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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
二章 焔の剣士と魔術師ギルド
24/74

狩猟準備

 カランカラン

「いらっしゃい。また来たのかい? 兄ちゃん」

 冒険者ギルドから出た俺は服を買った店を訪れた。

「はい。覚えててくれたんですね」

「兄ちゃんみたいな変な客は滅多に来ないからな。ハッハッハ」

 新聞を読む手を止めながら店主のおじさんは笑う。

「それで今日は何を買いに来たんだい?」

(前回来たときよりもフレンドリーだな……ありがたいけど)

「ええ。投げて使うような武器を探してるんですけど」

「投擲武器か? 珍しいものを探してるんだな」

「珍しいですか?」

「ああ。投擲武器なんてのは技術を磨かなきゃ殺傷能力が低いからな。しかも遠距離攻撃はこの魔法全盛の世の中じゃ投擲技術を磨くより金で流れの魔術師でも雇ったほうが早いってもんよ」

「それじゃあ置いてないんですか…」

 俺は落胆の気持ちを隠せずにそう呟く。

「普通は置いてないな。だがうちにはある。ちょっと待ってろ」

 そう言ってニヤリと笑った店主は店の奥へ引っ込む。

(なんでかしらないけど店主のおじさん少し嬉しそうだな)

 しばらく待つと奥からおじさんが箱を持って出てくる。

「この箱は?」

「まぁ見てみろ」

 そう言っておじさんが箱をあけると中には小さなナイフが多数並んでいた。

「ナイフですか?」

「ああ。ダートナイフ。投擲専用のナイフだ。よく刺さるように普通のナイフよりさらに研磨をかけて鋭さを増す加工を施してある。代わりに耐久性はお粗末なものだけどな」

「いいですね。ベルトにも付けられそうだ」

「気に入ったか? 全部で金貨1枚でいいぞ」

「え? そんなに安いんですか?」

 俺は驚いて目を見開く。

「ああ。在庫として腐らすよりは使ってもらったほうがこいつらも喜ぶってもんだよ」

「……そうですか。ありがとうございます。じゃあこれで」

 そう言って俺は金貨1枚をおじさんに手渡す。

「毎度あり」

(これでアレが試せるかな……あれ?)

「すいません。この剣のマークは何ですか?」

 俺はナイフの刃の部分にある刻印を指差す。

「ああ。それは俺が付けた鍛冶屋のおまじないみたいなもんだよ。いい使い手に巡り会えますように。誰かのための一助となりますようにと願いをこめて刻印するんだ。東の大陸に伝わってるおまじないさ」

「そうなんですか。じゃあこのナイフおじさんが作ったんですか?」

「ああ昔にちょっとな。だからって大事に使えとは言わんよ。ダートナイフなんてのは消耗品だ。お前さんの助けになればそれで十分だからな」

「……わかりました。ありがとうございます。また必要なものがあったら来ます」

「おう! いつでも来な」

「はい。それじゃ」

 俺は店を後にした。


 カランカラン

「俺が作ったあのナイフ。あの兄ちゃんの役に立ってくれるといいんだが」

 タスクが立ち去っていったドアを見ながら店主は呟く。

「願わくばあのいい眼をしている人の良さそうな兄ちゃんを守ってやってください。剣精様」

 店主はそう言って願いを叶えてくれると信じて刻印したマークの象徴である相手に祈った。


(よし! 必要な物も買ったし平原に向かうとするか。体長2メートルって言ってたから見れば目標はすぐ分かるだろ)

 そう考えながら平原に向かって歩いていると、俺と同じ年ぐらいの若い冒険者3人組が平原のほうから歩いてくる。

「ハウンドなんて楽勝だったな」

「この調子なら俺たちすぐにDランクぐらいなれるんじゃねぇの?」

「絶対すぐになれるって! そしたら女にモテるようになるぞ! ふふふ」

 そんなことを話しながら3人組は俺とすれ違いギルドのほうに歩いていった。

(新人の冒険者かな? まぁ俺も人のことは言えないけど)

 そのまま歩いていると平原の上空を飛んでいる大きな影を見つける。

「あれか……ホロバード。でかいな」

 今日まで飛んでいることを気が付かなかったのが不思議なくらいに大きな姿を見て呟く。

(かなり高く飛んでるな。確かにあれに矢を射掛けるのは相当きついだろうな)

 見上げながら矢を射掛けた場合をイメージしてホロバードの動きを観察する。

(とりあえずもう少し近づくか)

 俺はそのまま平原の中に足を進めていった。


(さてと……とりあえず聞いてみるか。パーシヴァル聞こえるか?)

 平原の真ん中で俺はパーシヴァルの姿をイメージして呼びかける。

『タスク何か用かしら? エルフの領域には変わったことは無いわよ。いや……あぁ……うん。なんでもないわ』

(なんなんだ? まぁいいや。聞きたいことがあるんだ)

『気にしなくていいわよ。それで何?』

(やっぱり術式は詠唱したほうが精度が上がるのかと思ってな)

『あなたの場合はイメージの問題だからそのほうがやりやすいっていうならそれでいいと思うけど』

(俺の場合ってなんだよ?)

『あなたの魔法と例えばレインちゃんの魔法は全く違うでしょ?』

(確かに俺の魔法は威力こそあるけどレインさんの魔法と比べて融通が利かないな)

『基本的にこの世界の人たちは全員魔法の因子を体内に持っているわ。その因子によって使える魔法や得意な魔法が決まるわけ』

(全員って男は魔法を使えないんだろ?)

『いえ使っているのよ。無意識に身体能力の強化としてね。この世界の人たちはもうそれを魔法とは思っていないけれどあれも立派な魔法なの』

(なるほどな……じゃあ何でその因子がない俺が魔法を使えているんだ?)

『あなたの精霊魔法は魔法を使うまでのプロセスが全く違うわ。この世界の人間が自らの中にある因子で魔法を使ってるのに対してあなたは精霊の加護によって世界に呼びかけてるの』

「は? 世界?」

 思わず口に出してしまう。

『精霊未満の精霊とでも言ったらいいのかしら。この世界はそれによって満ち溢れているの。空気と同じようにね。あなたはそれに内在魔力を使って呼びかけることで世界の法則を捻じ曲げ奇跡を起こせるの』

(そういうことだったのか……)

『一応言っておくとタスクが元居た世界も同じ存在で満ち溢れていたはずよ。ただそれを使える人間はいなかったみたいだけどね』

(ああ……だからこっちに来る前に魔法が使えたってわけか……)

 俺は強盗を撃退したときのことを思い出しながら空を見上げた。

(ありがとうパーシヴァル。とりあえず聞きたいことは聞けたからあとはなんとかやってみるよ)

『そうそれは良かったわ。何かまた用事があったら呼んでちょうだい』

 そうしてパーシヴァルの気配が消える。

「さてと……やってみますかね!」

 そう言って俺はベルトにつけたダートナイフに手を掛けた。

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