来るはずだった転校生が死んだ4
「近藤渚」
私は教室に戻るまでその名前をひたすら繰り返していた。こんどうなぎさ。
教室についた時でもその名前を心の中で繰り返し、繰り返し呟いていた。
「先生、すみません。遅れました」
ドアの音でメガネの位置が低くて頭の一部にしか髪が生えていない、先生が顔をほのかに向けた。
ああ、今の時間は社会の授業だった。気が重くなるのを感じ、先生に軽く礼をし、席に向かった。まだ20分くらい授業の時間が余っていた。もっと話が長ければよかったと思った。
私はノートに視線を落としたまま、ペンを動かそうとする。だが、手が止まった。
なぎさ。
ひとつ息を吸う。
どこで聞いた?
クラスメイト?
昔の転校生?
思考が霧に包まれたように進まない。
「今日から来るはずだった転校生が……亡くなりました」
今までの思い出を巡り、ある日の近ちゃんのその一言で、霧が一気に裂けた。
――ああ。
心臓が、遅れて強く脈打つ。
小学生の頃だ。小学6年生の時、彼女はそこにいた。
私の親友だった。
忘れていたわけじゃない。
ただ、思い出すには時間が必要だった。
私があまりにも、深いところに沈めていたから。
近藤渚。転校してくるはずだった私の親友が登校中に事故でなくなりました。しかもそれは私も通る通学路で……――ほぼ同じ時間に。
彼女のことをもっと知りたいと思った。私は近ちゃんの姿を探し、話を聞きたいと思った。
「近〇先生。聞きたいことがあるんですけど今いいですか?」
近ちゃんの足が止まった。そしてこっちを数秒見つめた。さりげなく目線を離してしまった。
「……転校生の話か」
「はい」
私は再び近ちゃんと目を合わせた。こっちに来なさいと首を動かし、ついて行った。そこは人気の少ない廊下だった。
「先生に聞いても分からないと思うんですけど、転校生は本当に事故だったのですか?」
「警察は事故だと言っていたが本当にそうだったかはまだ分かっていないんだ」
思っていた通りの答えが返ってきた。
「……もしかして、月野さん転校生のことを知っている?」
私がこんなにも転校生について聞いてくるのを奇妙に思ったのだろうか。先生が怪しそうな目で見てきた。
「はい。確かではないんですが、知っているんです。その子のこと」
先生が首を動かす。そして「そうか」と呟いた。
「君は転校生の本当の事実を知りたいかい?」
「知りたいです」
「その気なら先生も協力するよ」
近ちゃんの発言に驚いた。
「え……いいんですか?」
「ああ、大人の考えもきっと事実をしる手掛かりになるよ」
それにと先生が付け加える。
「引っかかるところもあるしな」
言い終えた後、ぼそぼそと口を動かしていたがそのあとは聞き取ることができなかった。
帰り道私は転校生「近藤渚」の事故現場を見に行くことにした。もともと通るはずだった道だけど、本当
に事故だったのかを知りたかった。
あの時警察の人が見せてくれた写真は家を出てから数分。どちらかというと家の方に近いところだった。目の前にはぽつんと置き去りにされていそうな公園があり、死角が多そうな道路だった。
誰もいないせいか心細く感じその気持ちから不安。最終的には怖いと感じた。まだ四時頃だから暗くはないが、事故現場は暗く寂しかった。警察か来たようなあといくつかあったが、朝だったため、今は封鎖はなく、誰でも自由に通れるようになっていた。
突如、妙にピースがあわない感覚を体全体で感じた。
「事故」だというのに横には傷一つもない綺麗なガードレール。警察がすぐに片付けた、いくつかの“確認不足”。
――これは本当に事故だったのだろうか。そんな疑問を匂わせ周囲を確認する。
ここに防犯カメラがあったらよかったのに。そう思った。
朝の事故を想像してしまった。「この写真に見覚えはないか?」ここ……知ってる「この道路の右側からトラックが走ってきたとされているんだ。この道路には死角が多く、うまく周りを見渡すことは困難なんだ」そうなんですね。
あの時どうでもいいと思っていた話がある思い出の橋になっていると感じた。
右を見ると終わりのないどこまでも続く道路が映っていた。そして思い浮かぶ霧のかかった小学生の頃の渚。
ほのかは道路を振り向くことなく家に駆けつけた。




