豪邸
この店はギルドで聞いただけなので、入るのは初めてなのだが、なかなかいい雰囲気だ。
魚料理が多い。俺は結構魚が好きなのだ。まあ、地球の魚とは違い、魔物なのだが。
「私の名前はドナートです。先程は助けて頂きありがとうございました」
「私はエラフォット。エリーでいいわ」
エリー、ね。
もう敬語はいいか。
「俺の名前はアレックスだ。早速で悪いが事情を話してもらえるか」
「了解しました。私は前王に使えていた者です。そしてそこにおられる方こそ前王の娘。我らは今王の元から逃げ出して来たのです」
彼の話はこうだ。国王選定戦で、前王は敗北した。糞豚の親の部下に。
負けた王は城を追われる。しかし豚がエリーのことを気に入ったのだ。そして豚が親にそれを言った。
豚父はエリーの父に「エリーを差し出せば余の部下としてこの城に居させてやろう」と言ったのだ。当然エリーの父は断った。その結果エリーの父は無実の罪で処刑され、エリーは城にて軟禁された。幸い豚は小心者で、ドナートが睨みをきかせていたら近寄れなかった。そうやって一年近く過ごしていたら、ある日豚暗殺の報が入る。そのごたごたを狙って逃亡。追手から身を隠しつつ逃げていたら俺に会った、と。
「そこでアレックス殿にお願いがあります。どうか私共を匿っていただけないでしょうか。姫様だけでも結構ですので」
「俺は、誰にも見つからないであろう場所に住んでいる。匿うにはこれ以上ない場所だろう」
「な、ならばッ!」
「あんたらは対価に何を出せる?」
ただでやるわけにはいかない。
「わ、私の身体を差し出すわ」
「姫様ッ」
「いらない」
「え」
二人揃って声を出す。え、ってそりゃあいつみたいな巨乳に興味無いし、なにより
「そんなにポンポン身体を差し出すようなビッチの身体なんていらない」
「なっ」
俺は処女厨なのだ。膜のないヒロインなんていらねぇ!!
「では何がお望みで?」
そうだな、これといって欲しいものがない。
「じゃあ貸し百で」
「は?」
「は、ってなんだよ。割といい取引だろ。俺に借りを百作るだけで生きてけるんだぞ」
てか豚は死んだんだしこいつらが狙われている理由って何。
「あのままでは我らは処刑されていました。今王は前王の血を引く姫様が邪魔なのです」
前王は民から絶大なまでの支持を得ていた。その王を処刑したため今の王は人気がない。不満が募って行くとクーデターが起こりかねない。前王を倒した者に一体一で勝つことは不可能だが、囲めばどうにかなるだろうみたいな考え方で。
そのクーデターの代表として、前王の娘が適任というわけだ。まあ、別にクーデターの準備も何もされていないのだが。あくまで今王が、エリーがいるとクーデターが起こりかねない、と考えただけの話だ。
「ほーん。で、どうすんの。貸し百か、ここでお別れか」
「姫様」
ドナートがエリーに声をかける。決断はエリーに任せるということだろう。
「どっちにしろ、助けて貰うだけで返し様のない恩です。ならば百で済むのであれば安いものですわ」
「よし。ならば腹いっぱいになったら俺の屋敷に招待しよう」
とりあえず今は魚的な魔物の煮付けを食べる。煮付けってすごいおいしいよね。ちなみに生魚を食べる文化はない。残念。俺刺身とか寿司とか好きなんだけど。でもそれよりもわさびが好き。この世界でわさびを見たことがないどっかにあるかな。
俺の食いっぷりに引いているエリーに言う。
「俺の屋敷に住む以上。俺の言うことは聞けよ」
「わかったわよ。好きにすればいいじゃない……」
と頬を染めていう。なんか勘違いしてないか。まあいい。
満足した。出よう。
一般人の月収程の料金を支払い、店を出る。流石に高級店。値段が馬鹿高いぜ。
ここで俺の亜空間への扉の開き方の説明しよう。アイリス達も開けられるように、鍵を持っていれば開けられるようにした。俺が作った亜空間への扉専用の、純銀の鍵を空にさして回す。するとたちまち扉が現れ、開く。扉の中に入ると、目の前に我が屋敷の門の前にでる。
エリー達が絶句している。無理もない。繰り返しの拡張などで、今や王城なんかより大きい。屋外練習場を作ったり、噴水をつけたり、畑をつけたり、プールをつけたり。亜空間の中は外の気候や温度と同じになるようにしたため、暑い日なんかはプールで遊ぶ。縦横七十五メートルだ。流れるプールにしたい時なんかは自力で水流を作る。楽しい。
「ほら、こっちだ」
そう二人声をかけて、今や門から玄関に着くまでが馬鹿見たく遠い。急いでる時は走って行くから俺らはあんまり気にならんのだが、今日はエリーがいる。ドナートは大丈夫だろう。俺がスピードを抑えればついてこれるはずだ。
エリーを持ち上げ言う。
「ドナートさん。走ってくからついてきな」
「ちょっと!おろしなさいよ」
「わかりました」
ドナートはエリーを無視して俺に返事をする。行くぜ。
「はぁーはぁーぐっごほっぐほっ」
玄関についた。
きゃー。息の荒い変態がいるわー。じいさんはもう歳だな。息の整った頃を見計らい中に入る。
「おかえりなさいませ。ご主人様(お兄様)(我が主)。そして、いらっしゃいませ。お客人方」
「ただいまー」
「お、おじゃまします」
普段はこんな風に出迎えなんかない。多分この二人の気配を感じて来たんだろうな。
エリーは面食らっているみたいだ。元王女だし慣れてんじゃないのか。
「この方々は、元王女とその付き人だ。保護した」
簡潔に説明する。
「よろしくお願いしますわ」
「よろしくお願いします」
二人が挨拶をする。先に注意事項を述べておこう。
「ここにいるメイドはすべて奴隷だ。だが、奴隷だからと言って舐めた態度とったらお前らを殺すから覚えておけ」
「は、はい」
脅しが過ぎたかな。まあ、ここで高慢に振る舞うようであれば殺す。
今思うと俺は人を殺したのは豚が初めてな気がする。初体験は豚。思ったより、簡単だった。罪悪感も感じなかったし。しかしフェミニストである俺からすると女の子を殺すのはちょっと躊躇われる。まあ、家族同然の人を侮辱するんなら関係ないけど。
「部屋に案内する。詳しい自己紹介が夕食の時にでもしてくれ」
空き部屋に向かいながら質問する。
「お前らは同じ部屋の方がいい?」
「な、なんで私がドナートと同じ部屋で寝なきゃいけないのよっ。こんなじいさんごめんよ!」
そこまで拒否することないだろう。じいさん泣いてるぞ。
「じゃあ近くの部屋でいいな。近い方が安心するだろう」
そうやって部屋を教える。ついでに俺達の部屋の位置も教えとく。何かあった時のために少し近めにした。夕食まで部屋でゆっくりするようにいい、俺もアイリス達に軽く説明して、部屋で休んだ。




