表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で孤独死した俺、異世界転生したので今度こそ美少女たちと幸せなハーレム生活を目指します  作者: haremlove


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/33

第9章「名前を呼ぶ声」

第9章「名前を呼ぶ声」


────────────────────────────────


森での一件から、三日が経った。


「ハルー!」


朝。いつものように、ティナが家の前まで迎えに来た。


「今日は何する?」


「んー、川に行かない? 暑いし」


「いいな。行こう」


夏の盛りだった。朝から陽射しが強く、少し歩くだけで汗が滲む。


ティナと並んで歩きながら、俺はふと気づいた。


二年前より、ティナの背が伸びている。


俺と同じくらいだったのが、今は俺の方が少しだけ高い。


金髪が、陽の光を受けてきらきらと輝いている。


——それと、どこか雰囲気も変わった気がする。


二年前にはなかった、大人びた空気。


(いやいや、何考えてんだ俺は)


慌てて視線を逸らす。でも、一度意識したら気になって仕方ない。


「どうしたの? 変な顔して」


「な、なんでもない。背、伸びたなって」


「ハルの方が伸びたんじゃない?」


「そうかな」


「そうだよ。あたし、追い抜かれたもん」


ティナが、少しだけ頬を膨らませた。


「悔しい」


「悔しいって言われても」


「だって、昔は同じくらいだったのに」


「男の方が伸びるんだよ、たぶん」


「知ってるけど」


ふん、とティナが鼻を鳴らす。


でも、すぐに明るい表情に戻った。


「まあいいや。魔法はあたしの方が上手くなってるし」


「……それはどうかな」


「何その顔。信じてないでしょ」


「信じてる信じてる」


「絶対信じてない!」


二人で声を上げながら、川へ向かった。


────────────────────────────────


村の外れを流れる川は、子供たちの遊び場だった。


浅瀬があって、水が澄んでいて、暑い日には最高の場所。


「冷たい!」


ティナが、足を水に浸けて声を上げた。


「気持ちいいね、ハル」


「ああ」


俺も隣に座って、足を水に入れる。


ひんやりとした感触が、火照った体を冷やしていく。


ティナが、ばしゃばしゃと足を動かした。水飛沫が飛んで、俺の顔にもかかる。


「おい」


「あはは、ごめんごめん」


全然悪いと思ってない顔だ。


——その時、風が吹いた。


ティナの金髪が風になびき、陽の光を受けて輝いた。


(……綺麗だな)


思わずそう思った。視線を逸らそうとして、逸らしきれない。


二年前は何とも思わなかった。でも今は——


「ハル? 顔、赤くない?」


「暑いからだ」


「そう? 水に入ればいいのに」


ティナが首を傾げる。その仕草で、鎖骨のラインが目に入った。


(落ち着け。幼なじみだろ)


無理やり視線を水面に向ける。


しばらく、二人で並んで座っていた。


「……ねえ、ハル」


「ん?」


「この前、森で魔獣に会ったって聞いたけど」


俺は、少しだけ体を固くした。


「……誰から聞いた?」


「パパ。ガルドさんから聞いたって」


ダリオさんか。父さんが話したんだろう。


「大丈夫だったの? 怪我とかしてない?」


「してない。大丈夫だった」


「本当に?」


ティナが、俺の顔を覗き込む。


ヘーゼルの瞳が、心配で曇っている。


「本当だって。ほら、どこも怪我してないだろ」


「……うん」


ティナが、少しだけ安堵したように息を吐いた。


「よかった」


「心配かけて悪かったな」


「ううん。でも、もう一人で森に入っちゃダメだよ」


「分かってる。父さんにも約束した」


「ならいいけど」


ティナが、水面を見つめる。


しばらく、沈黙が続いた。


「……ねえ、ハル」


「なに」


「誰かに助けてもらったって、聞いた」


俺は、水面に視線を落としたまま答えた。


「ああ。たまたま通りかかった人がいて」


「どんな人?」


「……俺と同じくらいの年の、女の子」


ティナの手が、水面で止まった。


「女の子?」


「ああ。槍を持ってて、すごく強かった」


「……そうなんだ」


ティナの声が、さっきまでと違った。低いのではなく、何かを押し殺しているような——妙に平坦な声だった。


「名前は?」


「サヤ。北のヴェルム村から来たって言ってた」


「サヤ……」


ティナが、その名前を小さく繰り返した。


俺は、ティナの横顔を見た。


いつもの明るさが消えている。何を考えているのか——いや、何を感じているのか、俺には読めなかった。


「ティナ?」


「なに」


「どうかした?」


「別に。何でもない」


ティナが、水面を蹴った。


水飛沫が上がって、俺の顔にかかった。


「うわっ」


「あはは、かかった」


「何すんだよ」


「仕返し」


「何の仕返しだよ」


ティナが口元だけで笑う。でも、目が笑っていなかった。


——俺は、その違和感に気づいてしまった。


「……ティナ」


「なに?」


「怒ってる?」


「怒ってないよ」


「嘘だ。なんか変だ」


ティナが、俺を見た。


一瞬だけ、目の奥で何かが揺らいだ。


「……怒ってないよ。ただ」


「ただ?」


「……ちょっとだけ、悔しいなって」


「悔しい?」


ティナが、膝を抱えた。


「あたしじゃ、ハルを助けられなかったから」


その言葉に、俺は何も言えなかった。


「あたしも魔法使えるようになったけど、まだ全然弱い。ハルが困ってる時に、何もできない」


「……」


「その……サヤって子は、ハルを助けられたんでしょ」


「まあ、結果的には」


「だから、悔しいの」


ティナの声が震えた。


——違う。声だけじゃない。膝を抱えた指先が、白くなるほど力が入っている。


「あたしも、もっと強くなりたい」


その横顔を見ていたら、胸の奥がきゅっと締まった。


ティナは、俺のことを本気で心配してくれている。


俺が誰かに助けられたことを、自分のことのように悔しがっている。


でも——それだけじゃない気がした。


ティナの「悔しい」の中には、もっと複雑な何かが混ざっている。嫉妬とか、焦りとか、もどかしさとか——たぶん、ティナ自身にも名前をつけられないような。


「……ティナ」


「なに」


「一緒に修行しよう」


ティナが、顔を上げた。


「え?」


「俺も、もっと強くなりたい。一人じゃ危ないって分かったし。だから、一緒にやろう」


「……いいの?」


「いいも何も、元々俺が教えるって約束しただろ」


ティナの表情が、少しだけ緩んだ。


「うん……うん!」


「よし。じゃあ明日から、毎朝修行だ」


「分かった。頑張る」


ティナが、にっと口角を上げた。


いつもの、太陽みたいな——でも、その目の奥に、さっきまでとは違う光が灯っていた。


────────────────────────────────


その日の夕方。


家に帰る途中、ティナが言った。


「ねえ、ハル」


「ん?」


「その、サヤって子」


「……うん」


「また会うの?」


俺は、少しだけ考えた。


「分からない。向こうは北の村に住んでるから」


「そう」


「でも」


「でも?」


「……また会いたいとは、思ってる」


正直に言った。


言ってから、なぜ正直に言ったのか分からなかった。ティナを傷つけるかもしれないのに。


——でも、嘘はつきたくなかった。


ティナが、足を止めた。


「……そう」


その声は、いつもより小さかった。消えそうなほど。


「ティナ?」


「なんでもない」


ティナが、歩き出す。俺も慌てて追いかけた。


「待てって。どうしたんだよ」


「どうもしてない」


「嘘つくなよ」


「嘘じゃない」


ティナが、俺を見た。


夕陽を背にして、金髪がオレンジ色に染まっている。


「ただ……なんか、変な気持ち」


「変な気持ち?」


「うん。よく分かんないけど、胸のあたりがもやもやする」


ティナが、自分の胸に手を当てた。


「悲しいような、悔しいような……よく分かんない」


俺には、それが何なのか、なんとなく分かった。


分かったけど、言葉にはできなかった。言ったら、何かが変わってしまう気がした。


「……ごめん」


「なんで謝るの」


「よく分かんないけど、謝った方がいい気がした」


ティナが、ぷっと吹き出した。


「何それ」


「いや、だって」


「変なの」


「お前に言われたくない」


二人で声を上げた。


でも、何かが変わった気がした。


俺とティナの間に、今までなかった何かが生まれた。


それが何なのか、まだよく分からなかったけど。


「……ハル」


「うん」


「あたし、負けないから」


「何に?」


ティナは答えなかった。


ただ、まっすぐ前を向いて歩いていった。


俺はその背中を見ながら、なぜか「サヤ」の顔を思い出していた。


黒髪。灰色の瞳。冷たい声。


ティナとは、全然違う。


でも、どちらも頭から離れない。


────────────────────────────────


その夜。


俺は、ベッドの上で二人の顔を思い浮かべていた。


金髪のティナ。


黒髪のサヤ。


ティナのことは、昔から知っている。一緒に育った。守りたいと思う。優しくしたいと思う。笑っていてほしいと思う。


でも今日——膝を抱えた横顔とか、夕陽に染まった金髪とか、そういうものが頭にちらついて、なかなか消えない。


(……俺、ティナのこと、どう思ってんだ?)


分からない。幼なじみ。大切な存在。それは間違いない。


でも、それだけじゃない何かが、芽生え始めている気がする。


——そして、サヤ。


あの子のことは、まだほとんど知らない。


ボロクソに言われた。馬鹿だと言われた。調子に乗るなと説教された。


なのに——また会いたい。


悔しくなる。負けたくないと思う。認められたいと思う。


あの子にボロクソに言われて、それでも次は見返してやりたいと思う。


(……なんだ、これ)


ティナへの気持ちとは、全然違う。でも、どちらも「気になる」という点では同じだ。


上手く言えない。好きとか嫌いとか、そんな単純なものじゃない。


(……どうなるんだろう、これから)


分からない。


でも、何かが動き始めている。


それだけは、確かだった。


────────────────────────────────


【第9章 終】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ