†0† Prologue
1994年、世界的にも有名なとある占い師が、ある不吉な予言を残して亡くなった。
『コスモスの華が陽光の周を十七度廻りし時、
この世に死が舞い降りるであろう』
つまり『今から17年後に、世界は滅ぶだろう』と。
一方その予言に対して、こんな予言を下した占い師もいた。
『’苦’と’デビルズ・ダース’の含まれし日に、死に望まれぬ子が産み落とされるだろう。
そしてその者は’闇より暗き深淵’を纏いて、死の闇を斬り裂かん』
様は『今年の9月13日に、世界を滅ぼす要因を阻む子供が生まれる』と言うことだった。
大多数の人々はこの予言に耳すら傾けなかったが、とある企業はこの予言の後者に読まれた
『望まれぬ子』を捕らえるべく、奔走した。
そして1994年の9月13日。
母親に望まれずに産まれ出た胎児が、ある協会によって、保護された。
◆
そして時は経ち、西暦は2009年。
『DreamerS』と呼ばれる企業が『ディバイザーシステム』を考案・確立し、
世の中にそれが浸透したのがつい去年の事。
ありとあらゆる『物』を収納・格納する事が出来るこの画期的な技術、それが
ディバイザーシステム。
薄いカード型の記録媒体にあらゆる情報・物を取り込む事の出来る、
云わばカード型の『鞄』だ。
そう、これがあれば何でも好きな物を瞬時に収納することが出来る。
そう、例えそれが、
人にとって害のある物だったとしても、だ。
「はぁ・・・はぁ・・・っ」
ある都会のビルの裏通り。
そこで素行の悪い男性が一人、息を切らしながら走っていた。
いや、『何かから逃げてきた』と言うのが適当だろう。
恐怖が顔にありありと浮かんでいた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・・・・ふぅ」
後ろから何も追って来ない事を確認すると、男はその場に座り込む。
頭の中で、自分を襲ってきた異形の姿の者の事を反芻しながら、乱れた息を整える。
だが、男は知らない。
危機はまだ、去っていない事を。
そして、
「グゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「っヒィっ!!?」
その危機そのものが、自らの頭上で待ち構えていたことに。
完全に不意を突かれてパニックに陥った男に、異形の怪物が迫る。
男が腰を抜かし、そして、
「ガァヴゥアアアアアアア!!!!」
その瞬間、男の体は怪物のその鋭利な爪に拠って、真っ二つに切り刻まれた。
「・・・・・・んで、俺に仕事?」
同刻、古い趣の漂うオフィスの一角。
事務机でタバコを吸う男性に向かって、一人の少年が尋ねた。
・・・・・・漂ってくるタバコの煙に口を閉口しながら。
「ああ・・・『仕事』って言うよりは『教育』に近いか?」
「俺に聞くなよ・・・・・・で、何だよ教育って」
顔つきの整った凛々しい少年が、今一度聞くとでも言いたげに声を発する。
「お前ももう15だろ? だがお前はマトモな教育をマルっきり一切受けてない、
だからお前を3年間高校に通わせようと思ってる」
「何で今更・・・大体、勉強なら『爺さん』から教わってるからいいっての」
「ところがドッコイ、これはその『壮吉爺さん』からの願いなんだよ」
「・・・!!」
男の出した『壮吉爺さん』の言葉を聴き、少年は驚いたように目を見開く。
その様子を見ながら、男は話の続きを話し出す。
「勿論『こっち』の仕事も込みなんだが・・・壮吉爺さんたっての願いだ、
・・・・・・無碍には出来ないだろ?」
「・・・・・・分かった、爺ちゃんがそう言うなら受けてやるか、その『教育』ってのを。
で・・・場所は何処だ?」
「それはだなっと・・・・・・おぉ、あったあった」
書類やカップ麺の容器が山積みになっている机の中から、
一枚の紙を引っ張り出し、少年に渡す。
「・・・ここって・・・爺さんの担当区域の・・・」
「そう、『妖魔』の出没率が最も高く、あの『DreamerS』の本社がある都市『桜町』だ。
壮吉爺さんがいるから『仕事』の方は問題無いだろう、だからお前は学生生活を楽しんでくれ」
「まぁ・・・分かった」
少々納得がいかないような素振りを見せる少年だったが。
(『学校』か・・・・・・どんなトコなんだろうな・・・)
内心は、新しい生活への期待で溢れていた。
「学校・・・・・・・・・か」
無機質的且つ殺風景な自室のベッドに腰掛け、これからの新しい生活に思いを馳せる。
今までは戦って、戦って、戦って――――――戦い疲れてベッドで眠るまで、妖魔を狩っていた。
爺ちゃんや他の皆から、体捌きや何やらを学んで、色んな妖魔と戦って。
・・・・・・戦って・・・・・・ばっかりだな、俺。
でも、これからは少し違う。
学校に行って、今まで爺ちゃん達からは学べなかったような事を学んで。
テレビドラマで見たような、普通の生活をする。
血ではなく、笑顔と平穏に溢れた新しい生活。
そんな生活が、俺を待っている。
「・・・ふぅ・・・・・・」
腰掛けたベッドに横になり、睡魔に襲われボーっとした頭で思い描く。
これからの事を。
この先の事を、そして。
俺を捨てた、両親の事を。
~To be continued~