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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
一章 出会いは水と共に
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始まりの村

 数時間森を歩く中で黒い狼に何匹か襲われはしたが、特に問題なく撃退し歩き続けると、ようやく森に終わりが見えてきた。

(ふうー結構歩いたな……んなに疲れてないのは有難いけどさ)

 身体能力の向上に感謝しながら森を抜けると視界には平野が広がっていた。

(しっかしでっかい森だなーまるで木の要塞みたいだ)

 平野の侵食を阻むかのように存在する森を見てさっきまで自分がそこに居たことが嘘のように思えてくる。

(さてとこれからどうするか……お!)

 遠くのほうに目を凝らすと建物のようなものが見える。

「村か何かかな? 行ってみよう」

 確認するように口に出して言ってから村とおぼしき場所に向かって歩き出す。


 30分ぐらい歩いた後、村がはっきり見えるくらいまで近づいた。

(おーヨーロッパとかで見たことあるような感じの村だな。いや行った事はないけれどさ)

 村の雰囲気に感動しているとこちらに歩いてくる女の人が見える。

(お。こっちではじめて見る人間だ。良かった……見た目は特に地球と変わらないな……どう見てもブロンド西洋人な事を除けばな!)

 そうこうしてるうちにブロンドの女性との距離が近づく。

(よし! 腹を括って話しかけるしかない! 言葉は通じるってトリスタンも言ってたから大丈夫だ……)

「あの!すいませ……」「やだっふふふ」

(え?)

 話しかけようとしたが女性があきらかにこっちを見てくすくす笑い始めたので出鼻をくじかれる。

(どういうことだ……)

 そう思いながら周りを見るとさっきの女性はもちろん、小さい子供までもが俺のほうを見て笑っていた。

(何で笑われてんだ? もしかして俺がこっちの世界の人間にはないおかしな特徴でも持ってるのか……)「ちょっとあんた! なんて格好してるんだい!」

 悩みながらトボトボと歩いていたら畑仕事をしていたおばさんが話しかけてくる。

「え? どういうことですか?」

「だからなんでそんな魔法使いみたいな格好してるんだって言ってるんだよ」

 おばさんは俺のローブのような制服を指差しながら話す。

「え? 魔法使いみたいな格好してたらダメなんですか?」

「いや。ダメってことはないけどね。そんな女の子みたいな格好してたら笑われるのはあんただよ?」

「……女の子みたいな格好って?」

 嫌な予感に顔を引きつらせながら俺は尋ねた。

「あんた知らないのかい? 魔法使いは女しかなれないんだよ。だからそんな格好してたら女装してるようにしか見えないって言ってるの」

「そうなんですか……はは……ははは……は(トリスタアアアアアアアアアアアアアアアン! こういう大事なことは伝えておけよ!)」

「ほんとに知らなかったのかい? あんたどこから来たんだい?」

 おばさんが驚いた顔で尋ねてくる。

「えーと……そういう風習に馴染みが無い所に住んでいたもので……」

「ここも大概田舎だけど……あんたどんな田舎から出て来たんだい……」

「すいません……」

「謝られても困るんだけどね。あんたそんな田舎から出て来たならお金とか持ってるのかい?」

「お金……ないですね……はい……すいません」

 俺は一応ポケットを探りながら喋った。

「はぁ……そんな事だろうと思ったよ。いいかい? あそこに大きな建物があるだろう?」

 おばさんはそう言って道の先を指差す。

「あそこがギルドって言って仕事を斡旋してもらえる場所だよ。あんたみたいな子でも日払いで貰える簡単な仕事あるだろうから見ておいで。でもそんな格好で――」

(なるほど。ギルドって確か昔の労働組合だっけか? とりあえずこれから旅をするにも先立つものがないと話にならないし。ここは労働に汗を流しますか!)

「ちょっとあんた聞いてるのかい?」

「はい。教えてもらってありがとうございます。ちょっと俺行ってきます!」

 俺はお礼を言うとはやる気持ち抑えて走り出した。

「あ! ちょっとあんた! だからそんな格好で行ったら……行っちゃったよ。大丈夫かね? あの子」


 軽快に走る俺はすぐにギルドの建物の前にたどり着く。

「ここか……」

「見てあの子ローブみたいな格好してるよ。アハハ」「ほんとだーでも可愛いじゃん。女の子みたいで。ハハ」

 隣の建物から出てきたローブを着た女の子たちが俺を話の種にケラケラと笑う。

(そんなにおかしいのか……この格好……ん?)

 強い視線を感じた俺は視線が飛んできているほうを見ると、建物から最後に出てきた女の子が他の子の様に笑わずにこちらをじっと睨んでいた。

(なんだ……何かしたか俺?)

 俺はその睨んできているローブと鎧合わせたような格好の、燃えるような紅い髪を持つ女の子を見つめ返した。

「フン」

 その子はそうして鼻を鳴らした後、興味をなくしたように背を向けて去っていった。

(なんだったんだ? いったい……まぁいいか。そんなことより今は労働だ!)

 そう決意した俺はギルドの扉を開けた。

(ここがギルドか……えらく厳つい人達ばっかりいるな。あーでも建築系とか工事現場のバイトだとこんな感じの人ばかりだったから意外でもないか……)

 大勢の奇異の視線を感じながらギルド内を見回して受付まで歩く。

「すいません」

「はい。え?……なんの御用でしょうか」

 一瞬俺の格好にぎょっとしながらもすぐに笑顔を取り繕って話す受付嬢。

「あのー仕事を斡旋してもらえるって聞いて来たんですけど」

「はい。できますよ。冒険者ギルドは初めてですか?」

「はい。初めてです(ん? ……冒険者?)」

「ではこちらに記入をお願いします。代筆は必要ですか?」

「え? あーちょっと見せてもらえますか?」

 そう言って紙と羽ペンを受け取る。

(ちゃんと読めるな……書いてみるか)

 名前の欄にタスク・シンドーと書く。

「(とりあえずみんな外国人っぽいし名前を先にしてみたけど……)これで合ってますか?」

 名前の欄を受付嬢に見せる。

「はい。タスク様ですね。合ってますよ」

「あ! じゃあ代筆は要らないみたいです」

「わかりました」

(とりあえず年齢はそのままでいいだろ。特技か……魔法って書くのはやっぱりまずいだろうな……体術にしておくか今の俺ならあながち嘘じゃないし)

「書けました」

「はい。それでは登録料として銅貨5枚を頂戴します」

「え? あのー今持ち合わせがないんですけど……」

「それでしたら依頼達成料からの天引きになりますがよろしいですか?」

「はい。それでお願いします」

「これで登録完了です。7日以内に登録料の支払いが行われない場合は罰せられますので注意してください」

「わかりました」

「他に何かありますか?」

「あのー……冒険者の事が分かりやすく書いてあるような本とかってないでしょうか?」

「…………え?」


 受付嬢さんは唖然としながら僕の注文どおりの本を貸してくれた。

(冒険者初心者入門……完全に子供用の本だよなこれ。でも今の俺はこの辺の子供よりこの世界のことを知らないからな。ある意味ぴったり本だけどさ。分かりやすそうだし。ていうかそもそも冒険者ってなんだよ……)

 そうしてギルド内の椅子に座って本を読もうとした時、ドーンと大きな音を立ててギルドの扉が開けられる。

(なんだ?)

「オラ! ガイン様のお帰りだぞーお前ら席を譲れや!」

 扉のほうを見ているとガラの悪い男が大声を出しながら入ってきた。

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