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異世界唯一の男性魔術師《ウォーロック》  作者: 時好りを
プロローグ
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プロローグ

「いてて。どこだここは?」

 体の痛みに目を覚ますと俺こと新道しんどうたすくは見知らぬ森の中にいた。

「なんでこんなところにいるんだっけか?」

 声に出して確認すると思い出すために頭の中で回想を始めた。


「今日も疲れたなー」

 バイト帰りの疲れた体で呟く。

(学校。バイト。帰宅のローテーションをもう2年か……進学と一人暮らしするための金は結構たまったけど二人にはいつ言おうか……)

 家で待っているだろう祖父母のことを考える。

(年金暮らしの二人に進学するためのお金を用意してもらうのは申し訳ないからな。頼んだらあっさりお金を出してくれそうだけれどそれに甘えるのは良くないしな)

 難しい顔で考えながら歩く。

(両親が死んでしまってからずっと迷惑かけっぱなしだったもんなぁ……いつか恩が返せるといいんだけど……ん?)

「あれ? 何でガラスが割れてるんだ?」

 周囲に何も無い立地にある自分の家の縁側にある窓を見て呟いた。

「さっさと金を出しやがれ!」

(おいおいおいおい)

 物騒な声が聞こえたので急いで家の中に駆け込んでいった。

「祖父ちゃん! 祖母ちゃん!」

「佑! 逃げなさい」

 祖父ちゃんが俺に向かって叫ぶ。

「なんだぁ! てめぇは! ヒャヒャヒャ」

(こいつ目が逝ってる。クスリでもやってんのか)

「オラッ!」

「ごほっ」

 その強盗に腹を蹴られ俺はタンスに叩きつけられる。

「あーもうめんどくせ!」

 強盗は懐からナイフを取り出す。

「お前ら全員殺してから家捜しすれば金ぐらい見つかるだろ!」

 そう言って強盗は持ってるナイフを祖父ちゃんに突き刺そうとする。

「が……いってえ……あつ……い」

「あ? ガキ。何でお前に刺さってんだよ? ヒャヒャヒャ」

 腹から血を流す俺を見て強盗が笑う。

「佑!」

「いやあああ佑ちゃん!」

 2人が刺されて血を流す俺の姿を見て叫ぶ。

(ごめん。祖父ちゃん。祖母ちゃん。俺先に死んじゃうわ。親子共々親不孝でごめん……なさい)

 そうして意識を失う――ことにはならなかった。


『やっと見つかった。資格を持った人間が』

 聞き覚えの無い声が聞こえたので閉じようとしていた目を開けると強盗も祖父ちゃんも祖母ちゃんも時間が止まったように動かなくなっていた。

(まるで時間が止まってるみたいだ……)

『まぁ。実際に止まってるんだけどね。時間がじゃなくて世界がだけどさ』

(は?)

 姿はないのに声が聞こえるので俺は頭の中で声を上げた。

『ん? どうしたんだい?』

(何当たり前のように俺の思考と会話してるんだよ! つーかお前誰だよ! それに何で時間が止まってるんだ?)

『うーん。そうだなースカウトみたいな? それで君と話す時間を取るために世界を止めたってわけさ。そのままだと君死んじゃうからね』

(スカウト? 俺をか? それなら何でこんなタイミングなんだよ。死に掛けてるんだけど俺)

 俺はナイフで穴が開いている腹を見ながら話す。

『それについては申し訳ないとは思うけど。さっきまでの君はスカウトに値する資格を持っていなかったからこうして介入することができなかったんだよ』

(なんだよ? 腹を刺されることが資格とでも言うつもりか?)

『結果的にはそうなったけどね。その資格とは自己犠牲さ』

(自己犠牲?)

『そう自己犠牲。君は自分の祖父母を助けるためなら自分の身がどうなってもいいって思っただろ?』

(そこまで深くは考えていなかったと思うけど。気がついたら勝手に動いてたから)

『だからこそ君は僕たちの世界を救う資格のある人間なんだよ。救世主の資格がね』

(よくわかんねーけど。現在進行形で死に掛けてる俺に何をしろと?)

『危機に瀕してる僕たちの世界を救ってほしいんだ。了承してくれるなら君が置かれてるこの状況をなんとかすることも出来る』

(それはいい提案だな。ちなみに了承しなかったらどうなるんだ?)

『君はこのまま死んで。君の祖父母もその男に殺されるだろうね』

(選択の余地がないじゃねぇか! ……どうせ他にも何かあるんだろ?)

『勘が鋭いね。君が僕たちの世界に渡った場合君の存在がこの世界から掻き消える跡形もなくね。当然君の祖父母の記憶の中からも』

(きっついなーそれ……じゃあ俺が貯めてるお金とかはどうなるんだ?)

『そうだねーそのお金を持っていてもおかしくない人の元へ渡るように世界の修正力が働くだろうね。この場合おそらく君の祖父母の手に渡る』

(そっか……それならいいかな……行ってやるよ! お前の世界に!)

『ありがとう。契約成立だ。君に僕の力を与える』

 直後俺の体が光り腹の傷もなくなる。

(どうなってんだこれは……)

「ヒャヒャヒャ」

(時間が動き出した!)

「あ? お前なんで立ってるんだ? 刺したはずだろぉ?」

 再び強盗がナイフ構える。

(おい! どうすんだこれ? また刺されるぞ?!)

『落ち着いて。頭に浮かんだ言葉を唱えればいい』

(頭に? あーこれか……)

「術式構成・雷・貫通」

 言われた通りに唱えると右手から激しく放電現象が起こる。

(うあああああ! なんだこれ!)

『落ち着いて。続きを唱えるんだ』

(続き? あーはい。これね)

雷撃強襲サンダーアサルト!」

 右手から放たれた稲妻は強盗を貫通し割れた窓を通り抜け外に着弾し稲光を発生させる。

(人間やめた気分なんだけど……)

『これでその男は丸一日は気絶したままだろうね、そんなことより別れの挨拶をしなくていいのかい?』

「……そうだな。祖父ちゃん。祖母ちゃん。無事でよかったよ。でも俺ちょっと遠くに行かないといけないんだ」

「佑! お前怪我は?」

「大丈夫なの! 佑ちゃん?」

 自分達も怖かっただろうにもかかわらず俺の体を心配してくれる二人。

「育ててくれた恩を返せなくて……ご……めんね。俺は……祖父ちゃんと……祖母ちゃんの……孫に生まれて……嬉し……かったよ……」

 改めて感じる2人の優しさに涙を流し俯きながらやっとのことで喋る。

「佑? お前何を言ってるんだ?」

「佑ちゃん? どうしたの?」

 俺のただならぬ雰囲気を見て、心配そうな顔で歩み寄ろうとする二人。

「今までありがとうございました!」


 佑が顔上げて礼を言った瞬間、新道佑という人間の存在は彼がいたという痕跡も含めてその世界から完全に消失した。

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