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エピローグ


 朝のホームルーム前。


「ネオちゃん!」


 二年一組の教室で、廊下側から二列目の一番後ろの席に座った麻倉音緒あさくら ねおは、声を掛けられる。


「おはよっ、みおっち!」


 みおっち――竹下実緒たけした みお挨拶あいさつをかわす。


 あれから二週間が経過した。


 ――総合祭が終わった後、実緒はホームルームには出席せずに自分の身に何があったのか、学年主任の先生に事のすべてを正直に話した。


 それにより、実緒を不登校させるほどおとしめた向井亮介むかい りょうすけは翌日、昼休みに職員室に無理矢理担任に連れてこられ、二年生を受け持つ全教師を前に、警察のような事情聴取を受けた。最初は口を開かなかったが、ネオとみちる、そして美術の部長のありのままの証言プラス先生方の鬼のような形相を前に、観念して実緒を傷つけたことを話すことになった。


 それをもとに生活指導課の先生と担任、校長の話し合いの結果、彼は一か月間の停止処分と部活の退部を言い渡されたが、「それだけはやめてください!」という実緒の申し出により、退部は免れた。そんな心優しい彼女の一言を受け、向井は泣き崩れてしまったのだとか。


 そのことについて心配したネオは、携帯で彼女とやり取りをしたのだが、


『ネオちゃんみたいに……彼ともそういう関係でいたいから。美術部の仲間が一人減るのは嫌だし、わたしもネオちゃんみたいに向井君の手を取りたいの。私も、ネオちゃんみたいに、前に進みたいから。大丈夫、わたしに何かあったら、ネオちゃんが助けてくれるんでしょ? ね!』


 多くは話さなかったが、実緒なりの考えがあるのだろう。ネオのように、自分も彼と対等になって、友人という関係を築いていきたいのかもしれない。


 そして実緒は、一週間後に復帰することが決まった。


 この間にネオは、クラスメイト全員と実緒についての話し合いを放課後に開き、「実緒が学生生活に復帰できるような環境にしてほしい」と頼んだ。


 しかし、それは杞憂きゆうであった。


 クラスメイトは全員その気でいたのだ。おとなしいけど、授業中に分からないところを教えてもらったり、話しかけたら話してくれるし、掃除時間でも細かいところまで見たり、気配り上手だし、とみんなそれぞれ、実緒に好感をもっていたのである。しかも、男子生徒にはファンもいた。彼らは、彼女のことをちゃんと見ていたのだ。


 ――これなら何も心配はないわね。


 一週間後。実緒が教室に入ってきた瞬間、クラスメイトは「心配したよ」「大丈夫?」と声をかけ、彼女は気持ちよく学校生活へ復帰できた。


「――ネオちゃん、約束のポスターができたよ。はい!」


 実緒は二つ折りしたA4の画用紙を広げる。


「おおっ! こ、これがわたし!? か、かっこいいーっ!」


 白黒のカラーで、ステージでマイクを両手で持って力強く歌っているのがネオ。右上にエレキギターのヘッドを真上にして豪快に弾いているのが長里ながさとみちる。左でクールに器用な指使いでエレキベースを弾いているのが伊藤巧いとう たくみ。そして、右上には白いバンダナを巻いて、ドラムの中央でスティックを持って決めポーズをしている野上健斗のがみ けんと。自分たちの個性を引き出した絵となっている。


 ネオは目を黄金に輝かせながら絵を見つめる。


「ありがとう実緒! これで来年には、新入部員もきっとたくさん入ってくるわ!」


「ふふ、どういたしまして」


 満足気なネオに、実緒は微笑む。


 そこに、


「おっ! 何見てんの?」


 横から小倉優太おぐら ゆうたがネオの持っている紙を奪い取る。


「おわっ!」


 ネオは左隣にいる優太に驚く。


「な、なんでアンタがここにいるのよ!」


「そりゃあ、隣でまじまじとこれを見ているからだろ。へー、これ、竹下さんが描いたの?」


 優太は実緒を見つめる。


「うん。そうだよ」


「すげぇ……こんなかっこいいのが描けるんだ」


「そうよ! 実緒はなんでも描けるんだから!」


 えへん! と親友を自慢するネオ。


「おまえが威張いばってどーすんだよ。……こんなの見ると、おれも竹下さんのファンになっちゃいそうだよ」


「ふぁ、ファン!?」


 ネオが急に高い声を上げる。


 クラスメイトも一瞬、ネオを見る。


「どうしたんだよ」


 いぶかしげな表情でネオを見つめる。


 その顔がネオの顔をさらに赤くさせた。


 なぜなら、


『わたしは優太が好き――――――っ!!』


 ……総合祭での悪夢がよみがえるからだ。


「う、う、うるさーい!! どーでもいいでしょ!」


 返して! と奪い返す。


「な、何なんだよ……」と言いながら、優太は自分の席に座った。


「まったく! なーにがファンよ!」


 と小声でつぶやき、すぐさま隣の席で友達と話している優太に目を細めた。


「ね、ネオちゃん。まさか小倉君のことを……」


「ち、違う! 絶対に、ぜぇーたいに違うからね!」


 くすくすと笑う実緒に、必死の全否定をするネオであった。




 ホームルーム。


 廊下側から二列目の最後尾に座っている、学校指定の長袖カッターシャツの首のボタンを外し、緑のリボンを垂れ下げ、その上にブレザーを着用し、タータンチェックの学生スカートを膝よりも上げた、ポニーテールがトレードマークのネオ。


 そして彼女の右隣(廊下側)の前から二番目には、校則通りに服装を着こなす、真面目でおっとりとした、親友の実緒が座っている。


 そんな当たり前に見ていた光景が、ネオはどことなく真新しく見えた。きっと、新たな関係を結んだからに違いない。


 ――月のように輝かしい、夢を追う二人の新たなる日常が始まる。


          《HEROES OF THE SCHOOLⅠ moonlight 終わり》


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