墓穴掘り
「あのーっ。これはどういう状況ですかー?」
どういうも何も、三十人の気絶した男達を、幼女を膝の上に乗せて眺めているだけですが。
妹ちゃんは寝てしまった。暇になったので、AIさんからなんでこいつらが俺達を襲ったのか聞いた。聞き終わったあたりで巨乳メイドさんが来たのだ。
こいつらが俺達を襲った理由。それは、やはりジャンの命令だ。ジャンは俺達と話す時に、ニーナを諦める演技をして、一旦俺とニーナを屋敷から出す。そうして、潜ませていたガラの悪い奴らに襲わせ、さらって行こうとした。しかし、ガラの悪い奴らは、ジャンが思ったよりバカだった。彼らの受けた命令は、「屋敷から男女一名ずつが出てきたらさらってこい」だ。まず、俺が庭に出てきた。次に妹ちゃんが出てきた。すると彼らは俺らが標的だと勘違いしてしまった。そんなわけで、彼らは必死に柵を乗り越え、庭に入ってきたというわけだ。
俺からしたら庭も一応屋敷の敷地の中だと思うのだが。
というかジャンの妹の顔くらい知っておくべきじゃね。
まあいい。今のところはメイドさんに返答しなきゃな。
「襲われたので返り討ちにしました」
「えっ、本当ですか!?お怪我は?」
「大丈夫です」
そんなことより。
「ニーナとジャン様を呼んできてくださいませんか」
「はい?」
「僕はこの通り動けませんから」
そう言って手を広げ、妹ちゃんを見せつける。
「あ、アーニャ様……。わかりました。すぐに呼んでまいります」
アーニャって言うんだこの娘。あ、ほっぺぷにぷにだ。さすが。ははは、ぷにぷに。
ニヤニヤしながらぷにぷにしているとジャンとニーナとメイドちゃんが来た。
「な、なんでこいつらがここに……」
お前の予定では外で待っているはずだもんな。
そして、ジャンはこう考える。本来外にいるはずのこいつらがここにいるのは、このニーナの連れてきた男がやったことだ。こいつらが軒並みやられていることからも考えて、この男は結構腕が立つ。気配かなんかでこいつらの存在に気付き、一人一人倒して行った結果がこれだろう。するとこいつを貶める手段は一つしかない。
「彼らは僕の友人だ。君が僕の友人に怪我をさせたのかね」
少し考えればそれが悪手だとわかるだろうに。もしかしたらすっごい焦っているのかも。だから、自ら死にに行く。ばかめ。
「おや、こいつらは僕とアーニャ様を襲ってきたのですが。
ジャン様のご友人でしたか、これは失礼を」
こいつらとの関係を認めなきゃ良かったのにね。
しかしめんどくさいな。ジャンは顔面蒼白で座りこんでしまった。なんかこれを理由に婚約解消できそうではあるな。
「こんなことをする人とは結婚したくありません。帰らせていただきます。行きましょうアレックス」
そう言ってくれると俺も動きやすい。
「はい」
返事をして立ち上がる。
「おじゃましましたー」
そう言って屋敷を出る。ニーナと一緒に寮へ向かう。
歩いている途中。
「ありがとう」
「は?」
「貴方のおかげで、あんなやつと結婚しなくえ済んだわ」
「あれは、あいつらが馬鹿なだけだったからなー」
なんか頑張った気にならない。俺のおかげ、というよりあいつらの自爆だろう。
「ふぁ!?ここはどこですか!?」
「それでも、貴方がいなかったら、あいつと結構していたかもしれない。それを救ってくれたのが貴方。礼くらい言わせて頂戴」
そういって、ニコリと笑うニーナ。可愛い。
「誘拐!?誘拐ですか!?あ、ニーナお姉様。お久しぶりです」
「あーその、なんていうか、どういたしまして?」
照れてしまった為、なんか変な言い方になってしまった。
「なんでお姉様がここにいるんですか?というかここはどこですか?あ、お庭にいたお兄さんじゃないですか」
「ふふ、貴方はやっぱり私の王子様よ」
面と向かって言われると照れるな。
「あのっ、なんで無視するんですか!?あれ、もしかして私誰にも見えてないとか?」
そろそろ反応してあげようか。
「というかなんで貴方はアーニャを持って帰ってきてしまったの?」
ニーナも同じ様に考えたみたいだ。
「誰も止めなかったから。持って帰ってもいいのかなーって」
結構使用人にすれ違ったりもしたんだけどな。
「二人して私を物の様に扱わないでください!」
うがぁー、と騒ぎ出すアーニャ。落ち着けよ。
この娘どうすっかな。そうだ。ニーナもアーニャも俺の屋敷に連れていきゃいいか。お持ち帰りだ。
「ニーナ。俺の家来る?」
「え?ええ是非行かせてもらうわ」
急な提案に一瞬面食らったようだが、すぐに返してくれた。
「じゃあ、寮に戻らなくてもいいか」
適当な路地裏に入り、鍵を取り出す。ニーナもアーニャも不思議そうに見ていたが、目の前に荘厳な門が現れたことで、言葉を失ってしまう。
ここから屋敷までが遠いんだよな。チャリンコでも作るかな。
もう夜ご飯の時間だ。お腹が空いたので、楽な方法をとる。第三階級魔法 飛翔だ。これは風魔法で、風を操って空を飛ぶ魔法。わざわざ『転移』をせずに、空を飛んだのは、我が屋敷の誇る庭を見てもらおうと思ったからだ。しかし、それは失敗だったようだ。アーニャはジタバタと騒ぐし、ニーナは白目剥いている。怖い。
暫くして屋敷の玄関につく。その頃には多少は景色を見る余裕が出てきていたようだ。ゆっくりと下におりる。
俺が扉を開こうとすると、勝手に開いた。開けたのは、アミとイルミアだ。
「おかえりなさいませご主人様。そしてよくお越しくださいました、ニーナ様、アーニャ様」
あ、あいつら『鑑定』使いやがったな。俺は『鑑定』があまり好きではないのだ。まあ、咎める権利も、その気もないが。
メイド達全員の声が揃った挨拶に、ニーナとアーニャはポカーンっとしていた。
「おかえりなさい、お兄様。ニーナさん、アーニャさん、ゆっくりしていってくださいね」
アイリスが言う。
未だポカーンっとしている二人を食堂へ連れていく。食事をしながらお話しようじゃないか。




