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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
一章 出会いは水と共に
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家族の暖かさ

 ギルドを出た俺はヒナちゃんの案内で宿屋へと向かっていた。

「ヒナちゃんはどうしてギルドの所に居たんだい?」

「お兄ちゃんについて行ったの~」

 ヒナちゃんは笑顔で話すが危険な目に遭わせてしまったことで申し訳なく思う。

「ヒナ! あんたどこに行ってたんだい!」

 声がした方を見るとハルコさんが心配した表情でこちらに歩いてきていた。

「あータスクも一緒だったのかい? ヒナ! 急にいなくなるもんだから心配したんだよ」

「お母さんごめんなさ~い」

「ハルコさんすいませんでした」

 俺はハルコさんに深々と頭を下げる。

「どうしたんだい? タスク。あんたが謝ることなんてないって。ヒナの面倒を見ててくれたんだろ」

「いえ違うんです……俺のせいでヒナちゃんを危ない目に合わせて。あげくに怪我までさせてしまいました。だから……」

 俺は頭を下げたまま話す。

「……顔を上げなタスク」

 その言葉に顔を上げるとハルコさんは俺を真剣な表情で見つめていた。

「なにがあったか知らないけどね。今こうしてヒナは笑ってるだろ? だったらそれが全てなんじゃないのかい?」

「でも……」

「ヒナ? お兄ちゃんはあんたに酷いことをしたのかい?」

「ううん。お兄ちゃん助けてくれた~お兄ちゃんすごいんだよ~」

「な? だからタスク。私はあんたがそう思ってくれてるだけ十分だよ」

「はい……ありがとうございます……」

 俺はハルコさんの優しさに何故か懐かしさを感じて泣きそうになりながら再び頭を下げた。


 ハルコさん親子に連れ立ってたどり着いた宿屋は2階建てでこぢんまりとしている素敵な雰囲気の建物だった。

「ただいま、言ってたタスクを連れてきたよ」「ただいま~おと~さ~ん」

「……いらっしゃい」

 旦那さんと思われる無愛想な男性が挨拶をしてくる。

「タスクです。お世話になります。あの~宿代はいくらくらいでしょうか?」

「まったく……あとでもいいのに律儀だねぇタスク」

 ハルコさんが呆れた顔で話す。

「朝夜ご飯付きで一泊銀貨3枚だよ。足りるかい?」

「安いですね……はい。大丈夫です」

 ポケットから銀貨を3枚だしてハルコさんに渡す。

「はい。確かに。でも無理してないかい? 稼いだお金が宿代に全部消えたりしてないかい?」

「ええ。問題ないです」

 そう言って俺はポケットを叩いてジャラジャラとお金の音を出す。

「ほんとに大丈夫みたいだね。じゃあ部屋に案内するよ」

 ハルコさんに付いていき、2階の部屋に案内される。

「狭いけど自由に使ってくれていいよ。すぐに夕飯にできるけどどうするんだい?」

「えーと――」

 グゥゥゥゥゥ

「ハハッ。ご飯みたいだね。すぐ用意するから待っときな」

 俺の腹の虫の音を聴きハルコさんは笑いながら話す。

「ええ。それでお願いします。あと体を拭くものとかありますか?」

 俺は照れながら尋ねた。

「あるよ。ヒナ~! お湯と布を持っておいで!」「は~い」

 階下からヒナちゃんの返事が聞こえる。

「すぐ来るからね」

「はい。ありがとうございます」


 俺はヒナちゃんに持ってきてもらった布で体を拭きながら今日を振り返っていた。

(気が張ってたせいかこっちに来てから何も食べてないのに気付かなかったな……腹も減るわけだよ)

 そうして拭き終わった体を見る。

(身体能力の向上も凄まじい……元々力仕事のバイトもしてたから腕力はそれなりにあったけど……あんな風に人を殴り飛ばせるほどじゃなかったからな……)

 そのままベッドに寝転がり伸びをする。

(ん~とりあえず明日は稼いだお金で買い物だな。まず服を買わないとまたトラブルに巻き込まれかねない……要するにこれは向こうの世界でいうと俺がセーラー服着て町を歩いているようなものなんだろう。そりゃ異様だよな……)

「お兄ちゃん。ごは~ん」

「はーい。今行くよー」

 扉の向こうからヒナちゃんに呼ばれたので階下に向かうことにする。


 階下の食堂にはおいしそうな料理が机の上に並べられていた。

「おいしそうですね」

「いいから早く座って食べなさいよ。お腹減ってるんだろう?」

「じゃあお言葉に甘えて」

 そう言って席に座ると手を合わせる。

「いただきます」

「なんだいそれ?」

「え? あー俺の生まれたところの風習で食べ物に感謝してるいうか作ってくれた人に感謝してるというか……」

「へー素敵な風習だね」

「ヒナもやる~いただきま~す」

 そんなヒナちゃん達と食べた、旦那さんが作ってくれた異世界初めての料理は暖かい味でおいしかった。

(ほんとに……おいしいや……)

 こうして俺の異世界1日目は終わった。


 冒険者ギルドの受付で彼女は一人、タスクが狩ってきたヘルハウンドの犬歯を眺めていた。

「今帰ったぞ~」

 ギルドの扉を開けて白髪で顎鬚を蓄えて右目に黒い眼帯をしている男が入ってくる。

「ギルドマスター」

「おう。お前聞いたか? ガインがやられたらしいぜ」

「え?」

「しかも相手は一人らしい。Dランクの冒険者に勝つようなやつがこの村にいるのかねぇ……なんでも女みたいな格好をした優男らしいが」

「え? それって……」

「どうした? ん? なんだそれ?」

 眼帯の男は受付の上にある犬歯を指差す。

「おーヘルハウンドの犬歯じゃねぇか! どうしたんだこれ?」

「その女みたいな格好をした冒険者が狩ってきたものです」

「なんだと? ……一人でか?」

 眼帯の男は左目を見開いて尋ねる。

「はい……おそらくは」

「そいつの名は?」

「タスク・シンドーです」

「家名持ち……貴族か?」

「いえ。そう言う風には見えませんでしたけど」

「そいつは今どこにいる?」

「分かりませんがヒナちゃんと一緒にいましたから……」

「ハルコのところか……」

 眼帯の男は目を瞑って考える。

「よし! 明日にでもギルドに来るようにハルコのところに使いを出して伝えてくれ」

「どうするおつもりですか?」

「ヘッ! 直接会って確かめてやるさ」

 眼帯の男は楽しそうに笑った。

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