魔獣との闘い
(あの炎に接近戦は無理だな……まずは1発撃って注意を引く!)
「術式構成・雷・貫通」
「ガ! ガウウウウウウ」
俺の右腕から放電が始まると魔獣の頭がこちらを向く。
「そうだ! こっちだ! 雷撃強襲!」
「ガアアアアアアアア!」
右腕から放たれた雷撃は魔獣の頭に命中するがそんな事お構いなしに口から黒い炎弾を吐き出す。
「まるで効いてない……か」
俺はそう呟きながら放たれた炎弾を回避する。
(これで撃てる雷撃はあと2発……レインさん達は?)
そう思って視線を向けるとレインさんと女王さんは2人で巨大な水の槍を生成していた。
(あれならいけるか?)
「グアアアアアアア!」
(なんだ……)
魔獣が大きく息を吸い込むような動作をする。
「おい! おい! おい!」
魔獣の口に巨大な炎弾が作られていく見て思わず声が出る。
「ガアアアアアアア!」
そのまま魔獣は俺目掛けて巨大な炎弾をぶっ放した。
(これはでか過ぎて回避は無理そうだな……そして喰らえば死ぬな……)
そう考えてレインさん達のほうを見るともうすぐ槍の生成が完了しそうだった。
「踏ん張りどころだな。術式構成・雷・貫通」
俺の両腕はバチバチと激しく放電を始める。
「これで2発分だ! 全部持ってけ! 雷撃強襲!」
放たれた雷撃は魔獣の炎弾に当たるが貫けずに拮抗する。
「やばい!」
俺はその様子を見て後ろに向かって走る。
「ぐああああああ」
直後に起こった雷撃と炎弾の相殺による爆発で吹き飛ばされた俺は地面を転がる。
(いってぇ……でもこれで時間は稼げたはず)
タスクさんが爆発で吹き飛ばされると同時に私達の魔法が完成する。
「レイン。あとは頼みましたよ」
「はい」
母さんが魔法の制御を私に委ねた。
「水よ……」
水の槍の穂先が魔獣の心臓に狙いを定める。
「穿て!」
放たれた水の槍は高速で魔獣に迫るとそのまま命中した。
「ガアアアアアアアアア」
俺は起き上がりながら巨大な水の槍が魔獣に当たる瞬間を見ていた。
(水の槍が当たる直前に魔獣の体の炎が大きくなった? まさか……)
水の槍によって起こった水蒸気の中から魔獣はゆっくりと姿を現す。
「クソ!」
俺はそう吐き捨ててレインさん達の所に移動する。
「レインさん。女王」
「タスクさん……」
レインさんが悲痛な表情を浮かべている。
「これでやれることはやりつくしました」
女王が淡々と語る。
「女王。これからどうす――」「ウォーロック」
俺の話を聞かずに女王が俺に呼びかける。
「……なんですか?」
「ウォーロック。私達がここで戦っているうちにあなたはお逃げなさい」
「なにを?」
「あなたはウォーロックです。しかし力はまだ未熟。ここでこのまま戦えばあなたは命を落とすでしょう」
「だとしても俺は……」
「あなたがここで命を落とすことを私は許容できません。あなたが伝説のウォーロックと同じ存在ならこれから多くの人々をを救わなければなりません。あなたの命はここで散らしていいものではないのです」
女王は正論だと言わんばかりの冷静な目で俺に語る。
「そんなの女王達の命だって同じでしょう! あなた達だってここで散らしていい命なわけがないでしょう!」
「しかし現状アレに勝てる手段がありません」
魔獣はゆっくりとしかし確実にこちらに向かってくる、すぐにエルフの領域に侵入するだろう。
「それじゃあ女王たちも逃げれば――」「それはできません!」
「レインさん……」
レインさんが俺の言葉に割り込む。
「このままいけばあの魔獣は水精様の御座所も毒の炎で穢してしまうでしょう、水精様と生きるエルフにとってそれは命に代えても許すわけにはいきません」
レインさんは断固たる決意を秘めた瞳でそう語る。
「…………」
「分かってくれましたか? ウォーロック。ここは私とレインに任せて――」「女王」
俺は女王の説得に割って入る。
「約束だ。水精の居場所を教えてくれ」
「あなたはなにを言って――」
「俺はレインさんとの試練に勝った。だから知る権利があるはずです」
「まさか水精様の力を借りるおつもりですか?」
「自分の力だけで無理なら力を借りるしかない。俺はそうやって生きてきました」
俺は女王を強く見つめながら話す。
「そして借りたものは返す。これも俺の信条です。だから女王。あなたに俺は飯の恩を返さないといけない」
「あなた。こんな時に何を――」「水源です」
レインさんが強く俺を見ながらそう口にする。
「レイン!」
女王が咎めるように声を上げる。
「湖の水源である湧き水。そこが水精様の御座所です」
「湧き水ですね」
俺はレインさんを見ながらそう言って頷くと後ろを振り向いて湖の方向を確かめる。
「レインさん」
振り向いたまま話しかける。
「はい」
「まだレインさんの料理食べてないですから」
「ふふっ。はい。必ず食べてもらいますよ」
俺はその言葉を聞いて湖に向かって走り出した。
「レイン……」
お母さんが呆れたような声を上げる。
「タスクさんがそのウォーロック? だから生きていてもらわなきゃいけないのはわかったけど無駄だよ。お母さん」
私は母さんの顔を見ながら話す。
「あの人は優しい人だから。誰かのために命を賭ける事をそれが尊い事と思わずにやるような人だから。私達エルフのために戦ってくれるような人だから。お母さんだって分かってたんでしょ?」
「ええ。それは分かっていましたけどね……」
「でもね不思議なんだけどタスクさんに必ず水精様が力を貸してくれるようなそんな気がなんとなくだけどしてるの。ふふっ。なんでだろうね」
私は迫ってくる魔獣を前にしながらもそんな不思議な感覚に何故か笑ってしまった。




