「存在」を望んだ少女 3
ネットトラブル、期末テストなどが重なって更新が遅れました。
すいません。
「……〜い、いい加減に起きろ山本!」
「はっ!?」
ベシリと頭をはたかれ、私は飛び起きた。
胡乱な瞳で周りを見渡すと、すぐ隣にメガネをかけたてっぺんハゲの先生が立っている。
(……ヤバ)
背中を嫌な汗が流れ落ちていく。よりにもよって、鬼田村の授業で居眠りしてしまうとは。
てっぺんハゲメガネで鬼な田村先生は、この学校で一番目を付けられてはいけない先生だ。遅刻や忘れ物をしようものなら、怒鳴りつけられた後に課題が三倍に増える。
居眠りしようものなら、放課後に呼び出しを食らう。
田村先生は、危ない光を目に宿しながら迫って来た。
「ほほう、山本……。俺の授業中に眠るとは、退屈させてしまったようだなぁ、すまんすまん」
「あ、あはは……。そ、そういうことじゃなくですね……?」
「寝るほど退屈だったってことは、もちろん予習も完璧なんだろうなぁ。そら、前の問題を解いてもらおうか?」
クイ、と先生が親指で示した黒板には、数字とアルファベットが織りなすすばらしく難解な式が書かれていた。
……わかるわけがない。
「いや〜、私文系なんで数字はちょっと……っていたぁ!?」
笑って誤魔化そうとしたら、頭上に拳骨が振ってきた。頭を抱えて呻いていると、田村先生の怒鳴り声が耳に響く。
「なぁにが文系だから、だバカタレ! さっきの説明をきちんと聞いてたら解けるわ、ドアホ!」
「な、殴らなくても良いじゃないですかぁ……」
頭上に出来た小さな膨らみをさすりながら言うも、田村先生は聞く耳を持たない。
「出来もせんくせに居眠りなんぞ、百年早い。背筋伸ばして聞いてろ」
「……はい」
「さて、じゃあ……」
頷くと、先生は教壇のほうへ戻っていった。
気付かれないように、息をつく。前に目をやれば、私の代わりに学年トップの真面目委員長が黒板の問題を解いていた。
チョークをしっかり握った指はスラスラと淀みなく動き続け、私には意味不明な暗号をあっさりと解読していく。
「解けました」
「ん、よし。良くできたな、正解だ」
そう言って、一瞬顔をほころばせる。かと思えば、キュッと顔をしかめてこちらを見て、言った。
「山本、次は解けるようにしておけよ」
はい、と蚊が鳴くような声で返事をして、俯く。視線だけを上げると、真面目委員長と目があった。鋭い視線は、こちらを明らかに格下として見ている。
どうしてこんな問題が解けないのかしら、そんな圧力が伝わってきて、私はまた俯いた。それを見てか、教室の中で誰かがクスクス笑う。先生が一瞥すると声は収まったが、それでも興味本位の視線は消えない。
……いつも、こうだ。
それがなんであれ、私はやり始めればそれなりに出来る。勉強であれ、スポーツであれ、出来ない事は殆どなかった。
でも、その代わりどれでも突出する事は出来ない。トップを取る事は出来ないけど平均からは大幅に飛び出している、そんな中途半端な立ち位置。
平均の輪に加わるには飛び出しすぎていると罵られ、なおかつ上位の側に混じるには程度が低すぎると嘲られる。
私は、どちらにとっても興味を持たれる事はなかった。
時折向けられるのは、好奇の視線。
交ぜるのは嫌だけど、見ていたら面白い。そんな声が聞こえてきそうだ。
その度に思う。
(ああ、またか……)
内心でそっと溜め息を吐いた。慣れてきたとは言え、ウンザリする気持ちは変わらない。
そこにあるのは、離れているからこそ持つ興味心と好奇心。そこには、友好的な心など一片も存在していない。
(だから、なのかな……)
私は、自分の胸元へ手をやった。
鼓動が、走った直後のように強く、早く、脈打っている。まるで未知なるものに対処しているかのように。
起きてから数分は経ったのに、納まる気配がない。何かに急かされているような気さえした。多分、あの神様(で、良いのだろう……おそらく)に力をもらった影響だろう。
本心で言えば、今すぐ使ってみたい。
今のこの状況を打破できるなら、すぐにでもそうしたい。
だが、今はまだダメだ。そう言って、荒ぶる本能を理性で必死に抑える。私が手にしたのは、神様なんて存在からもらった未知の力だ。どういう風に発動するかなんてわからないし、何より人目がある所で妙なことで悪目立ちはしたくない。
(……放課後、誰も見ていない所で!)
そう必死で自分に言い聞かせる。
いつも以上に、時計の針が進むのを遅く感じた。
更新は、7/20を予定しております。
更新が三日ほど遅れます。申し訳ありません(7/20)