雲に隠れる様に
しん、と静まりかえった公園に、九月始めの少し冷たい風がふいた。
「少しさむいね。」
「そうかな?学ラン、着る?」
「いいの?寒くない?」
答えるまでもなく、美佳の肩に学ランをのせた。彼女は、後ろ髪をあげて、また戻す。
一瞬みえた、美佳の白いうなじに、はからずとも緊張してしまう。
「へへ、アリガト。」
彼女はいたずらに笑う。
「やっぱ政司、さむいでしょ?」
上目使いで僕を見ながら語りかける。口許には、さっきと同じいたずらな笑み。
「いや、大丈夫だよ。」
「嘘。ふるえてるよ。」
美佳は、そう言って立ち上がり、僕にもう一歩近付いて、再び静かに腰をおろす。
不思議に見上げる僕をよそに、肩に羽織った学ランを二人の間にかけ直した。
肩が触れ合って、髪の毛は僕の頬を撫でる。
「ね、こうすれば二人とも暖かい。」
確かに、僕のおでこには汗が光ってはいる。
ただ、マラソンを走った後みたいに肺は軋んで、息がうまくできないくらいになっている。
「ふふ、政司の鼓動が聞こえる。」
美佳は、僕の心臓に耳をあてている。
シャツ一枚隔てて彼女の、僕より少し低い体温を感じる。
美佳はどう感じているのだろうか?僕の、段々と確実に、速く強くなる鼓動を。
僕は恐る恐る、左腕を彼女の背中にのせる。
一瞬、ビクッと体が小さく跳ねてまた落ち着く。そのまま軽く僕のほうへ寄せた。
「あったかい。それに、この音、政司の鼓動。…すごい心地よくて眠っちゃいそう。」
肩ごしに伝わる彼女の呼吸は、段々とゆっくりになり、このままだと本当に眠ってしまいそうだ。
「寝ちゃダメだから、起きなさい。」
子供をあやす様に、僕は言う。
だけど、言葉とうらはらに、左腕はより一層強く肩を抱く。
手持ち無沙汰の右腕を美佳の頭にのせ、くしゃくしゃっと撫でた。
「もう、ちょっとこのまま。…あと三分。」
彼女は、僕の胸にあてた耳を、より強く押し付け、腰に細い腕をからませた。こんな幸せがずっと続けばいい、今のまま時間が止まればいい。
そこら辺の歌手が歌う【永遠】てことを、僕は初めて理解して、初めて望んだ。
九月の少し寒い夜。