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The Magical Attack (Butsuri)

作者: 銀神月美

    The Magical Attack(Butsuri)

                   銀神月美


「魔女っ娘レンちゃんただいま参上っ☆」

 月のない夜に突如鳴り響く空襲警報。敵のレーダー網か何かに発見されたらしい。

 すぐさま無数の探照灯が灯され弾幕が張られるが、しかしもう手遅れで、懐深く潜り込んでいる。

「照準合わせてポチッとな、魔法の力で全滅だ~♪」

 夜間ではあるが急降下からの陸用爆弾投下。すぐに操縦桿を引く。そのすぐ後には爆発音が響き、標的の破壊が完了したことを伝える。

「さてさて次は、何処かしら?」

 闇の中を自由自在に飛び回って、次の標的を探す。そして低空からの機銃掃射を行う。砲座、航空機、目に付くものには容赦なく攻撃を仕掛けた。

 滑走中の航空機が被弾し派手に爆発炎上する。直後、編隊が敵基地上空に飛来する。そして次々と標的に向かって爆弾を投下し、その後は機銃で攻撃する。

 対空機銃は闇夜の中を打ち続けるのみで、狙いなど全く定まっていない。そもそもに探照灯を次々と破壊したから、目視出来ないのだろう。

 こうして敵は格納庫、レーダー基地などを破壊され、航空機も多数失い、大損害を被ったのであった。

「あはははは……テキサンゼンインサヨウナラ†」

 しかし、攻撃はこれだけではない。

 敵の消火活動と救護活動が行われる中で、突如轟く艦砲の音。兵士は一瞬動きを止めたが、すぐにその場から退避する。その直後の着弾。

 攻撃はまだ続いていた。航空機による爆撃だけに留まらず、艦砲による砲撃が始まる。

 爆撃によって基地の機能を低下させ、その上で艦砲射撃を行なって徹底的に基地を破壊する。

 空爆の威力とは比べ物にならない火力が基地を襲う。その砲火から敵は逃れることは出来ず、悉く蹂躙されていく。その光景はまさに地獄絵図であり、その光景こそが彼女の求めていたことであった。


「馬鹿者、勝手に編隊に先行し、敵基地に向かう奴があるか! 作戦が失敗したらどうするつもりだ!!」

 作戦成功の余韻に浸る兵士達に緊迫が広がる。今の作戦中に自分勝手な行動をする奴がいたのだ。

「少尉、お前は以前にも同じようなことをしたな。その前も、またその前もだ。一体いつになったらその身勝手な行動をやめられるのだっ。恥を知れ!」

 怒号が飛ぶのだが、空気は確かに緊迫しているのだが、明らかにおかしな点がある。それは叱責されている側の服装だ。軍服でなく、頭の天辺から爪先に至るまで魔女か魔法少女を彷彿とさせる服装をしている。

 けれども、誰もそのことには触れない。叱り飛ばしている方も勝手な行動だけを追及している。

 この自称魔女っ娘レンちゃんこと逢家恋あいけれん少尉は海軍航空隊に所属し、かなりの腕前を持っているのだが、その反面勝手なことをしたり、将又魔女っぽい服装をしていたりとおかしな人物である。それでもどんな作戦もこなし、無傷で戻ってくるのだから、信頼は厚い。

 一方で、他の隊員からは敵に回したくないと恐れられてもいる。魔女っ娘と可愛らしい言葉を使っているが、傍から見ると冷酷非情で敵を徹底的に壊滅させることで有名だ。魔女っ娘というより悪魔だ。

 しこたま怒られた少尉は自室に戻ってすぐに寝た。それは体を酷使した分の休息であり、そうやって次の蹂躙の為に少尉は常に備えている。

 敵味方を問わずに恐れられている魔女っ娘であるが、少尉の一番得意としているのが夜間攻撃だった。夜目の利く少尉にとって、それこそ小さな目標で迷彩が施されていない限りは夜間も存分に動けた。そして夜間は暗い分隠れやすく、レーダーなどの索敵さえどうにかすれば、偵察も攻撃も朝飯前だった。

「少尉、艦長がお呼びです」

 睡眠に入ろうとした直前に呼び出しを受けた。不満気に返事をし、呼び出した本人の元へ向かった。

「逢家です」

「よし、入れ」

「失礼します」

 少尉が中に入ると、艦長は寛いだ様子で出迎えた。服を軽く着崩し、椅子に深々と腰掛けている。

「また、やらかしたようだな」

 少尉の行動は知られていた訳だが、その口調には怒気は微塵もなく、ましてや諦観であるとかも一切含まれておらずに、至って落ち着いたものだった。

 けれどその話題を出された方としては、またかという感想を持ってしまい、面倒な気持ちになった。もう幾度と無く同じような説教をされているから、流石に聞き飽きてしまったのだ。その内心が表に出たのか、

「そう、仏頂面をするな。別にそれが用ではない」

 笑いながら説明されてしまった。

「では、一体……?」

「用云々と言ったが、正直なところ用など始めからないのだ。だから、慣れないことはしないで良い」

 そう言われて少尉は態度を崩した。それは明らかに上官に対するものでなく、旧知の友人に接するものだ。

「私は寝ようとしていたんだぞ、鼓。それを何の用もなしに呼び出すとは……もう少し部下の生活習慣を把握したらどうだ? まあ、無理だろうがな」

「そうか、悪かったな。てっきり夜通し起きていて、攻撃命令を待っていたのだと思っていた」

 少尉に冗談を言った艦長、佐達鼓さだちつづみ大佐はこの艦の艦長であると同時に、少尉の親友でもある。

「ふん、流石の私も疲れるんだ」

「なら、疲れなくなる魔法でも使ったらどうだ?」

「うるさい。こんな無駄話ばかりするなら私は寝る」

「それなら睡眠を取るよりももっと効果的な方法でお前の疲れを取り除いてやろうか?」

「そこらの兵士にでも抱かれていろ。私は寝る」

 言い放って体を反転させる。

「司令から頼まれたんだ」

 少尉の動きが止まる。

「ある作戦の適任者を探しているようでな」

 言いながら抽斗を探り、書類を机上に出した。

「返事は明朝までに頼む」

 書類を取り上げ軽く目を通す。

「頼むではなくて〝命令〟と言えばいいだろう?」

「あくまでも頼まれただけだからな」

「上官からの頼み事など命令と同じだ」

「お前と私の仲だろうに。兎に角、その件に関してはお前次第だ。やりたくなければ断って構わん」

 書類を机に置いて少尉は踵を返した。

「私が断れないことを知っているくせに」

 退出際、片手を軽く振りながら受けたのであった。


 翌日、司令から作戦の詳細と役割分担を聞いた。それによれば、作戦は敵航空艦隊を夜間に攻撃するというもので、夜間に広い海上から航空母艦を探すなど困難極まりない作戦内容に、詳細を聞いた兵士達からは成功の確率は低いのではとの意見が出た。

 それでもなお司令は「その為に君達選りすぐりの精鋭を集めた」と言って兵士達を納得させる。

 結局のところ、彼等が軍人である以上は上からの指示には逆らえず、また形式的には本人の意志でここに来たということになっているのだから、説明を受けた全員が作戦に参加する結果になった。

 作戦決行は一週間後。それまでの間、港の地形や予想される敵戦力などの講習を受け、また実戦を想定した訓練も行われて、作戦までの準備を整えていた。

 当然ながら少尉も講習と訓練を受けていたが、少尉にとっては退屈で仕方のないものだった。敵の情報を得、実際にどのようになるかのシミュレーションをすることは有意義だけれど、それで敵が壊滅する訳でもないし、それに爆発音や銃撃音がないから全く現実味を持っておらず、お遊びをしている気分になってくる。

「はい、終わり」

 だから、曇天の夜での訓練も少尉にとって何ら難しいことはなく、仲間が苦労しているのを余所に、欠伸をしながら適当に演習爆弾を投下する。戦闘時の痛々しい魔女っ娘言葉なんて一切口にしない。

 そうして何ら支障を来すことなく、攻撃目標のいる海域に向けて出港することになった。

 艦隊は佐達大佐の艦を旗艦とした航空母艦二、戦艦一、巡洋艦五、駆逐艦八の編成である。対して敵航空艦隊は航空母艦六、戦艦三、巡洋艦八、駆逐艦十二の大艦隊である。単純に数で比較すれば圧倒的に敵が有利であるが、こちらは奇襲という形を取る為に、そのことを鑑みれば数字での比較は難しい。

 実際の攻撃が開始されるまでの間、兵士達は艦内で訓練の復習をして過ごしていた。妙な緊張感はあるが、日常と変わりないように振る舞っている。

 ある夜、旗艦内を歩く艦長の姿が。艦長は攻撃などの例外がない限り毎夜艦内を見て回っている。まだ作戦海域に至っていないこともあり、今夜もまた艦内を見て回っていたのであった。

 艦橋、甲板……と歩き、格納庫に至る。

「……?」

 誰も居ないはずなのに一つの影が。相手は艦長に気付いていない様子で、何をするでもなしにその場にいる。艦長は用心しながら接近する。

「なんだ、お前だったのか」

 側に寄るとすぐに誰であるか判明した。そのあまりにも場違いなトンガリ帽で。

「ん? こんな所で何をやっているんだ」

「それはこっちの台詞だ……まあ、分かっているが」

 そう言って、少尉の視線の先を見る。そこには一機の航空機が。暗がりでよく見えないが、トンガリ帽を被った黒猫のノーズアートが施されている。

 この機を見た者は敵味方問わず「魔女だ!」と叫ぶ。敵に対しては不吉を呼び、味方に対しては幸運を呼ぶトンガリ帽の黒猫は少尉の象徴であった。

「全く、態々こんなものを描くとはな」

「こんなものとはなんだ。可愛いじゃないか。それに魔女っ娘のお供は黒猫と相場が決まっているんだ」

「一体こいつの何処が猫なんだ。譬えるなら鴉の方が合っているだろうが、航空機なんだから」

「分かってない奴はこれだから困る。魔女っ娘といえば黒猫。鴉が入ってくる余地などない」

「何を言うと思ったら……。実際はその逆ではないか。鴉の中に猫の入る隙はない」

 少尉の所属する部隊の部隊章が八咫烏である。

「もしかして、それでうまいことを言ったつもりか。本当に馬鹿だなぁ、お前は」

「そんな馬鹿が艦長だぞ?」

「それなら私はもっと上に立っているな」

「分かった、お前の着艦は認めない」

「す、すまない。洋上に不時着だけは勘弁してくれ」

 いつものごとく軽口を叩く二人。そのひと時だけは戦争というものを忘れさせてくれる。

「じゃあ、私はそろそろ戻らねばならぬから」

 そう言って艦長はその場を去った。対する少尉は以前としてその場に残り、艦船攻撃が可能なように爆装を施された自分の機を見詰めている。

 少尉は機との対話を日課にしている。対話といっても実際に話すよりも視線による会話と言った方が正しいかもしれない。視線を交わして機との意思疎通を図り、今まさに艦長と行ったことを機と行う。相手はただの機械なのだから、と考えればその通りで、他人から見ればその光景は馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるだろう。しかし、少尉はそれこそ友人のように接している。

 無言の会話がなされる。今回の作戦について、如何に危険であるか、いや無謀であるか語り掛ける。返答はない。ある意味で自問自答を繰り返しているだけだが、少尉には言葉にならない何かを感じている。そしてそれこそがこの機の言葉だと思っている。

 こうしている間にも、決行が迫っている。


 発艦の合図。攻撃機が飛行甲板を滑走する。僅かな灯りでの発艦は必然と危険を伴う。けれども、皆臆することなく飛び立ち、そして編隊を形成する。

 昼の偵察によれば敵艦隊は予定の海域を航行中とのこと。今後何の変化もなければ作戦通りの攻撃となる。

 空は晴れていた。雲一つなく、星が輝いている。月が出ていれば索敵も少しは楽になるのだが、星明かりだけとなると話は違ってくる。とはいえ、それは敵方も同じで、こちらを見付けるのは容易でない。

 夜間の攻撃ならば潜水艦にでもやらせればいい、編隊飛行をしながら少尉は欠伸をした。

 敵艦隊はまだ見えない。既に予定海域の上空のはずだが、駆逐艦はおろか航空母艦すら見当たらない。夜だからといえばその通りなのだが、早期に発見出来なければ作戦失敗に終わってしまう。

 中々見付からないことに、少尉は様々と思考を巡らせる。違う海域に来てしまったのか、それとも敵が航路を変更したのか、将又作戦情報が漏れたのか……。

 攻撃予定の時刻になろうとしている。しかし、まだ発見に至っておらず、このままでは作戦失敗で一発の魚雷も爆弾も投下することなしに帰艦することになる。これは軍人としての誇りを損ねることになるが、だからといっていつまでも飛んでいては燃料が持たない。

 各機に無線が入る。それは、索敵を中止して帰投するとの旨だった。作戦を遂行しなければならないとはいえ、相手が見付からないのだから仕様がない。

 不本意ながら少尉もそれに従うしかなかった。母艦を目指そうと隊は大きく旋回した――その時。

(……あれは?)

 少尉の目に何か黒いものが映った。凝らして見ると、その周囲に別の黒い物体が並んでいる。

「ミイツケタ」

 言うのと同時にスロットルを開いた。


「魔女っ娘レンちゃん参上☆」

 探照灯が空を照らし、すぐさま弾幕が張られる。しかし、対処が遅かった。航空機は対空砲火を巧みに掻い潜り、航空母艦の上空に迫っている。

「さぁて、始めちゃうぞ~♪」

 機体が急降下を始める。航空母艦目掛けて機体強度限界まで加速する。そして――

「まずは一隻さようなら~*」

 投下された爆弾は艦橋付近の飛行甲板で爆発。迎撃の為に発艦準備をしていた航空機を巻き込み、甲板上は炎の海と化し、航空母艦としての機能が停止した。

 巨大な炎を背に少尉は次の獲物を探す。後方で燃え上がる炎のお陰で、少しは周囲が見渡せる。

 少尉は他の航空母艦を探した。まずは敵の圧倒的な航空戦力を早期に削ぐ必要があると考えたからだ。

 幸いにもすぐに見付かった。少尉は弾幕の厚さに臆することなく敵航空母艦に向かって突っ込み、甲板に向かって機銃掃射して抜けていく。

 火の手が上がる。これで暫く使いものにならない。

 それを確認すると同時に友軍機の到着を見た。それぞれに航空母艦を中心に爆撃を行う。

「やりにくくしちゃったかな、てへっ☆」

 ――急上昇。敵機が少尉を追う。数発撃ってくるが、構わず上昇を続ける。そして失速。敵機はそのまま少尉を追い越す。それを見て少尉は失速状態からの回復を行い、こちらを見失っている敵機の背後へ付く。

「魔法の前には何人も敵わないのだー♪」

 照準を合わせて少尉は本作戦一機目を撃墜した。

 撃墜の余韻に浸っている余裕はない。撃墜した直後に別の機に背後を取られている。

 今度は捻り込みでも繰り出そうかと思い付いた時、左前方下にまだ攻撃を受けていない航空母艦が。ニヤリと笑ってそちらへ向かった。

 標的の艦からは航空機が次々と発艦している。これを叩かねば、作戦自体に影響を及ぼす可能性がある。

 敵機二機を従えて、少尉は艦へ突撃する。機体を横滑りさせて砲火の間を抜けていく。そして、

「ばいばい、敵さん♭」

 艦橋へ銃撃し、すれすれで激突を回避する。

 後ろにいた敵機はいない。誤射されたか、それとも回避行動が遅れて艦橋に突っ込んでしまったか。兎に角、次の標的を探さなくてはならない。

 敵が大艦隊だから獲物はすぐに見付かった。友軍機に張り付いて、必死に落とそうと試みている。

「あれれ、あれは新人さん?」

 不慣れそうな動きに少尉はそう思ったが、そんなことは関係ない。誰であろうと目の前にいる敵兵士は屠る、少尉はそう決めている。

 敵機はこちらの存在に気付いていない様子。少尉は旋回している敵機の背面目掛けて数発撃ち込む。すると、機体が不安定な動きをして落下した。

 奇襲を受けた敵は混乱の最中にあったが、迎撃しようと試みている。しかし、暗闇の中で迎撃は困難を極め、何処に敵がいるのか、どれが敵なのか判別出来ないでいる。その為次々と爆弾と魚雷を食らっている。

 航空母艦は一隻もまともに使える状態になく、戦艦及び巡洋艦も魚雷攻撃に晒され撃沈から中破までに至っている。駆逐艦もその通りであり、被害は甚大だ。一矢報いようと盛んに飛び回っている敵航空機はその内燃料が切れて不時着するしかなくなるだろう。

 また一機撃墜し、次を探す少尉に無線が入る。それは隊長のものであり、作戦終了を指示するものだった。

「残念……モットアソビタカッタノニ†」


 帰投途中、少尉は散々責められた。それは勝手に隊を離れて勝手に攻撃したことであり、その所為で作戦が失敗したかもしれないと怒られた。隊長の言っていることは尤もだが、こればかりは自分にはどうにも出来ないと少尉は諦めてしまっている。

 隊長の説教を聞き流しながら東の空を見る。

「夜明け……か」

 水平線から旭日が昇っている。

何があってこうなったのか、実は私自身が知らないのです。

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