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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
一章 出会いは水と共に
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覚悟の理由とエルフの悲願

「水精様の御座所を知ってどうするつもりなのです?」

 女王と呼ばれた女性は見透かすような視線のままで俺に訊ねる。

「力を貸してもらおうと思っています」

 その視線に負けないように見つめ返しながら話す。

「何て馬鹿な事を言っているのですか!」

 2人の会話を傍で聞いていたレインさんが声を上げる。

「あなたのような弱い人間に水精様が力を貸してくれるはずがありません! ずっとこの地で水精様と共に生きてきた私達にすら姿を御見せになることもないのに! それをあなたみたいな……」「レイン。落ち着きなさい」

 女王がレインさんの発言を諭す。

「レインの発言に気を悪くされたなら謝ります。ただ言い方はどうあれ私もレインと同意見ではあります。水精様に限らず精霊の力はおいそれと求めていいものではありません。しかし……」

 そこまで話して女王は目を一瞬閉じたあと再び語り始める。

「それでも今や人族の間では存在するかどうかも怪しいとされている精霊を求めてエルフの領域まで侵入してきた人間は私が女王になってから初めてです。あなたはなぜ水精様の力を求めるのですか?」

 女王の力強い瞳に心の内をぶつけようと俺は口を開く。

「……最初はそうですね。頼まれたからだと思います。約束だから恩返しも兼ねて精霊を探そうと思ってました」

「約束ですか……それで今は違うと?」

 女王は少し目を見開き訊いてくる。

「そうですね……今は自分の意志で精霊の力を求めてますよ」

「なぜそう思ったのですか?」

「俺は両親が幼い頃に亡くなっています。それでも幸いなことに家族には恵まれましたけど。だけど両親がいない俺はきっとどこかで寂しかったんだと思います。今思えばですけどね……」

「…………」「…………」

 女王もレインさんも重い表情で俺の話を黙って聴いている。

「だから俺には幼い頃から理想の家族像みたいなものがありました。父がいて母がいて俺がいて。それでいつも笑顔でいられるような当たり前にある。だからこそ俺にとっては尊いそんな家族です」

 俺は頭の中の理想と重なる家族を思い浮かべる。

「そんな俺がアスト村に来てある家族と出会いました。まだ出会って1日ぐらいしか経ってないけれどその人たちはいつも笑顔で。いきなりやってきた俺みたいなのを本気で心配してくれて。俺が理想としている家族がそこに在ったんですよ」

 そう言って俺は拳を握り締める。

「でもそれを壊そうとしているモノがいる。アスト村を滅ぼそうとする連中がいる」

「帝国ですか……」

 女王が悲しそうな顔で呟く。

「そしてそれが俺が闘うべき相手だっていうなら。覚悟を決めるしかないじゃないですか。俺の理想を奪わせるわけにはいかないじゃないですか」

 俺は女王を強く見据える。

「だから俺は水精の力を求めます。これが俺の理由です」


「闘うべき相手ですか……あなたの考えはよく分かりました。そしてあなたがエルフに害する存在ではないということも。それに私としてはあなたの考えは賛同を得るに値するものだと考えます」

「女王様?」

 レインさんが驚きの声を上げる。

「しかし。水精様の件は私一人の一存で決められることではありません」

「……そうですか」

 俺は目を伏せながら話す。

「ですから他のエルフ達と話し合って結論を出したいと思います。結論がでるまでしばしここでお待ちなさい」

「わかりました……ありがとうございます」

 俺は感謝しながら頭を下げる。

「レイン。後は任せまし――」「女王様!」

 レインさんが女王の言う事に詰め寄りながら声を上げる。

「不満なようですね? レイン」

「当たり前です! 私はエルフの悲願である水精様に仕える巫女になるべく育てられました。それに見合う実力もつけてきたつもりです」

「ええ。それはよく分かっていますよ」

「それなのに外から急にやってきた人族に水精様の御座所を教えたりしたら。また水精様が害される事になるかもしれません」

「だからそう言うことも含めてこれから話し合うのですよ」

「しかし……」

「私のいう事が聞けませんか? レイン」

 まっすぐな瞳でレインさんを見つめる女王。

「……分かりました」

「それではレイン。後は任せましたよ」

「はい。女王様」

 女王は部屋から立ち去った。


「あの。ひとつ聞いていいですか?」

 女王が出て行った後からずっと黙ったままのレインさんに尋ねる。

「……なんですか?」

 特に怒っているわけでもなく無表情で返事をするレインさん。

「エルフの悲願ってどういうことですか?」

「……かつてエルフの中には水精様の声を常にではありませんが聞く事ができるエルフがいました。そのエルフは水精の巫女と呼ばれ巫女になれることはエルフにとって最高の名誉だったそうです」

(あのトリスタンの声みたいな感じだろうか? 頭の中に聞こえるような。あれ?)

 彼女の言葉に引っかかりを覚える。

「だったそうですってもしかして?」

「ええ。水精の巫女はあるときを境にエルフの中に現れなくなりました」

「あるときって?」

「私が生まれるよりずっと昔の話です。その日今日のあなたと同じように人族の男がエルフの領域に入ってきたそうです」

「俺と同じように?」

「ええ。その者も水精様を求めてこう語ったそうです『娘が毒に犯されて余命幾許も無い。だから浄化の力を持つ水精様の力を貸してもらいたい』と」

(浄化の力。ね……)

「応対した巫女は当然私たちエルフでもそのような恩恵を受けたことがないのにそのような奇跡が起こるはずは無いとはいったのですが。それでもいいと一縷の望みに賭けたいと男が言うので。そこまで言うのならと巫女は水精様の居場所とされているところを教えました……」

「それでどうなったんですか?」

 嫌な予感がしながらも続きが気になるので尋ねる。

「男は帝国の邪教徒でした……男は水精様の居場所を汚そうとしましたが居合わせた巫女に阻まれ戦った結果。双方命を落としたそうです」

(帝国……本当に異教を滅ぼすつもりなんだな……)

「その結果エルフの領域は他の種族のとの関わりを無くしました。自分達が平穏に暮らすために。水精様を害されないように。しかしそれから水精様の怒りに触れたためか二度と巫女が現れる事はありませんでした……」

 そう言った後レインさんは真剣な表情でこちらを見てくる。

「だから私達エルフにとって再び巫女が現れた時ようやく水精様に許してもらえたことになる。これが私達エルフの悲願です」

 そう語るレインさんの表情は意志の強さに溢れていた。

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