレックスだ。どうぞよろしく」