来るはずだった転校生が死んだ5
その日の夜、ほのかは事故について調べてみることにした。スマホを開き「交通事故」と入力し、検索ボタンを押した。ほのかはまだ事故だということに疑念を抱いていた。何回かスクロールしたがあの日の出来事についてのサイトは見つからなかった。
「まあ、二週間ぐらい前の話だしね」
ほのかはそう自分に言い聞かせてこれ以上調べるのはやめることにした。そもそもあの事件から二週間ほど経っているのに警察が今動き出すなんておかしな話だ。そんなに時間を開ける必要があったのだろうか。
ほのかは変な想像をしてしまう。
きっと何か理由があったはずだ、時間を開ける理由が。
――その時にはまだ渚は死んでいなかった。
自分の考えたことにも驚きながらも、そうしたら先生が転校生が亡くなったと言ったのが嘘になってしまう。「交通事故」と調べたことがそもそもおかしかったのか。小学生の頃の記憶を遡ろうとする。しまっていた記憶から何かヒントを得られるかもしれない。
「実はね、お母さんが車に跳ねられたことがあるの。重症だったけど幸い命に別状はなかったの。不思議でしょ」渚がおかしそうにほほ笑む。「だから交通事故には気を付けるようにしてるの。ほのかも気を付けて」
――これだ。
確かに渚は交通事故に誰よりも気を付けていたはずだ。彼女の母親が事故に遭ったのも死角が多い道路だった気がする。……渚は絶対に事故じゃない。
ほのかは明日近ちゃんに聞いてみようと決心した。
朝、近ちゃんの姿を見つけるとすぐさま走り出した。
「先生急にすみません。だけど私、どうしても渚が交通事故で死んだと思えなくて……」
急に転校生の話をして驚いたのだろうか、近ちゃんが目を大きく見開いていた。
「交通事故……じゃなくて月野さんはどう考えている?」
目を細めて聞いてきた。「それは、まだ」とそっけなく答えてしまった。もう少し考えてきてから話に行くべきだっただろうか。もう関係がなくなってしまった私が転校生の事件に関わる必要なんてなかっただろうか。
「実は、警察側が事故だと判断したよ。それにそこには防犯カメラがなく近所の人に聞くしか方法がなかったんだ。その結果交通事故ということで処理されることになったよ。運よくトラックの運転手も見つかったんだけどな。急に呼び出してすまなかった」
途切れることなく話を進める近ちゃんに呆然とした。警察が事故だと判断?近ちゃんが放った言葉を一つ一つ理解しようとした。
「そんなはずはない」
弱弱しい声で言った。交通事故と調べてもそれについては一言も書かれていなかった。交通事故には常に気をつけていた渚が事故なんて起こすはずなかった。
「じゃあ、君は交通事故じゃなくてなんて言いたいんだ?」
再び同じような質問をしてきた。また黙り込んでしまった。
渚が死んだ理由。交通事故ではない何か。
「自殺」
先生とは思えない冷たい声で言った。ほのかは首を横に振る。
「じゃあ……誰かに殺された」
ピクリと体が反応した。
どうして私はその可能性に気づくことができなかったのだろうか。
――殺人。
その言葉が頭の中を揺らめかせる。
「どうして、先生は転校生について詳しく知っているんですか?」
転校生がなぜ交通事故で死んだのかとかをためらいもなく答えていた。その答え方になにか疑問を感じた。私のように渚のことを調べているように。
「うちの学校のクラスに来るはずだった転校生だからかな」
ため息を空気と混ざるように吐いた。呆然と空を見つめていた。たいして疑うことはなかったのかもしれない。
「先生。私と協力してくれませんか?」
その一言に、近ちゃんは一瞬、大きく目を見開いた。
返事をしようとして、口を開き――何も出てこない。
何回この子から驚かされたことか。
先生は微かにほほ笑み、ゆっくり立ち上がった。
私は真剣な表情でこちらを見ていた。冗談でも、軽い相談でもない。先生ならきっとわかっているはずだ。
「……どういう意味か、詳しく聞かせてもらえるかな」
ほのかは微かに笑った。
「私まだ高校生だから思考があまり働かないんだけどね、やっぱり先生に手伝ってほしいことがある」
「困った子だ」
近ちゃんは困っているように見えたが目は笑っていた。




