説明回
五歳になった
歩けるようになったので、屋敷の色々なところを探索するのを日課としている。
今日は屋敷の中にある書庫で本を読んで過ごそうと思う。
この世界の製紙技術は魔法により、現代日本並だ。
まほうの ちからって すげー
書庫に来るのは初めてではない。書庫には長男であるアルフレッド兄様がいることが多い。初めて行ったときなんて、死ぬほど嫌そうな顔をしていた。それでも何回か繰り返し通っていたら、特に騒ぎはしないとわかったのか、幾分か優しい表情をするようになった。
後で父上に聞いたところ、アルフレッド兄様は頭がよく、静かな人が好きらしく、書庫に足しげく通い、静かに本を読む、そんな俺の姿に好感を持ったらしい。
スキルの『自動翻訳』は言葉だけでなく文字も翻訳してくれるので便利だ。
そんなふうに考えていると書庫の前についた。
今日もアルフレッド兄様がいるかもしれないので静かに扉を開ける。
「アレク。今日も来たのか」
アルフレッド兄様が優しげな顔をして言う。
それに返事をしてから今日読む本を探し始める。
そうだな。今日もこれにしようか。手に取ったのは「内界について」という本。この世界の人類が多く住んでいる方、内界について書かれた本だ。もう何回か読んでいる。
内界には二つの大陸とその周りに沢山の島がある。二つの大陸は(例えは悪いが)肺のような感じの形と並び方をしている。
その大陸にはそれぞれ四個ずつの国があり、その位置は何故か左右対称になっている。
次に内界に住む人類についてだ。この世界においての人類は人間だけのことではなく、獣人、エルフ、ドワーフを含めた四種のことである。エルフと獣人についてはもっと細かい分類があるのだがここでは一旦置いておく。
ここでさっき出た、四つの国のことだ。
両大陸の北の方には険しい山が連なっており、人間は住みづらい。が、体が丈夫で武器、防具作りが大好きなドワーフにとって、鉱山の複数あるここは住みやすい。よって北の山の麓にはドワーフの国がある。
その国の南には人間の国がある。広がった平原は、身体能力が四種のなかでもエルフと下位争いをしている、人間にとって住みやすくなっている。
さらにその南には木々の疎らな森がある。知覚能力が四種の内最も高い、獣人の国がある。獣人にとってそこまで木が多くなく、自分たちの動きを妨げない上に、相手は木によって視界が遮られるので優位に動けるのだ。
さらにさらにその南にある深い森は、自然をこよなく愛し、自然の力である精霊魔法を使いこなす、エルフの国だ。エルフは自然が大好きなので、身体能力は然程高くないのに、何故か自然に溢れている森の中では自由自在に動き回れる。
今度は四種の関係についてだ。特にこの種族とこの種族は仲が悪い、なんてことは無い。さらにいうとここ数百年戦争もない。とは言っても国境線が不明確なので、その付近で小競り合いが起こることがあるが、その程度だ。
それぞれ『人間の国』だとか言ってはいるがあくまで各国の長がそれぞれの種族だ、というだけで、どの国にいてもすべての種を見ることが出来る。
人間は四種の内最も人数が多い。さらには獣人などに比べ、圧倒的に魔力が多い。人間の国では魔力の量が多ければ多いほどすごいとされる。
獣人は四種の内最も身体能力が高い。それに伴い知覚能力も高い。獣人は力こそがすべて。魔法を使わない純粋な腕力が強ければ強い程偉いとされている。
エルフは四種の内最も魔力の質が高い。精霊は高い質の魔力を好むので、高ければ高いほど良いとされている。高位精霊と契約するのが全エルフの目標である。
ドワーフは四種の内最も手先が器用だ。あとものすごく頑丈。ドワーフは装備作りが好きな種族だけあって、より良い装備を作れるものが偉いとされる。すごい装備を作り、『親方』の称号を得るのが全ドワーフの夢だ。
と、「内界について」を読みながら情報を思い返していると、勢いよくドアが開かれた。
「お兄様!私と一緒にあそびましょう!」
聞こえてきた子供特有の甲高い声にアルフレッド兄様が顔をしかめる。
「アイリス。今行くから待っててね」
「はい!お兄様!」
基本的に妹の願いを断ることのない俺はアイリスのお願いを快諾した。
この会話からわかる通り、アイリスは妹でした。わーい。妹だー。妹だとわかった瞬間からアイリスが愛おしくてたまらない。これが妹力か……。
俺と遊べるのが嬉しいのかキャーキャー騒ぐアイリスを前にアルフレッド兄様機嫌が悪くなってきた。
まずい!アルフレッド兄様が怒ったらアイリスが泣いてしまう。それだけは避けなければ!
「こら。アイリス、アルフレッド兄様の邪魔になるから静かにしなさい」
俺が心を鬼にしてアイリスをたしなめる。
「あ、アルフレッド兄様すいませんでした……」
「ああ」
怯えながら謝るアイリスに対してぞんざいな返事をするアルフレッド兄様。ちょっとムカッと来たのを顔に出さないようにする。
ちなみにアイリスは俺のことをお兄様と呼び、あとの二人は〇〇兄様と呼びます。
少し空気の悪くなったこの場に居たくないので、そそくさと本をしまい、アイリスと共に庭に出ることにした。
「さて、今日は何をする?」
庭に着いたのでアイリスに聞く。
「魔法の練習がしたいです」
「じゃあ、前と同じように、俺に魔法をうってみて」
魔力の量が多いと知能面が早熟で、寿命が長くなる。アイリスはこのまま行けば人間の中でもトップクラスに入るであろう量の魔力を持っている。俺?俺は『何でもできる力』でこの世界のすべての生物の魔力を足しても足りないくらいにしたよ。『自己封印』はあくまで無意識の発動を避ける為で、意識的には使います。
閑話休題
そんなわけでアイリスの魔力を鍛えるために我が身を的とし魔法を受けているのです。
「第十階級魔法シャインボール!」
「第八階級魔法シールド」
アイリスが放った魔法を俺の魔法で防ぐ。どうせ防がなくてもダメージは受けないのだが、周りにいる使用人に不審に思われないように仕方なく魔法を使っている。
第十階級とか言うのは魔法の難易度を表す。第十階級が最も簡単で、第一階級が最も難しい。とは言っても各階級のなかでも大なり小なり難易度の違いはある。もちろん難易度が上がるほど威力も上がる。
アイリスの放った、第十階級魔法シャインボール光の球を打ち出す光属性の魔法だ。属性は火、水、土、風、光、闇、そして無の七つだ。無属性とは魔力を変換せずにそのまま使う属性で、特定の属性に弱いということはないが、強くもない、そんな属性だ。
話は逸れるが、俺が住んでいる人間の国は国王が最も強い権力を持ち、それについで大貴族と呼ばれる、貴族のなかでも特に力の強い家があり、その次に普通の貴族、そして平民といった形だ。
公爵やら子爵などの分類はない。
今出た大貴族というのは、国王にも意見できるほどの力を持つ。
国を作った創世の勇者と、それに従った六人の魔法使い、そして、勇者は国王となり、魔法使い達はそれぞれ得意だった属性を姓にし貴族となった。この時は六家しか貴族がいなかったので大貴族とは呼ばれていなかったが、国に人が増え、それに伴って良い働きをしたものを貴族にし、そうして増えてきた貴族との区別のために六家は大貴族と呼ばれるようになった。
ここまででおわかりかもしれないが、俺の名前はアレックス・シャイン。つまり光の大貴族の三男です。
魔法の属性というのは結構遺伝するもので、アイリスも、兄様達も光属性が得意らしい。ちなみに人間は、属性の得意不得意はあっても、基本的には全属性使える。
話を戻そう。俺が使った魔法。第八階級魔法シールド。これは無属性魔法だ。魔力でできた透明の壁を作り出す魔法。
全魔法に言えることだが、魔法の威力は込められた魔力の量、質、そして練度に依存する。
俺がアイリスに対してやっていることは、アイリスの魔法を受け、新しく追加したスキル『魔眼』で魔力の流れを見て、アドバイスをすることだ。
魔力はへそのした辺りに集まっており、そこを中心として、全身をめぐっている。魔法を放つ時は放つにあたっての始点となる体の一部に魔力を集める。なので実際には体のどこからでも魔法を放てるのだが、魔法を放つ時は手を始点にするというのが常識となっており、魔法は手から放つのが当たり前となっている。
また話がそれた。魔力を始点に集める時に魔力が余計な動きをすると、魔力が無駄になるので、そこら辺をアイリスに教えている。
しばらく休憩や昼食を挟みながらやっていると、アイリスの魔力が少なくなってきた。なので練習を終わりにし、夕食までアイリスの話に付き合うことにした。
魔力が一定値を下回ると、気絶する。これは動物は皆魔力がないと生きられないので、すべてなくなる前に魔力の回復をするのと体の保護の為である。魔力は魔力を使わなければ、大体五時間程いると、すべて回復する。つまり、魔力量が多ければ多いほど、魔力の回復量も大きくなる。
そんなことをアイリスの話に相槌を打ちながら考えていると夕食の時間になった。
夕食を家族と一緒に食べたあと、色々とやることをやり、あとは寝るだけになった。俺にとって寝る時間はとても大事な時間だ。なぜならアイリスと一緒に寝られるからだ。俺達は双子だしまだ小さいから一緒くたにされることが多い。まあ俺にとっては願ったり叶ったりなんだけど。
「お休み。アイリス」
「おやすみなさい。お兄様」
やっぱり妹って言うのは最高だね。
今までの話で何故か段落が表示されないな、と思っていたら、どうやら半角だったようです。そこら辺を修正しました。