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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
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狩猟の成果

「術式構成・狙撃」

 ベルトからダートナイフを引き抜きながら術式を唱える。

(なるほど。単体で使うとこうなるのか)

 貫通を単体で使った時の力の流れが体に生まれる感覚と違い、集中力が研ぎ澄まされて遠くの物も良く見えるようになっている。

(よし! これならいけるか)

 俺はダートナイフの刃の部分を持ちながら上空を円を描いて飛んでいるホロバードを見据える。

(普通に狙ってもこの距離じゃ当たらないだろうな。ホロバードの動きを予測して……こういうのなんて言うんだっけ? 確か……偏差射撃。この場合は投擲か)

 そうしてホロバードの動きの少し前方に狙いを定めた。

「そこだ!」

 そのまま思い切り腕を振りぬいてダートナイフを投げると吸い込まれるようにホロバードへと向かっていく。

「クェ――」

「よっしゃ!」

 ダートナイフは見事にホロバードのこめかみに命中した。

 ドサッ

 落下してきたホロバードに近づいていく途中であることに気が付く。

「どうやって運ぼう……これ」

 眼前で横たわる自分よりもでかい鳥を見下ろしながら俺は悩んだ。

「担いでいくしかないか……」

 周りに手伝ってくれる人などいない状況では、ギルドにそうやって持っていくしか方法は無かった。

「はぁ……よいしょ」

 そう言ってホロバードを担ぎ上げる。

(うわ~鳥くさい……何なんだよこの状況は。このままギルドに持って行ってこいつを踊らせてみろってか? らくだじゃなくて鳥だけどさ)

 そんな馬鹿なことを考えながら鳥を担いだ俺は金貨10枚のために冒険者ギルドへの道を踏み出した。


「タスク。あんた何してんだい?」

 ギルドに向かう途中で畑仕事をしていたハルコさんに呼び止められる。

「こいつを狩ったのでギルドまで運んでるんですよ……よいしょ」

 俺は一旦担いでいるホロバードを地面に置く。

「……あんた何でこれを一人で運んでるんだい?」

「こいつを仕留めた時に周りに手伝ってくれそうな人もいなかったので仕方なく」

「……タスク。あんたこれ一人で仕留めたのかい?」

 ハルコさんが驚きを隠せない表情で訊ねてくる。

「ええ。そうですけど……(またなんかやらかしたか? 俺)」

「あんたが出掛けてる時にドーザさんから聞いて半信半疑だったけど。あんたってほんとに規格外なんだねぇ……」

「え? ギルドマスターが何て?」

「タスクはああ見えて将来的にはSクラス冒険者になれる逸材だって、その時は大げさだと思ってたんだけどねぇ・・・」

「え~と……ははは」

 ギルドマスターに評価してもらってるのは有難いが今は苦笑いするしかない。

「いいかい? タスク、ホロバードってのは警戒心が強いから人がいるとなかなか地上に下りてこないんだ」

「ええ。そうみたいですね」

 俺は頷きながら答える。

「タスク。あんたはどうやって仕留めたんだい?」

「え~と……ナイフを空中のホロバードに投げて仕留めましたけど」

「……タスク。ホロバードを狩るときはね警戒されないように夜のうちから平原に隠れて待つんだよ。そして無警戒で地上に下りてきたところを弓で羽を撃って飛べなくしてから数人掛かりで仕留めるんだ。それをあんたは……」

「あ~昼のうちから一人でやっちゃいましたね……」

「まぁ別に悪いことじゃないからいいんだけどね。そんなことよりそのままじゃ大変だろ? 運ぶものを貸してやるよ」

「ありがとうございます。ハルコさん」

 ハルコさんは何かを取りに畑に隣接している倉庫に向かうとすぐに戻ってくる。

「タスク! これを使いな」

「はい。助かります」

 俺はハルコさんが持ってきたリアカーのようなものにホロバードを乗せて再びギルドに向かって足を踏み出した。


「まったく。見てて飽きないねぇあの子は。見た目は優男の割りに妙にたくましいというか……不思議な魅力を持ってるというか。若い女だったらコロッといっちまうかもしれないねぇ……ヒナが懐くのも分かる気がするよ」

 ハルコはリアカーを引いて去っていくタスクの背中を見ながら呟く。

「あの~」

 後ろから話しかけられたハルコは振り返る。

「はいよ。なんだい?」

 ハルコが振り返ると外套を着て、それに付いたフードを深々と被った人物が立っていた。

「あの~春風亭という宿屋を探しているんですが。何処にあるかご存知ですか?」

 フードを被った人物は丁寧にそう尋ねる。

「春風亭はうちの宿屋の名前だけど……あんたうちに何か用なのかい?」

「あ。そうなんですか? 良かった~見つかった」

 フードの人物は安心したのか胸を撫で下ろす。

「あの……そこにタスクさんが泊まっている聞いたんですけど。今も宿泊してますか?」

「あ~これはコロッといっちまってるみたいだねぇ……」

「え?」

「いやいやなんでもないよ。こっちの話さ。お嬢ちゃん」

 ハルコはフードの人物の顔を見ながらそう言った。


「ふぅ……やっとついた」

 ギルドの前でリアカーを止めると周りにいた人たちが何事かと思って集まってくる。

「こりゃえらく状態のいいホロバードだねぇ。お前さんが仕留めたのかい?」

 好々爺然としたおじいさんが訊ねてくる。

「……え? あ……はいそうです」

 その姿に祖父を思い出していたため少し反応が遅れてしまった。

「へぇ~若いのにすごいねぇ。ワシも若い頃は仲間とホロバードを狩ったもんじゃがここまでいい状態のホロバードをは初めて見るなぁ」

「そうなんですか? 初めて狩ったので分からないですけど。そうだとしたら運が良かったのかもしれませんね」

 実際何が状態が良いものなのか分からないのでそう返す。

(新鮮さで言ったら相当ものだろうけど)

「あら? タスクさんにザックさんこんなところで何を……」

 出掛けていてギルドに戻ってきたのであろうマリーさんがリアカーに乗っているホロバードを見て絶句する。

「ザックさん。ちょっと彼を借りますね。タスクさん……ちょっと中で話しましょうか? それはギルドの裏にでも置いておいて下さい」

「はい……わかりました」

「がんばりな。お前さん」

 俺はザックさんと呼ばれたおじいさんに頭を下げると、マリーさんの言うとおりにリアカーをギルド裏に置いてそのままギルドの中に入った。


「タスクさん? あなたが依頼を受注したのはいつでしたっけ?」

 受付の椅子に座りながらマリーさんが訊ねてくる。

「え~……今朝だと思います」

「今朝っていうかついさっきですよ! なんでもう狩ってきてるんですか!」

 そう言ってジト目で睨んでくるマリーさん。

「たまたま上手くいったので……」

「たまたまで上手くいったら苦労しませんよ。はぁ……これでまたランクEからDに上がると思うのでその件についてギルドマスターに話してきます。大人しく待ってて下さいね?」

 ニコリと笑いながらそう告げてくる。

「はい……お手数おかけします」

 俺は深々と頭を下げてマリーさんを見送る。

(怖い姐さんだなぁ……)

 そう考えているとマリーさんがキッっとこっちを見たので俺は黙って首を横に振る。

(あんまりあの人を怒らせないようにしよう……)

「おい! お前」

 怒気を孕んだその言葉に振り向くと平原ですれ違った3人組が立っていて、その内の一人がこちらを睨んでいた。

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