表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で孤独死した俺、異世界転生したので今度こそ美少女たちと幸せなハーレム生活を目指します  作者: haremlove


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/42

第27章「ただいま」

第27章「ただいま」


────────────────────────────────


走った。


考えるより先に、足が動いていた。


金色の髪が、どんどん近づいてくる。


「ハル!」


ティナの声が、涙声だった。


「ティナ——」


俺の声も、掠れていた。


────────────────────────────────


ティナが、俺に飛びついてきた。


勢いで、二人とも地面に転がりそうになる。


なんとか踏ん張って、受け止めた。


「……っ、ハル……ハル……!」


ティナが、俺の胸に顔を埋めた。


肩が、小刻みに震えている。


「心配、した……すごく、心配、したんだから……!」


「……ごめん」


「謝らないで……帰ってきてくれたから……」


ティナの腕が、俺の背中に回った。


強く、強く抱きしめてくる。


痛いくらいに。——でも、離してほしくなかった。


「……おかえり」


その言葉に、鼻の奥がツンとした。


——帰ってきた。


ずっと会いたかった。ずっと、この声を聞きたかった。


「……ただいま」


声が震えた。情けない。でも、止められなかった。


────────────────────────────────


どれくらい、そうしていただろう。


ティナが、ゆっくりと体を離した。


頬に涙の跡が残っている。目が赤い。でも——笑っていた。


「……本当に、帰ってきた」


「ああ。帰ってきた」


ティナが、俺の顔をじっと見つめた。


何か言おうとして——でも、言葉にならないみたいだった。


嬉しさと、安堵と、それから——何か別の感情が、入り混じった顔。


そして——俺の後ろに視線を移した。


「……あ」


表情が、一瞬だけ固くなった。


サヤが、少し離れたところに立っていた。


腕を組んで、こちらを見ている。


その目は——どこか、居心地悪そうだった。


────────────────────────────────


ティナが、サヤに近づいた。


俺は、胸がざわついた。


この二人が顔を合わせるのは、あの手合わせ以来だ。


「……久しぶり」


ティナの声は、平静を装っていた。でも、わずかに硬い。


「……ああ」


サヤの声も、素っ気なかった。


「……また、会えるとは思わなかった」


「私も」


ティナが、サヤの前で立ち止まった。


沈黙が、数秒。


空気が重い。二人の間に、何か見えない壁がある気がした。


「……ハルを、助けてくれたんだよね」


ティナの声が、少しだけ柔らかくなった。


「……助けてねえ。勝手についてきただけだ」


「でも、一緒にいてくれた」


ティナが、頭を下げた。


「ありがとう」


サヤが、目を見開いた。


「……なんで礼を言う」


「ハルが無事だったから。それだけで、十分」


ティナが、顔を上げた。


笑っていた。


——でも、その目の奥には、別の何かがあった。


警戒。対抗心。それから——認めたくないけど認めるしかない、複雑な感情。


涙の跡が残る顔で、それでも——笑っていた。


「……変な奴」


サヤが、顔を背けた。


その声にも、困惑が混じっていた。


「……前も、そう言われた」


「覚えてんのか」


「忘れないよ。初めて手合わせした相手だもん」


ティナが、サヤに手を差し出した。


「改めて、よろしくね。私はティナ・ブランシュ」


サヤは、しばらくその手を見つめていた。


何を考えているのか、分からない顔だった。


そして——


「……サヤだ」


ぶっきらぼうに、手を握った。


────────────────────────────────


「おい、坊主」


レナが、俺の横に来た。


「感動の再会は終わったか?」


「あ、はい」


「避難民の引き渡し、済ませねえとな。村の責任者はどこだ」


「えっと——」


「俺だ」


低い声が、聞こえた。


振り返る。


────────────────────────────────


父さんが、立っていた。


腕を組んで、俺を見下ろしている。


その目は——怖かった。


怒りだけじゃない。何か、押し殺しているような。


「……父さん」


「……」


父さんは、何も言わなかった。


ただ、俺を見ている。


沈黙が、重い。


「……ただい——」


言い終わる前に、拳が飛んできた。


────────────────────────────────


頬に、衝撃が走った。


視界が揺れる。地面に倒れ込む。


「ハル!」


ティナの悲鳴が聞こえた。


「……っ」


頬が、じんじんと熱い。口の中に血の味が広がる。


殴られた。


本気で、殴られた。


「……約束を、破ったな」


父さんの声が、低く響いた。


「北に行くなと言った。お前は、行った」


「……」


「なんで行った」


俺は、地面に手をついて起き上がった。


頬を押さえながら、父さんを見上げる。


——怒っている。当然だ。


でも、後悔はなかった。


「……友達を、助けに」


「友達?」


「……大事な人が、いたんだ。北に」


父さんの目が、サヤに向いた。


サヤは、何も言わずに父さんを見返していた。


「……この嬢ちゃんか」


「……はい」


「……」


父さんが、俺の前にしゃがみ込んだ。


目が近い。逃げられない。


「お前、死ぬところだったんだぞ」


「……」


「途中で倒れて、傭兵団に拾われたって聞いた。違うか」


レナから聞いたのだろう。


「……はい」


「運がよかっただけだ。運が悪けりゃ、野垂れ死んでた」


「……」


分かっている。分かっているから、何も言い返せない。


「俺は、お前に生きてほしかった。だから、北に行くなって言ったんだ」


父さんの声が、震えていた。


怒りだけじゃない。——その奥に、何かがある。


「……母さんが、どれだけ心配したか分かるか」


「……」


「ユナが、毎日『兄ちゃんは』って聞いてきたの、分かるか」


胸が、締め付けられる。


「俺が——」


父さんの声が、詰まった。


大きな手が、震えている。


「俺が、どれだけ——」


────────────────────────────────


父さんが、俺を抱きしめた。


強く。


痛いくらいに。


さっき殴った同じ腕で、今度は——


「……馬鹿野郎」


声が、掠れていた。


「心配、させやがって……」


「……」


「でも……よく、帰ってきた」


父さんの腕が、俺の背中を叩いた。


がっ、がっ、と。乱暴で、でも——温かかった。


「よく、生きて帰ってきた……」


────────────────────────────────


俺は——気づいたら、泣いていた。


いつの間にか、頬を濡らしていた。


「……ごめん、なさい……」


声が震える。子供みたいだ。情けない。


でも——止められなかった。


「約束、破って……心配、かけて……」


「……ああ。怒ってる。すげえ怒ってる」


父さんの手が、俺の頭を撫でた。


ぐしゃぐしゃに、乱暴に。


「でも——お前が無事なら、それでいい」


その言葉に、また涙が溢れた。


怒られている。許されている。愛されている。


全部が混ざって、何が何だか分からなくなった。


「……ただいま」


「……ああ。おかえり」


────────────────────────────────


しばらくして、父さんが体を離した。


俺の顔を、じっと見る。


「……泣き顔、母さんに見せるなよ。余計心配する」


「……うん」


「拭け」


ぶっきらぼうに、袖を差し出される。


俺は、自分の服で顔を拭った。


父さんが、立ち上がった。


そして——サヤの方を見た。


「お前が、息子の友達か」


「……ああ」


サヤが、父さんと向き合った。


「サヤだ。ヴェルム村から来た」


「ガルド・カーマインだ。この馬鹿の父親だ」


サヤが、小さく頭を下げた。


——珍しい。サヤが、自分から礼をするなんて。


「……息子が、世話になった」


「世話してねえ。勝手についてきただけだ」


「そうか。——でも、礼は言う」


父さんが、サヤの肩を叩いた。


「うちの息子を、よろしく頼む」


サヤが、目を丸くした。


「……は?」


「避難民の受け入れ、村で話し合う。お前も、しばらくここにいるんだろ」


「……ああ」


「なら、うちに泊まれ。部屋くらいある」


「いや、そこまでは——」


「遠慮すんな。息子の友達なら、家族みたいなもんだ」


父さんが、にやりと笑った。


「——まあ、友達かどうかは知らねえがな」


「……」


サヤの顔が、わずかに赤くなった。


耳まで染まっている。


────────────────────────────────


「さて」


父さんが、レナの方を向いた。


「傭兵団の副長さんか。話は聞いてる」


「ガルド・カーマインだな。息子から聞いた」


レナが、父さんと握手を交わした。


「避難民の件、村で受け入れの相談をしたい。ついてきてくれ」


「ああ。頼む」


父さんとレナが、村の中へ歩いていく。


避難民たちも、それに続いた。


────────────────────────────────


俺は、その場に立ち尽くしていた。


頬が、まだ痛い。じんじんする。


でも——胸の中は、軽かった。


「……ハル」


ティナが、俺の隣に来た。


「大丈夫? 頬、腫れてる」


「……平気」


「嘘。すごく赤いよ」


ティナが、俺の頬にそっと触れた。


ひんやりした手のひらが、熱を吸い取っていく。


「……痛い?」


「……ちょっと」


「ガルドさん、本気で殴ってたもんね」


「……うん」


「でも——」


ティナが、微笑んだ。


「よかった。ちゃんと怒ってくれて」


「……?」


「怒ってくれるのは、心配してくれてる証拠だから」


その言葉に、胸が温かくなった。


ティナは——いつもそうだ。俺が言葉にできないことを、分かってくれる。


────────────────────────────────


サヤが、俺たちの方に歩いてきた。


「……行くぞ。置いてかれる」


「あ、うん」


俺は、歩き出そうとした。


ティナが、俺の腕に手を絡めてきた。


「え——」


「一緒に行こ」


ティナが、にっこり笑った。


その笑顔には——何か、意志のようなものがあった。


サヤが、それを見て——一瞬だけ、目を細めた。


「……勝手にしろ」


足早に、先へ行ってしまう。


「……サヤ、怒ってる?」


「……さあ。分かんない」


ティナの声に、かすかな棘があった。


俺の腕に絡めた手に、少しだけ力が入る。


「……でも、負けないから」


「……え?」


「なんでもない」


ティナの横顔は、笑っていた。でも——目だけは、真剣だった。


分からない。でも、何か大事なことを言っている気がした。


「行こ、ハル。みんな待ってるよ」


────────────────────────────────


村の中を歩く。


見覚えのある景色。見覚えのある家。見覚えのある人たち。


すれ違う村人が、俺に声をかけてくる。


「おお、ハル! 帰ってきたのか!」


「無事でよかったなあ」


「リーナさん、心配してたぞ」


俺は、頭を下げながら歩いた。


(帰ってきたんだ)


実感が、じわじわと湧いてくる。


足の下の土。馴染んだ匂い。聞き慣れた声。


全部が、懐かしかった。


────────────────────────────────


家が見えた。


玄関の前に、母さんが立っていた。


その腕には、ユナ。


「——ハル!」


母さんの声が、裏返った。


「ハル……! ハルーーー!」


母さんが、駆け寄ってきた。


ユナを抱えたまま、俺に抱きついてくる。


「よかった……よかった……!」


母さんの涙が、俺の肩を濡らした。


声にならない嗚咽。ずっと我慢していたのだろう。


「心配したの……すごく心配したの……!」


「……ごめん、母さん」


「もう……もう、いいの……帰ってきてくれたから……」


「お兄ちゃん!」


ユナが、小さな手を伸ばしてきた。


「お兄ちゃん、おかえり!」


「……ただいま、ユナ」


俺は、ユナの頭を撫でた。


妹の髪は、柔らかかった。


——守りたいものが、ここにある。


その実感が、胸に広がっていく。


────────────────────────────────


母さんが、体を離した。


涙を拭いながら、俺の顔を見る。


「……あら、頬が」


「……父さんに殴られた」


「まあ……」


母さんが、困ったように笑った。


「あの人、心配しすぎると手が出ちゃうのよね」


「……知ってる」


「冷やさないとね。中に入りましょう」


母さんが、俺の手を取った。


「……あら」


ティナとサヤに気づいた。


「ティナちゃん。それに——」


「サヤです。息子さんに、世話になりました」


サヤが、頭を下げた。


母さんの目が、少しだけ光った。


何かを察したような顔。


「まあまあ、丁寧に。——あなたが、ハルの……」


俺を見る。また、サヤを見る。ティナを見る。


そして——小さく微笑んだ。


「……とにかく、みんな中に入って。お腹、空いてるでしょう」


────────────────────────────────


久しぶりの、我が家だった。


見慣れた居間。見慣れた食卓。見慣れた匂い。


俺は、椅子に座って——深く息を吐いた。


「……帰ってきた」


「うん」


ティナが、隣に座った。


自然に、当たり前のように。


「おかえり、ハル」


サヤは、少し離れた場所に座っていた。


周りを見回している。落ち着かない様子だった。


「……落ち着かねえ」


「そう? ゆっくりしていいよ」


ティナが、サヤに声をかけた。


「ここ、ハルの家だけど——あたしもよく来るから。遠慮しないで」


その声は優しかった。でも——どこか、牽制のようにも聞こえた。


サヤが、ティナを見た。


しばらく、二人の視線が交錯する。


「……ありがとう」


ぼそりと、そう言った。


視線を逸らす。どこか、所在なさげだった。


────────────────────────────────


母さんが、温かいスープを持ってきた。


「さあ、食べなさい。旅で疲れたでしょう」


湯気が立ち上る。


野菜と肉のスープ。懐かしい味。


俺は、スプーンを手に取った。


一口、飲む。


「……」


喉の奥が、熱くなった。


——この味だ。


何度も食べた。当たり前だと思っていた。


でも、今は——


「……美味しい」


声が掠れた。


「そう? よかった」


母さんが、俺の頭を撫でた。


優しく、ゆっくりと。


「ゆっくり食べなさい。おかわりも、あるからね」


────────────────────────────────


窓の外を見た。


夕日が、村を橙色に染めている。


(帰ってきた)


本当に、帰ってきたんだ。


隣には、ティナ。


斜め前には、サヤ。


台所には、母さん。


どこかで、父さんが避難民の受け入れについて話し合っている。


みんな、ここにいる。


俺の——帰る場所。


スプーンを握る手に、少しだけ力が入った。


守りたい。


この場所を。この人たちを。


前世では、何も守れなかった。何も残せなかった。


でも、今は——


(今度こそ)


その思いを、胸の奥にしまった。


────────────────────────────────


【第27章 終】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ