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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
31/74

プレゼント

「これからどうするんですか?」

 3人組から解放されてギルドから出るとレインさんが俺に訊ねてくる。

「とりあえず寝泊りのための道具を買いに行こうかなと……というか良かったんですかレインさん?」

「何がですか?」

 きょとんとした顔で首を傾げるレインさん。

「いや話の流れで冒険者登録までして依頼を手伝ってもらうことになっちゃいましたけど大丈夫だったのかなと」

「あ~そんなことですか。言ったじゃないですか。タスクさんを手伝うために私は来たんですから気にしなくていいんですよ」

「ありがとうございます。レインさん」

「はい」

 笑顔のレインさんを見ながら道具を買いに行くため店へと歩き始めようとした時に彼女から音が聞こえる。

 ぐうううううう

「…………」

「……もうお昼ですもんね、先に何か食べに行きましょうか?」

「……はい」

 顔を赤くして俯くレインさんを連れて昼ごはんを食べるために店を探してアスト村を歩くことにした。


「すん……すん……いい匂いだ。何処からだろう?」

 歩いていると香ばしい匂いが漂ってきたので俺は鼻をひくつかせる。

「ホントですね……あ! あのお店みたいですよ」

 レインさんが指差した先に屋台のような店があった。

「行ってみましょうか」

 興味深そうに頷くレインと一緒に屋台へと近づく。

「すいません。このいい匂いって何の香りなんですか?」

 屋台で肉らしきものをを焼いているおじさんに尋ねる。

「いらっしゃい。この匂いかい? それはこのホロバードにまぶしてあるスパイスの香りだよ」

「え? ホロバード? これってホロバードなんですか?」

 俺は驚きながらおじさんに聞き返す。

「ああそうだよ。うちの売れ筋なんだけど普段はなかなか仕入れることが難しくてね。でも今日はなんでもギルドのほうに狩って持ち込んだ人がいたらしくて早速仕入れたんだよ。いや~ありがたい話だね」

「あ、そうなんですか(あーこれ俺が狩ったやつなのか)」

 上機嫌に語るおじさんを見て自分のやったことが誰かの役に立ってると思うと嬉しくなる。

「買ってくれるのかい? 昼飯で食べるならパンに挟むこともできるけど」

「そうですね。食べますか? レインさん」

「…………」

 話しかけたがレインさんは食い入るようにホロバードの焼き鳥を見つめ返事をしてくれない。

「あの……レインさん?」

「……はっ! なんですか? タスクさん」

「いやこれを食べましょうかって訊いたんですけど……」

「はい! 食べましょう! 是非!」

「は……はい。おじさんそのパンで挟むやつはいくらですか?」

「一つ銅貨8枚だよ」

「じゃあ2つ下さい(結構いい値段するな)」

 俺は銀貨2枚をおじさんに手渡す。

「毎度あり! すぐできるからちょっと待っててくれ」

 俺ははいと返事をしてレインさんのほうを見る。

「……タスクさんこっちをじろじろ見てなんですか?」

「……レインさんって食べるの好きなんですか? 前も俺の弁当を食べてましたけど」

「け……研究のためです。料理研究ためなんです……食べるの好きな女は嫌いですか?」

 そう言ってレインさんは吸い込まれそうな瞳を上目遣いにして訊ねてくる。

「……いえ素敵だと思いますよ」

「兄ちゃん! 出来たぞ」

 思わずそう口走ったところで屋台のおじさんから声をかけられる。

「ほらホロサンド2つにお釣りの銅貨4枚」

 俺がそれを受け取るとおじさんが顔を寄せてくる。

「エルフが恋人なんてやるねぇ兄ちゃん」

「だと良かったんですけどね。じゃまた来ます」

 レインさんに聞こえないように2人で話した後、頭を下げて屋台から離れた。

「どこかに座って食べましょうか」

「はい」

 周囲を見回して手ごろなベンチを見つけ、そこに2人で腰掛けてホロサンドにかぶりつく。

「……うまい」

「おいし~」

 謎スパイスのうまさに驚いている横でレインさんは満面の笑みでホロサンドを食べている。

「そういえばエルフって肉とか食べて大丈夫なんですか? 領域だと肉料理は食べてないみたいでしたけど」

 女王さんの芋とキノコ料理を思い出して尋ねる。

「あれはたまたま材料があれしかなかっただけで肉も食べますよ。昔は違ったみたいですけどね。はむっ」

 言い終わると同時にかぶりつくレインさん。

「そうだったんですね。あむ……やっぱりうまいな」

 そうやって食べ終わるまで穏やかな時間を過ごした。


 カランカラン

「いらっしゃ……兄ちゃんまた来たのか? ナイフの調子でも悪かったか?」

 昼食を食べ終わったので買い物をしにいつもの店に来たが、朝も来たのに半日も経たずに現れた俺に怪訝な顔を向ける店主のおじさん。

「いやナイフの調子をバッチリなんですけどまた必要な物が出来たので買いに来たんです」

「そうかい。ゆっくり見ていけや。連れのお嬢さんもゆっくり見……驚いた。エルフを見かけるなんていつ以来だろうな……ああすまんすまん。ゆっくり見ていってくれ」

「はい。ありがとうございます」

 レインさんはおじさんに頭を下げる。

「おじさん。テントみたいなものって置いてますか?」

 店内を見回しても無かったのでおじさんに訊いてみる。

「テント? 野宿でもするつもりか?」

「ええ依頼で必要になったので」

「そうかちょっと待ってろ」

 そう言って奥へ引っ込むおじさん。

(あの奥はどうなっているんだろう?)

 大体なんでも出てくる店の奥を気にしながらレインさんを見るとショーケースをじっと見つめていた。

「何か気になるものでもあったんですか?」

「え? いえただ綺麗だなと思って」

 ショーケースを見ると水色に輝く透明な石が付いたペンダントが置いてあった。

「やっぱりエルフだとそれに惹かれるのかねぇ」

 折りたたまれたテントを持ったおじさんが店の奥から戻ってくる。

「そのペンダントは慈愛の象徴の水精をイメージして作られたものだからな」

(慈愛の象徴ねぇ……近所の姉ちゃんみたいなんだがな……実物は)

「水精様の……」

 レインさんはその言葉を聞いて目をキラキラさせている。

「……おじさんテントとそのペンダント合わせていくらですか?」

「買うのか? ペンダントは金貨5枚だぞ?」

「タスクさん?」

 俺の言葉にレインさんは不思議そうな顔をしている。

「ええ、買います、いくらですか?」

「テントと合わせて金貨9枚だな」

 俺はカバンからホロバード分の報酬から金貨9枚を出しておじさんに手渡す。

「毎度あり! 兄ちゃん会う度に羽振りがよくなっていってる気がするな」

「はは。そうかもしれないですね」

 おじさんはショーケースを開けてペンダントを取り出す。

「ほらよ。大切にしろよまぁ兄ちゃんがつけるわけじゃないだろうけどな」

 ペンダントを受け取りおじさんの言葉に無言で軽く微笑んで答えるとテントを持って店を出る。

 カランカラン

「どうぞレインさん」

「え?」

「男の俺が付けるよりはレインさんが付けたほうが見栄えがいいですからね。こういうものは」

 そう言って俺はレインさんにペンダントを手渡す。

「え? 私に?」

「ええ。お世話になったお礼とこれからよろしくってことで受け取ってください」

「でも……いいんですか?」

 レインさんは戸惑った表情をしている。

「受け取って下さい。今更返品っていうのもかっこ悪いんで」

「はい……ありがとうございます」

 レインさんは少し涙を浮かべながらペンダントを首につけようとする。

「そういえばレインさんは今日はどこに泊まるんですか?」

 俺は照れ隠しにそんな事を尋ねる。

「春風亭ですよ」

「そうなんですか? レインさんも俺と同じ宿なんですね」

「ええ。ハルコさんに手持ちのお金があまり無いことを言ったらタスクさんと同じ部屋に泊まればいいと言ってくれたのでお言葉に甘えました」

 レインさんはペンダントを付け終わると笑顔でそう告げる。

「は?」

 俺は口を開けたまま固まった。

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