ダンジョン
目を開くとそこは洞窟だった。もう、洞窟という以外どうしようもないくらい、洞窟だ。
とは言っても、暗くてアイリスは見えてないだろうけど。
俺はダンジョンに入る前に、五感すべてを強化したのだ。だからこんなに暗くてもはっきりとここが洞窟だとわかる。
と、そんなこと考えている場合ではない。アイリスが怖がる前に、明るくしよう。
「第十階級魔法 ライト」
そう言うと光り輝く球が四個現れる。第十階級魔法 ライトは、シャインボールと違い、ただ光るだけの球を作り出す魔法だ。出せる球の数は、込められた魔力量と、技術に依存する。まあ四個あれば充分だろう。
生み出した光る球の内、二つを先行させ、一つを俺とアイリスの間に、もう一つを後ろに飛ばしておく。今見える範囲は分かれ道などないが、ダンジョンの魔物は自然発生だ。後ろに突然出てくるかもしれないので、後ろも警戒しとく。
すると、前から物音がした。アイリスが家から持ってきた安物の槍を構える。少なくとも一層はアイリスに戦闘を任せる。
出てきたのは、緑の皮膚、ちょうど俺達と同じくらいの身長、醜い顔。そう、みんな大好きゴブリンである。
勉強の一環でゴブリンの姿形位はアイリスも知っていたので、迷わず全力でゴブリンに突きを放つ。
アイリスが槍を引いたあと、そこには何も残らなかった。槍こそ、安物でも技術によって壊れなかったが、攻撃の対象であるゴブリンは圧倒的攻撃力をその身で受け、霧散してしまった。
あまりの結果に、アイリスが呆然としている。
俺だって驚いている。アイリスの攻撃力でこうなのだったら、俺が全力で攻撃を放ったらどうなるんだろう。空間を割りかねない。
まあそんなことよりも。
「アイリス、もう少し威力を落としてもいいと思うよ」
ゴブリンだから良かったものの、もし素材が高く売れるものだったらどうするのか。
アイリスもそれがわかっているのか、しっかりと頷いた。
それから一時間ほど進んだが、出てきたのはゴブリンだけ。たまに複数で来たりしていたが、みんな一撃で死亡。アイリスはもう霧散させずに殺すことをマスターした。
ゴブリンしか出ないまま転移石の前に着いてしまった。一本道だし、ゴブリンしか出ないし、これでいいのかと、疑問に思った。
まあ考えていてもしょうがない。まだ時間もあることだし次の階層へ行こう。
次の階層は短い草が沢山生えている、草原だ。
一階層目が期待はずれだったので、特に期待もせず歩いていると、六匹のうさぎが出てきた。
それも、それぞれ体長一メートル前後の。
まだ多対一の戦いになれていないのか、少し時間をかけて倒す。とは言っても、うさぎの魔物、名をアングリーラビットは、体当たりしか攻撃方法がないので、避けて突く、の繰り返しをしただけだが。
アイリスが倒し終わった、うさぎの皮を剥いだりして、『アイテムボックス』に入れる。
そんなことを繰り返していると転移石が見えた。予想以上にも程があるハイペースに、喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない気持ちになったが、気にせず次階層にいく。
またもや洞窟だった。ライトをさっきと同じ配置に展開しながら周りに敵がいないか見回す。
いないようなので先に進もう。
道なりに歩いていると、先程よりも体格の良いゴブリンが三体歩いてきた。左右の二体は錆び付いた剣を握り、真ん中の一体はボロボロな杖を手にしている。
まず、アイリスはゴニョゴニョと魔法を唱え用としている、ゴブリンに攻撃をし、そのまま槍を戻さずに右に振るう。槍の穂先が、右側にいたゴブリンの喉笛を切ったことを確認し、左のゴブリンに突きを放つ。その間、ゴブリン達は、一切攻撃することは叶わなかった。
これがよくあるパターンで、アイリスが敵からの反撃を受けたことは一度もない。
ゴブリンは剥ぎ取っても旨みが少ないので無視して進む。
やれやれ。予想よりさらにつまらなかった。どんどんしたに行けば少しは強いのがいるのかね。
ボーッとしている内に目の前にあった、三階層目の転移石手を触れ、「リバース」と唱える。
ギルドにうさぎの素材を売りに行かなきゃな。
しばらくはずっとここのダンジョンに潜り続けるだろう。具体的には、身長が伸びるのが止まるまでは、最低でも。それまでに掛ける時間など有って、無いようなものだ。なぜなら無限の時を生きる(予定)のだから。
次話から一気に主人公兄妹が歳を取ります。