初デート(SSS) (SSS)シリーズその2
(SSS)シリーズの第二弾をお届けします。
ちょっと意地悪な女の子と優しすぎる男の子の恋愛コメディ?
笑ってやってくださいませ<(_ _)>
初デート(SSS)
期末試験の真っただ中、屋上で二人でおいしい?お弁当を食べている時に増田君が急に言い出した。
「あ、あのう…試験が終わったら一緒に遊びに行かないかな?映画とか水族館とか…」
やった―♪デートのお誘いだ。
この時が来るのを心待ちにしていたんだ。
増田君は答えを求めようとはせず震える手でお弁当のおかずに箸を伸ばす。
わたしの特別料理の味付けに慣れてきたのか最近は凄い勢いで食べてしまう、
そして食べ終わるとペットボトルの水を一気に飲む、
奥手でそして誰よりも優しい増田君、そんな彼が大好きなんだ。
わたしははにかんだような表情を作ると、
「それってデートのお誘い?…どうしようかな…」
そう答えて空を見上げわざと焦らしてみる。
「無理なら別にいいんだよ、柴田さん」
「ちょっと、名前で呼んでって言ってるでしょ!」
「そ、そうだったね、えっと…美由紀さん」
「さんじゃなくてちゃん、そう呼ぶ約束よ!」
わたしの叱責に増田君は顔を赤めて言い直す。
「む、無理かな?今度の日曜日なんだけど…美由紀、ちゃんは用事があるかな?」
わたしは考え込んだ振りをして、
「用事ってほどじゃないんだけど、先約があったかな…でも純ちゃんのためなら延期してもいいかな」
増田君は下の名前が純一だ。だから純ちゃんって勝手にわたしが呼び始めたのだ。
赤くなった増田君の目が期待に輝く、
「それじゃあ…」
「でも映画見るのは嫌いだし、水族館って巨大な生簀みたいで気に入らないの、そうね……遊園地なら行ってもいいかな」
彼の言葉を途中で遮ったわたしの返事に増田君が硬直する。
彼がスリル満点のアトラクションが苦手なことは前もって調べてあるのだ。
「遊園地、行きたいな―初デートの場所にピッタリじゃない、でも嫌なの?」
赤から青い顔色に変化した増田君、それでも無理に笑顔を作ると、
「い、いいね、遊園地……じ、実に楽しそうだね、じゃあそうしょう」
楽しむのは一方的にわたしの方になるんだけれど、そうとは知らない増田君、こんな優しい彼が大好きなんだ。
こうして二人の初デートの日付と場所が決定する。
「なんだ?そんな恰好をして?どこかのコスプレイベントにでも行くのか?」
朝からこんな失礼な質問を連発するのは高校生のわたしの愚兄、オタクでリアルとは縁のない変態野郎だ。
「コスプレって会場に着いてから着替えるんじゃないの?それにこれは普通の恰好よ、失礼ね」
長い髪をツインテールにして白いワンピースに白い帽子、そう言われれば文学少女的なイメージかもしれないが…でもコスプレなんてとんでもない、増田君のためにおしゃれしているだけなのだ。
愚兄はわたしの恰好を繁々と見つめてニヤリと笑うと、
「はは~ん、さては男だな、中坊のくせに色気付きやがって、それなら男を攻略する方法を教えてやろうか」
こんな失礼なことをまた言ってくる。
「彼女の一人もいない癖に大きなお世話よ、攻略する方法ぐらい知っているわよ」
厭味ったらしくそう言ってみても愚兄は平然として、
「彼女がいないだと?おお!それは大間違いで~す。この俺には何千人の美少女が既に彼女になってくれているので~す。みんな美少女ハーレム状態、だから毎日がバラ色に輝いているので~す」
バラにもいろんな色があるんだけどと、突っ込みたいのをぐっと堪える。
この愚兄は『二次元の住人』と自称するほどの萌え狂いだ。
だから自分の脳の中だけが真実の世界だと信じている。
さらにPCゲームの世界の方が現実だと本気で考えてやがるのだ。
わたしの可憐な姿を見て妹萌えなんかになってもらっては大迷惑だ。
「お兄ちゃんなんか大嫌い!」
だからそう叫んで合気道の技を披露する。
「ひーっ、やめてくれ!」
わたしに組み伏せられて大の男が動けない、プロレスみたいに床を三回叩くがまだ解放してやらない、
「プライベートは不干渉でOKね?」
「サーイエッサー…」
解放された愚兄は二次元と称する自分の部屋に逃げ帰る。
わたしは意気揚々と玄関の扉を開く、青い空が目に眩しい、
テルテル坊主を百個吊るしたかいがあったと笑顔になる。
今日だけは誰に泣いてもらっても困るのだ。
携帯で時間を確認する。
待ち合わせ時間から三十分遅れている。
わたしはファーストフードの店の中から、あの待ち合わせ場所のバスターミナルの時計の下に佇む増田君をチラリと見る。
炎天下に晒されてかなり参っている様子、時々恨めしそうに空を見る。
待たされているのに携帯に催促の電話もしようとしない、なんて優しいんだろう~❤
そろそろ頃合いか……
わたしはトイレに入って顔を濡らす。
そしてそっと店を出ると増田君の方に向かい一気に駆け出す。
「待たせてごめんなさい、ちょっと寝坊して遅れちゃった」
そう言って駆け寄るわたしの顔を見て優しく微笑む増田君、そしてハンカチを取り出すと、
「ごめん、走ってきてくれたんだね、顔が汗で濡れてるよ」
そう言ってハンカチを差し出す。
自分も汗まみれなのに未使用のしかも新品のハンカチだ。
「ありがとう」
そう返事してわたしはそのハンカチで顔を拭く、そして増田君の顔も拭いてあげる。
「洗ってから返すわね」
たまには飴を与えておかないといけない、バックに仕舞い込むハンカチをなぜか名残惜しそうに増田君が見つている。
「じつは僕も遅れて来たんだ。だから5分ぐらいしか待っていないよ」
遅れて来たわたしを責める気がまったくない増田君、一時間もこんな所に立たされていたのに…優しすぎるってのも考え物だ。
その時ちょうどバスが来る。
「行きましょう」
そう言って増田君の手を握って二人は一緒にバスに乗る。
遊園地の入り口で増田君が入場券を買おうとするのをわたしは横から押しのけて、
「大丈夫よ、こんなに便利な物をもらったから」
わたしは二枚のこの遊園地の無料招待券を増田君に見せる。
これはわたしの母親が商店街のサマーセールの福引で当てた物だ。
アトラクション乗り放題のフリーパス、そんな素晴らしい特典が付いている。
「そ、そうなんだ…じゃあお金を払う必要はないんだね」
「もらい物だから連慮する必要はないわ、さあ、フリーパスをもらって中に入りましょう」
招待券をフリーパスに変えてもらいわたしはその腕輪を増田君に渡して、そして意気揚々と遊園地のゲートをくぐる。
青い顔をした増田君がためらいながら後ろに続く、現実を受け入れられない、そんな風な重い足取りで。
「お腹がすいたら思ったら…もうお昼を過ぎてるわ」
わたしの言葉に数々の絶叫マシンと称するアトラクションにチャレンジした増田君は放心状態で何も答えない、顔が真っ青で気分最悪のご様子だ。
「純ちゃん聞いてるの!」
わたしの大声で正気を取り戻した増田君、キョロキョロと辺りを見回すと、
「ここはどこ?わたしは誰?」
どうやらショックのせいで記憶が飛んでいるようだ。
「あなたは増田純一君、そしてここは遊園地、それにわたしは柴田美由紀、そして二人はデートしているの、これで思い出せないならショック療法が最後の手段になるんだけど、いいの?」
虚ろな目が次第に光を取り戻し、
「夢じゃない?あれは現実だったのか……」
どうやら過酷な現実に耐え切れず白昼夢に逃避行していたらしい、
「で、お腹が減ったわけ、もうお昼過ぎてるからご飯にしない」
とんでもないという顔の増田君、食べたらきっと吐いてしまうとその目が告げている。
「僕は今は食欲がないから飲み物だけでいいよ、美由紀ちゃんがお腹へったなら付き合うから何か買って食べなよ」
わたしはバッグに手を伸ばす。
増田君の顔がまさかって表情に変化する。
「ごめんなさい、お弁当は作ったんだけど持ってくるのを忘れたみたい、しょうがないからハンバーガーでも食べましょう」
そう告げて歩き出すわたしの背後からものすごく安堵するため息が聞こえてくる。
「怖いわね」
「怖すぎるよ……」
ここはアトラクションンの一つ幽霊屋敷、でも普通の和式の物とは違う、廃病院を模した造りになっていてゾンビや怪物が徘徊しているのだ。
基本的にゾンビや怪物達はお客さんを襲うふりだけするのだが、しかし登場の仕方がドキッとさせるのだ。
扉から急に出てくる。
いつの間にか背後に立っている。
そんな演出で客を怖がらせるのだ。
だからまったく無害のはずなのにこの二体のゾンビだけは有害だと直感で判断した。
前と背後から襲い来る二体の少女のゾンビ、それはお節介なわたしの二人の親友だ。
だから仕方なしに猿芝居に付き合うことにする。
二体のゾンビはわたしを抑え込んで噛り付こうとする。
「助けて純ちゃん!」
茫然と成り行きを見ていた増田君が形相を変えてわたしを襲う二体のゾンビを引き離そうとする。
「やめろぉぉぉ―」
そう叫んで必死の形相で親友の一人恵似子を強引に引き離そうとする。
その火事場の馬鹿力的な強引さで引き離されたら柔道の有段者もさすがに降参だ。
二人は元のゾンビに戻ると立ち上がって獲物を求めるように歩き出す。
そして廊下の曲がり角で手でVサインを作ってから消える。
「あんなことをするなんて…やりすぎだ。運営会社に文句を言ってやる」
わたしを助け起こそうと手を差し出しながら増田君が怒りで顔を赤めて言う、
「いいのよ、たぶんあのバイトの人達はわたし達が羨ましくてあんなことをしただけよ、怪我もしてないし、それに純ちゃんのカッコいいとこ初めて見れて嬉しいわ」
増田君の顔が怒りから別の意味の赤い色に変化する。
とにかく増田君は単なる優しいだけの男の子じゃないと証明してくれたのだ。
だからますます増田君が好きになる。
さて最後の試練が訪れる。
「最後に観覧車に乗りたいな、僕は高い所から下を見下ろすのが好きだから」
「高い所が好きなの?じゃああれなんか最高なんじゃないの」
そう言って微笑むわたしはバンジージャンプの飛び降り台を指さす。
観覧車と並んで立つそれは百メートルぐらいの高さだ。
それを見つめる増田君、その顔は蒼ざめている。
そして微かに震えている。
でもそれは恐怖から来る震えじゃない、彼は今心の中で必死で何かと闘っているのだ。
(そこまではまだ踏み込んじゃいけない領域だったのか…)
わたしは言った事の重大性に初めて気付く、
彼はいじめられていたんだ。だからそうしようと考えなかったことはないはずだ。
迂闊な自分の発言に思わず拳を握り占めて、
「今の冗談よ、やっぱりあんな危ないことはするべきじゃ……」
「いいや、飛ぶ…」
「えっ?」
「飛んでみせる」
「無理しなくても…」
増田君は複雑な笑みを浮かべると、
「僕が飛ぶのは君のためだけじゃないんだ」
そう言ってわたしの手を握って飛び降り台に向かって歩き始める。
飛び降り台は飛ぶ高さを百メートルと八十メートルとに選ぶことができる。
しかし増田君は百メートルを選択してその上から下で見上げるわたしに手を振る。
余裕なのか?いいやそんなはずはない……
意を決して増田君が飛び降りる。
叫びとともに。
「あそこから飛んだのね」
観覧車のゴンドラからわたしは飛び降り台を見つめて言う、
「そうだよ、あそこから飛んだ」
「怖くなかった?」
「聞くだけ野暮だよ」
怖くないはずがない、あたしだってあんな所から飛ぶのは嫌だ。
「ごめんなさい…」
増田君は笑顔になると、
「美由紀ちゃんが謝る必要なんてないよ、反対に感謝したいよ、僕は今日、僕自身に打ち勝った。そう誇らしく言えるんだから」
「……」
わたしは何も答えられない、自分を恥じて顔が赤くなる。
しばらくの沈黙、ゴンドラは最上部に差しかかる。
「今日は楽しかった?」
「うん、楽しかったよ!」
そう答える増田君の頬にわたしは優しく口付ける。
最上部だから誰にも今の光景は見られていない、
「今日の純ちゃんかっこよかったからご褒美よ、ありがとう」
内気で奥手の増田君、顔を赤めてドキドキしている。
「ねぇ、飛び降りた時なんて叫んでいたの?」
増田君は恥ずかしそうに外の景色を眺めながら、
「べ、別に…普通にぎゃぁぁぁって叫んだだけだよ」
増田君はそう言うがなんて叫んだか知っているのだ。
『好きな人が出来たんだ。僕はもう死のうなんて考えない!』
そう叫んでから飛び降りたのだ。
この叫びは飛び降り台に待機していた親友からのメールで知っている。
ああ、なんて素晴らしい事だ。彼は勇気を手に入れたのだ。
でもこれからが本番よ、増田君、もう死のうなんて考えないならもう死にたいと思わしてみたいと思うから、わたしはやっぱりSなのよ、
観覧車から降りて仲良く手をつないで二人で歩く、家路に着くために出入り口を目指す。
でも試練の道は険しいのだよ、増田君、第一の壁は越えたみたいだけど第二第三の壁が待っているのよ、それをすべて乗り越えなければゴールにはたどり着けないのよ、
そのゴールって何だろう?
まあいいか。
おしまい
小悪魔的な主人公の意地悪に増田君の受難はまだまだ続きます。
どうか次回作も読んでくださいね(^_-)-☆