明日にむかって
ずっと、こうしたい、と思っていた。
小さなカラダをこの腕でぎゅっ、と抱きしめたいと。
柔らかな髪を手でとかして、僕は空を見上げる。
恥ずかしさなんて、もう毛程もない。
ただ、この腕の中の温もりを大切に、大切にしたい。そう思うだけだ。
やがて長い時間が経った。
けど、それは僕がそう感じただけで、実際は二、三分しか経ってないかもしれないが。
「んん、気持ち良かった。」美香が目を擦りながら、体をおこす。僕から離れ、髪の毛を整えて笑いかける。
「ねぇ、…キスしよっか……。」
彼女はうつむきながら、口を開く。暗闇のなかでも、頬が紅く染まっているのがわかる。
「う、うん…。」
動揺を隠せず、僕もうつむく。膝は震えていて、地面をカタカタ、とならす。
また少し、確かに時間がながれた。
僕はドラマでみたように手を耳の奥に添えると、すこし戸惑う様に肩があがった。
小刻みに髪が揺れている。よく見ると美佳も震えていた。ゆっくりと顔をよせると、彼女が目を閉じる。
鼻があたらない様に、顔をちょっと傾ける。
吐息が微かに漏れ、僕の唇を湿らせる。刹那、唇が僅かに重なり合う。
少し離したあと、息を吸い込みまたくちづける。
今度は強く、しっかりと。
もう体は震えてはいない。お互いの腕が互いを引き付ける様に強く抱き合いながら。
どちらともなく体が離れ、美佳がえへへ、と僕を見れずに微笑む。「恥ずかしいね。」
「あぁ、この上ないな。」
フフ、と二人で笑う。すでに、午前零時をまわっている。
「そろそろ、…かえろっか。」
彼女は髪をかきあげ少し寂しそうに、そう言う。
「あぁ、送ってくよ。」
僕らは、ゆっくり立ち上がって、砂をはたき落としてから、並んで歩き出した。
途中、やっぱりまだ少し恥ずかしくてあまり会話もない。
「まだ、ずっと一緒にいれるんだよね?」
「うん、僕らはこれからも一緒だ。」
彼女の問いに答える、というよりも自分に言い聞かせるように、僕は答えた。
立ち止まり、目の前に見える美佳の背中を見つめて再び歩きだす。
今日の余韻を感じながら、明日にむかって。