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成功

 「ねぇ、そこのおねぇさん達。良かったら喫茶店でお話でもしない?」


 そう声をかけると、タレ目の方は変わらぬ微笑を浮かべたまま、つり目の方はムッとした表情をした。


 「悪いけど、あなた達に構っているような時間はないの。他を当たって頂戴」


 あー。振られちまったか。なかなかいい女の子だったんだけどな。

 そう残念に思っていると、ラナトがボソッと呟いた。


 「このニセ乳が……」


 「なっ」


 あ、言っちゃった。


 「どこでそれを……」


 「まぁまぁいいじゃないですか。喫茶店でしたっけ?ご一緒しましょう」


 「ちょっ、なんでよ!」


 「まあまあ」


 あれ、なんか成功した感。つり目をタレ目が抑え、お話できることになった。予め決めておいた、それなりに高級なお店へ行く。あまり騒げないが、ここはコーヒーがうまい。あんまり好きではなかったのだが、はまってしまった。


 「ありがとう。楽しませて見せるよ」


 ナンパの初成功だ。というかなかなか条件にあう人がいなかったおかげで、結局これが初ナンパなのだが。


 「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 

 「何名様ですか」なんて聞かれない。

 席に案内される。四人席でそれぞれ、つり目の向かいに俺、タレ目の向かいにラナトだ。互いの狙ってい方の向かいに座ったのだ。これは気づかれているだろう。


 「……私こんな高級そうなところに来る予定なんかなかったから持ち合わせがないわよ」


 「勿論君たちの時間を貰ったんだ。俺達が払わせてもらうよ」


 ムスッとした様子のつり目に答える。


 「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったな。俺はラナト。あっちがアレックスだ。よろしく」


 「よろしくー」


 ここに着いてから自己紹介する予定だったので、まだ名前を聞いていない。するとタレ目が答えた。


 「私はカナ、そっちが妹のサナです」


 「へぇ、やっぱり姉妹だったんだ」


 「ええ、双子よ」


 俺が問うと、サナちゃんが返してくれた。なんかうれしい。



 ーーーーー



 それなりに盛り上がっただろう。コーヒーは何回かお代わりし、パフェまで食べた。いや、食べたのはあっちの二人だが。これもなかなか高級で、向こうの世界で例えると、一つ一万円くらいだ。しかし一万円の価値はあっただろう。なぜならサナの笑顔が見られたからだ。それ以降少し雰囲気が柔らかくなったように感じる。


 結構仲良くなったと感じる。長く居座ってもアレなので、店を出る。しかしこの世界には、携帯に当たるものがない。だから連絡先交換はできない。どうしようね。


 「良かったら、お買い物に付き合ってくれませんか?」


 少し悩んでいると、カナちゃんがそう言ってくれた。ありがたい。喫茶店で仲良くなれたことの証明だろう。サナも別にイヤがる様子は見えない。これは頑張らなくては。




 ーーー



 学園都市最大のショッピングモール。いろいろ揃っております。

 なんの幸運か、二人ずつに別れて行くことになった。正直、俺かラナトが糞野郎だったら、彼女らは危ないと思うのだが、それだけ信頼してくれたのだと信じる。勿論俺はサナとだ。

 俺はラナトと視線を交わす。


 「がんばれよ親友」


 「そっちこそな」


 目だけで会話し、ここで一旦別れる。集合の時間と場所は決めたので、会えなくなることは無いだろう。


 「行こっか」


 「ええ」


 てくてくと店を回る。基本的にはサナの好きなところだが、偶に俺が興味を持ったところも覗く。


 「ねぇ、どっちが似合うと思う?」


 これは夢シチュエーションだ。しかし結構困る質問だな。俺の目にはどちらも良く似合うと思う。ええい


 「どっちも似合ってて決めらんないな」


 そう言って、サナの手から服を奪い、レジに持っていき、そのまま会計をする。


 「これは今日のお礼だ。受け取ってくれないか」


 「えっ、悪いわよ」


 「もう買っちゃったし」


 少しおどけて言う。


 「そうね。ありがたく受け取るわ」


 少し笑って、受け取ってくれた。




 ーーー




 歩いていたら、真剣な様子で話しかけられた。


 「ねぇ、アレックス」


 「ん? なに?」


 「あのさ……もうひとりが私のこと……その、ニセ乳って言ったじゃない? どう思う?」


 これはどう答えればいいんだろうか。いきなり難題だ。どう思うって言われてもな。


 「実際ニセ乳でしょ?」


 「うっ。そ、そうよ!詰めてるわよ!」

 

 そしてまた軽くうつむき、


 「私と姉さんはよく比べられてきた。双子だからね。しょうがないとは思っていたわ。でも許せないのは毎回私と姉さんの胸を比べて、「ああ、ここは似てないな」みたいな目で見られること。それが嫌で詰める様になってしまったのよ」


 それは、男が少数派だったのだろう。巨乳派だ。


 「俺が君たちに声をかけたのは、君のことを可愛いと思ったからだ。カナさんじゃなく、君を。勿論ニセ乳だとわかった上で」


 「えっ……」


 「自信を持ってくれ。君はいい女性だ。乳なんてただの飾りですよ。偉い人にはそれがわからんのです」


 「アレックス……」


 感極まった様に俺の名前を呟くサナ。ちょろい。

 嘘はついてない。が、少し簡単すぎやしないか?


 「私そんな事言われたの初めて……」


 まあ、お姉さんも美人だしな。偶偶巨乳好きとよく会ったのだろう。見る目がないと言わざるを得ない。乳なんてないほうがいい。いつかは垂れるし、重そう。




 ーーーー



 集合時間だ。落ちた、とまでは行かないが、好意は持ってくれたと思う。

 ここで解散だ。最後に、


 「俺達は学園生だ。用があったら寮までよろしく」 


 そう言っておく。


 「えっ」


 なによ。


 「私たちも学園生よ」


 これは運命かな?


 聞くと十六歳らしい。先輩だった。


 「これでまた会えるね」


 って言ったら、顔を赤くして


 「そ、そうね」


 っていわれた。いや、ちょろすぎない?悪い男に捕まりそうで心配。割とマジに。

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