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夕陽は照らす
夏の夕暮れは、昼の間せわしなく鳴いていた蝉の声がやむ頃に始まる。
ついさっきまで、砂場で遊んでいた子供が帰り、公園はやがて段々と朱色に染まる。
僕らは、公園を下る階段の半ばにちょこん、と座っていた。
少し近くて、耳を澄ますと美佳の心の音まで聞こえてしまいそうな、距離。
特に話すこともなくて、二人とも水鳥の泳ぐ池を眺めている。
たまにふと顔を見つめては、またうつむいてしまう。
「ねぇ、なんで何も話さないの?」
不意に美佳が口を開く。
「だって、照れちゃうじゃん。」
うつむいたままそう答えると、美佳はふっと優しい笑みを浮かべた。
絵で見る聖母の様な笑顔。僕はただ、本当に愛しくなって美佳をぎゅっと、抱きしめた。
初めて抱いた女の子の肩は驚くほど華奢で、もう少し力をいれると形が変わってしまいそうなくらい、柔らかかった。
彼女の髪からはキンモクセイみたいな甘い匂いがする。
僕は息が苦しくなり、顔は林檎の様に真っ赤に染まる。
馬鹿みたいに大きく波打つ鼓動を悟られないように、腕をほどいて軽く距離を取った。