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来るはずだった親友が死んだ17

 誰もいない、電気も消されてしまった教室から一人、地球のそこまで落下中。

――――――


 投稿されていた動画や、ネットで調べたこと、近ちゃんから聞いたことのメモ。遡って思い出した記憶。何もかもが吹き飛ぶように、たったの彼の言葉で消えてしまうように感じた。


「月野、まだいたのか。もうみんな行っているぞ」


 大きな音を立てて教室のドアが開いた。その前に立っていたのが、近ちゃんだった。


「せ、先生⋯⋯」


 何も言えず、その場に立っている私を心配したのか、近ちゃんが駆け寄ってきた。


「もう無理だ」


「え?」


 ひどく心臓が体を動かした。


「渚のことはもういい」


「どういうこと⋯⋯」


 先生は冷たい目で私を見下ろした。足がガタガタと震えた。

 渚って、先生はやっぱり知っていたんだ。ずっと前から転校生のことを。


「彼女が殺されたとか、君は興奮し過ぎなんだよ。彼女は殺されていない。自分自身を殺したんだ」


 何を言っているんだろう。興奮しすぎ?私の何を理解して近ちゃんはそんな言葉を発しているんだろう。


「どうして、そう言い切れるんですか」


「彼女は自殺だよ」


「ずっと彼女は苦しんで死んだ」


――苦しんでいた?淡々と話す近ちゃんの言葉を一つ一つ理解していく。

 先生が発したとは思えない言葉を言われ、口が思い通りに動かなかった。聞きたいことがありすぎて、まず何を言えばいいのか、何を一番に伝えたいのかが頭の中をぐるぐると回った。


「何が言いたいか気づいたか?」


 短く、「え」とか「あ」とか言った。


「話が良くわかりません」


「君は頭が悪いんだね。渚との思い出を覚えていないのか?」


「思い出⋯⋯」


 先生の冷たい声に体を震わせながらも先生との会話を続けないといけないという思いを持ちながら、考えた。


「渚は私の親友です。だから、渚の本当の事実を知りたいんです」


「親友?」


 私は大きく頷いた。


「これに見覚えはないか」


 近ちゃんはズボンの小さなポケットに手を突っ込んだ。出てきたのは小さな鈴のついたキーホルダーだった。出てきた瞬間に、チリンと懐かしいような鈴の音が静かな教室を中心から波紋のように広がって行くような不思議な感覚に覆われた。


 そのキーホルダーに見覚えがあった。小学生の頃の遠足の日。私たちの学年は水族館に行った。思い出を遡る。

 渚と他の友達二人と一緒に行動していた。水族館を出る30分前、四人でお土産コーナーを見回っていた。「ねね、ほのか。このキーホルダー、ちょー可愛いんだけど」「まじそれな」友達二人がチリンと音を鳴らしながら私に向かって言った。「え、お揃いにしない?」いいね、という声が上がり、私は渚に視線を送った。「渚も買うよね」渚は驚いたように私を見てぎこちない笑い方をした。「渚は買えないよ」「お小遣い少なかったんだっけ?」「かわいそー」二人が話しているのを聞きながらも私は渚に顔を向けていた。「これくらい大丈夫でしょ。お揃いにしよ」私がそう言うと後ろから小さく二人の笑い声が聞こえた。



 あの時、私はどんな気持ちでその言葉を発していたのだろう。


 私は渚のお小遣いが少ないことを知っていた。


 からかうような二人の甲高い笑い声。



――私は渚をいじめていた。



 渚の持ち物を捨てたり、悪口をいうようないじめではない。いつも一人だった渚を仲間に入れ、何かあったときは彼女を使ったりしていた。私は本当の親友ではなかった。嘘の親友だった。渚の気持ちをえぐるようにするときの爽快感。

 

 今でもバクバクと心臓の音が聞こえる。呼吸を整えようとする。今までの記憶が180度、信じられないほどに大きく傾いた。

「私は渚の親友⋯⋯じゃない」

 

 近ちゃんが私を見る目は冷たかった。

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