電波ちゃん
模擬戦までは素振りやら、軽い打ち合いをする。そう、全国のぼっちを震撼させた「好きな人と二人組を作ってー」だ。アイリスとララスに組ませて、俺は『超隠密』で気配を消していよう。ぼっちは辛いぜ。まあ、俺がぼっちなんて言ったら本物の方に怒られてしまうな。なんてったってかわいい妹や、複数の美少女奴隷がいるし。
アイリスに模擬戦が始まる頃に『通信』するように頼み、屋上へ行く。因みに屋敷の皆には『通信』も『転移』もつけた。留守番組を不老不死にするのと一緒に。
屋上に歩いていく。俺は歩くのが結構好き。屋上への扉の前で気付く。どうやら誰か先客がいるらしい。まあいいか。先客がいようといまいと俺には関係ない。俺は模擬戦まで寝るんだ。
扉を開ける。そこには青みがかった色の髪をした女の子がいた。その子は、エリルとアイリスの間くらいの身長で、なかなかかわいい。俺は、はっきり幼女でなくてもかわいいとは思う。幼女にしか興奮しない訳ではない。ただ、幼い娘の方が好みというだけだ。真のロリコンには怒られてしまうかもな。
ともかく、俺はかわいい娘を見たら声をかけるナンパ男ではないので、何故か屋上の中央で直立不動な彼女の横を通り抜けようとする。貯水槽の上で寝ます。いい日差しだし。
「ねぇ貴方」
声をかけられた。
「なんですか」
初対面の人なので敬語。俺、人見知りだし。
「貴方は私の王子様かしら?」
電波さんかな?
「いえ、違います」
早く寝たいので、短く答えて貯水槽へ向かう。
「私ね、王子様を探してこの学校に来たの」
そんなこと聞いてないんだけど。このままスルーっていうのも失礼な気がするので相槌を打つ。
「へぇー。そうなんですか」
「私の王子様はね、可愛くて、格好よくて、とても強いのよ」
だから聞いてねぇって。もういっそのこと寝るのを諦めてこの子と話して時間を潰そうかな。
「王子様とはどこで知り合ったんですか?」
「夢の中でよ」
「……夢以外で会ったことは?」
「ないわね」
なかなか行動力あるよね。夢の中でしか会ったことがない男を探しに学園にまで入るって。それとも入学自体は決まっていて、後から設定したのかも。
「どうして王子様を探すんです?」
「私のすべてを捧げるのよ。私は姫になる気は無いわ。ただ側において欲しいの」
なんでこんなに入れ込んでいるのだろう。夢でしかあったことがないのに。
《お兄様。模擬戦が始まります》
お。時間のようだ。
「そろそろ授業に戻ります。また」
「ええ。またね」
さっきから表情らしい表情を浮かべていなかったというのに、急に笑顔を見せるとは何事か。可愛かった。でも別れ際に笑顔って酷くね?そんなに俺と離れたかったんかな。ショック。
模擬戦は皆の前でやるらしい。二人ずつのようだ。時間がかかりそうだな。順番はもう決まっているようだ。抽選かなにかだろう。
俺の順番は一番最後。相手は霊城のようだ。まあ、多分霊城がこのクラスで(俺とアイリスとララスを除いて)一番強いみたいだしいいか。
アイリスもララスも圧勝。相手に攻撃すらさせなかった。
そして俺の番だ。思ったより早かったな。
「よろしく頼むよ」
「ああ」
霊城の武器は日本刀。やっぱり日本的な所はあると思って間違いなさそうだ。
「戦闘開始ッ」
合法ロリ先生が開戦の合図を出す。
それと同時に霊城が切りかかってくる。それを手甲で流し、軽く拳を打ち込む。
「ぐぅっ」
避けられなかったようで、腹に当たる。気絶するような威力ではないが、ダメージはいったはずだ。それでもめげずに切りかかってくる。それを弾きながらわざとらしくないくらいの隙を作る。
「もらったッ」
さて、日本刀と戦ったら絶対にやらなければならないこと。それは真剣白刃取りだ。そのために隙を作って真正面に切りかからせた。何の苦もなく刃を両掌で挟む。
「え?」
この世界に真剣白刃取りがないのか、それとも実戦でこんなことをするとは思わなかったのか、霊城は驚いて刀を握る力が抜けている。ので、そのまま引っ張り、刀を奪う。それをしっかりを持ち、霊城の首筋に突きつける。終わり。
「勝者ッアレックスくん!」
わっ、と周囲が沸く。学生からするとレベルが高く見えたのだろうか。お互いに全力だったわけではないので不完全燃焼気味だ。
今日の授業はこれで終わりだというので、寮に戻ろうと歩いていると、霊城に声をかけられる。
「流石だね。あんな方法で負けるとは思わなかったよ。やっぱり僕の見込み通りだ」
さっきも見込みだとか煮込みだとか言ってたな。何なんだろ。ともあれ褒められてはいるようなので短く礼を言って寮へ帰る。
あの電波ちゃん元気かな。




