持ち運び型屋敷
ダンジョン攻略後の夕食。
「さて、ダンジョンをクリアしたので、この街から出ていこうと思う」
「どこに行くんですか?」
アイリスが俺に質問する。
「獣人の国に行こうと思う」
特に理由はないけど。強いて言うなら獣耳目当て。
「そこで問題になるのがこの屋敷だ。結構いいやつなので置いて行くのは惜しい」
この世界には転移魔法は存在しない。そういうスキルはあるらしいが。転移石や転移玉はやっぱり神の技術といったところだろう。
「なので、この屋敷を持ち運びできるようにした」
そう言うと一瞬目を見開いたが、誰も疑いはしないみたいだ。こういうちょっとしたことが嬉しく感じる。
どのように持ち運べるようにしたのかというと、『亜空間作成』というスキルを追加したのだ。このスキルは、『アイテムボックス』に似たスキルで、使用者の魔力量に応じたサイズの空間を作り出すことができる。『アイテムボックス』と違う所は、中の時間が止まらないことと、生き物も入れるところだ。
ちなみに、『アイテムボックス』も『亜空間作成』も、魔力の量でサイズが決まるが、魔力自体は消費せずあくまで魔力が多い人はサイズが大きい傾向にある、という程度である。
「明日、屋敷をしまって、すぐに出発する。歩いていくからよく休んどくように」
そう言うと、各々から了承の声があがる。
よし。もう話は終わりだ。さっさと食べ終えて寝よう。
「お兄様。アリス様についてのお話を聞いていないのですが?」
あれ?なんかアイリスが怖い。そんなわけないな、アイリスは可愛い。
どうこの場を切り抜けるか、考えていると、アイリスが「アリス様って誰?」って顔をしている留守番組に説明している。
「お兄様が私たちに内緒で仲良くしていた女性ですよ」
そうすると、留守番組からの視線も厳しいものとなった。間違っちゃいないけど、言い方に悪意があるよね。
「アリスはただの友達だって。俺もすごい久しぶりに会ったんだよ」
「どんくらい昔に出会っていたんですか?」
ララスさんが少し睨むようにして聞いてくる。俺ご主人様なんだけど……。
さて、どう答えたものか。正しく言うのであれば十五年前なのだが、それを言ってもいいのだろうか。それを言うのは俺が転生をした、と言うのと近いのでは、と思うのだ。この世界には異世界というものを認知されてはいる。と言っても物語の中の話だが。勇者が異世界から呼び出され、この世界を救う、みたいな。
俺実は異世界から来たんだ。なんて言われたら普通正気を疑うだろう。だが俺だって彼女らを結構信頼している。
「十五年前に一回会って、今日二回目だ」
転生したとは言わないが、嘘もつかない。
「この話は終わりだ。各自、明日の為に早く寝ること。ごちそうさまでした」
そう言って席を立つ。ちょっと本でも読むかな。
っていうかみんな俺が神様と知り合いである事より、女の子と仲良くしていたことに怒っている(?)様子だったな。適応しているというかなんというか。
その後、アリスちゃんのことは聞かれなかった。ありがたい。
そろそろ寝る時間だ。アイリスと共に寝室に行き横になる。おやすみと言い合い意識を少しの間沈める。少しだけ寝て、夜が深くなってからアリスちゃんに会いに行くことにしたのだ。
みんなを起こさないように、今度は『超隠密』を使い屋敷を出る。屋敷の外に出た時、俺は絶望した。
アリスちゃんのとこに行く方法がわかんない!
「そうだったのか」
「ああ、だから直でここに来れるようにしたいんだけどいいかな?」
あの後、俺のことを見ていたというアリスちゃんに転移させてもらい、話していた。
「ここって、『転移』で来れる?」
「君ならできるんじゃないかな。『転移』持ちがここに来ることなんか無かったから正確にはわからないけれどね」
そうか。『転移』のスキルは目に見えている所と、行ったことのある場所にとぶことが出来る。『転移』はとぶ距離が遠ければ遠いほど、精神的な疲労が多い。これが限界まで高まると昏睡状態になることがある。
『転移』、追加しておこう。
「それでこの世界の神がアリスと俺が知り合いだって話したみたいでさ。妹達に問い詰められたよ」
話は変わって今日の出来事を話している。
「ありのままを話せばいいんじゃないかな。ボクと君の関係に何一つやましいところなんてないのだから」
「それはそうなんだけどさ。俺が産まれる前にアリスと知り合っていたことが問題なんだよ。まあ、もうそれは言っちゃったんだけどね」
「君は転生したことを知られたくないようだね。今度君の妹さん達をここに連れてくるといい。ボクがうまく説明しよう」
「助かるよ。あいつらは俺が、あいつらの知らない人と仲良くしているのが気に食わないみたいでな。獣人の国について、落ち着いたらみんなで遊びに行くよ」
「楽しみにしておくよ」
そう言って今日はここら辺にすることにした。屋敷の前に『転移』で戻り、少し考え事をしながら周りをまわる。
急にアリスちゃんに会いに行くのは失礼に当たるかもしれない。ここは『通信』のスキルを追加することにした。このスキルはその名の通り通信をするスキルだ。相手に自分の言葉を送ったり、相手の言葉を受け取ったりすることが出来る。このスキルのいいところは、言葉の送受信を頭で思うだけで出来るとこだ。
自分だけがこのスキルを持っている場合、通信をする相手が近くにいなければならない。大体ぴったりと隣に並ぶくらいだ。しかし、相手に悟られることなく作戦会議をできるというのは大きい。
『通信』を持つもの同士ならば、大分長い距離での通信が可能だ。具体的には、内界の端と端位なら通信出来る。
アリスちゃんは多分『通信』くらい持っているだろうし、あとは屋敷のみんなに『通信』をつけるか。
そんなことを考えていたら一周したようなので、屋敷の中に入る。起こさないよう細心の注意を払い寝室に入る。
「お兄様」
「アイリス。起こしちゃったか」
「いえ、今夜はどこに?」
「いや、ちょっと遊びに行ってた」
「そうですか……」
なんかアイリス、元気ない?どうしたんだろう。気になるけど
「明日も早いし寝よう」
「はい」
そう言うと、アイリスがベットの中に入った俺に抱きついてくる。
いつになく甘えるな。寂しかったのだろうか。甘えんぼなアイリスも可愛いしぐっすり眠れそうだ。
アイリスは既に寝てしまったようだ。はやい。
俺もさっさと寝よう。
おやすみ。